第72部 メノウとダイヤと8人目?
この章はとても長いです。いいアイデアが浮かばずに苦しんで書きました。
皆さまも苦しんで読んで下さい。よろしくお願いします。
イカレ所長のハバロフスクは、教授らを尾行していた。そして途中の道の秘密を解いている。本当のコアイ・マラルの陵墓を探し当てていた。教授らが行った陵墓はダミーだったのだ。
ハバロフスクは本当のコアイ・マラルの陵墓で、レイピアを見つけた。このレイピアは巫女の継承者が持つ呪術の、祭祀の神具である。
装飾を施した柄には、ダイヤを嵌めこんであった。また、手を覆う湾曲した金属の飾りの先には、宝石を嵌めこむ3つの穴が空いている。
ハバロフスクはチンギス・カンの陵墓で、このレイピアを持って待つというのだ。このレイピアを桜子に覚醒させ、巫女の三人を消し去るのが目的である。
宝石は、ブルートパーズとヒスイ。と、メノウである。だが今時点で有るのはブルートパーズとヒスイで、メノウはまだ見つかっていない。ヒグマがメノウなのだが、宝石を持っていないのだった。
綾香と彩香のブルートパーズとヒスイの力は、クリナとアナスタシアに返された。少し惜しい気もしただろうか。
カムイコロ、クリナとアナスタシアこの三人も同じ巫女だがルーツが違った。ジンギス・カンの母方のボルテ・チノが祖先であった。
1952年8月(昭和27年)モンゴル・アウラガ遺跡
今か今かと日本の巫女を待つハバロフスクであった。年齢は67歳だろうか。性格は丸くならずに、今でもイカレているか? である。
面と向かって対峙するのは初めてとなる。ハバロフスクは楽しみで胸が一杯だった。子供じみている。今回も、ハバロフスクの愚計その5? 位にはなる。
今回は、レイピアを持っている。これで巫女を封じる魂胆だ。また、大きな切り札をも用意している。
「アラン・ドロン・女。もう準備は出来たかい。モンゴル・スフバートルでの敵陣視察はどうだったかい?教えておくれ」
スフバートルのホテルで、酒やお茶を飲んでいたのはこの三姉妹だった。
「うん、この前はしてやられたけれども、今回は三人が揃ってますから、勝ちますわ」
「それはいい。期待していますよ。我が可愛い娘たちよ」
「しもべの女の人狼も、二匹を用意出来たよ。思う存分こき使っておくれ」
「可愛い子分だね。男は5匹居るの?」
「6匹だね。しっかりと使いこなせよ」
「はい、お父様。頑張るからね!」
「ところで、今度の巫女の血の味はどうだい?」
「若い巫女の血を下さい。古だぬきはおいしくありませんわ!」
「それは、すまなんだ! でも力は出ただろう?」
「ええ、でも、まだたくさんの巫女の血は欲しいわ。早く捕まえてね? お父様」
1952年8月(昭和27年)モンゴル・イラニ
「安部教授、それに三浦教授もですよ、日本にはいつになったら帰られますのかしら。8月は明日で終わります」
「もう少しここに留まりたいのですよ。あのお婆さんはうそを言ってます。何を隠しているのかを、調べたいんですよ」
「えぇ? あの二人のお母さんが、うそをですか?! それで?」
「それとも何かい? 俺らを追い返したのかな?」
「・・・・・・・・・そうですが・・・」
心に思い浮かべた。
安部教授は、
「でしょう? オオカミが森に娘の二人を置いていったまではいいとして、なら ば、実母にはならないでしょう。しかし、クリナとアナスタシアは確かに巫女だし、あの婆さんも巫女だよな? 変じゃないかい?」
「そうですよね。言われてみれば、ミョウチクリン! です」
「オオカミもそうですよね。竹林とオオカミの組み合わせはないよ。だから、もう暫く調べたいのさ」
安部教授と澪霧の会話が続く。姉の沙霧はもうお払い箱にされている。二人でよろしくやっているだろ。
一方、木之本署長と刑事課の課長、VS 綾香と彩香のバトルが始まった。
「署長さん、暫くここに残りましょうよ。私たちは力が無くなりましたのよ? お分かりですか?」
「綾香くん、そうは言ってもですね、先に進みませんと、話も進みません。だから、早くアウラガ遺跡に行きたいのです」
「ダメです。澪姉さんと他4名の巫女だけで戦うのは、絶対に無理です」
「う~、う。そう言われると、そうだよな。しかしだよ? 機動隊の5人もいるしさ、 な~、刑事課の課長。何とか言ってくれよ!」
「何とかね~!」
「?????、??・・・・・ それで終わりか! この薄情者!」
この四人の会話が続く。他の巫女たちは近くを調査しているので、ここには誰もいない。母の桜子はまだ休養中で父の智治も母についている。
クリナとアナスタシアは懐かしい両親にべったりと、いつも一緒にいる。カムイコロはメノウを探したいらしくて、近くの山々を歩いている。
最後に、二人の教授の探究心の事を話したら、ようやく署長も課長もここに暫く留まる事に決めた。
「な~、署長と課長さん。ここはみんなの意見を聞き入れましょう。だってですよ? 私らには大した力は無いのですよ?」
「白川課長、それはそうですが・・・・」
「署長さん? 私も賛成します。妹たちを尊敬しなさい!!!」
「ははーぁ、巫女さまの仰せのままに・・・・」
という訳で、ハバロフスクには悪いが、約束には遅れて行く事になった。そして、ブルートパーズとヒスイ とメノウ。クリナとアナスタシアの秘密。と老婆の秘密。もう一つ、オオカミという単語に込められた意味。これらを解き明かす事に決まった。
この日の夜。クリナとアナスタシアの両親を除く全員が集まった時に、このなぞなぞを探してみることに決まった。頼みの綱である桜子は、昨日の出来事の記憶は無くなっている。「ヒグマが娘だと? 記憶にございません」と言う始末だ。
機動隊の5人は常に警備をしている。本田女史と吉本さんは教授というのが判った。よく見たら、たくさんの資料を持って来ている。トラックを走らせては、どこかに出かけている。
ここで見る事の出来るオオカミは、灰色オオカミである。しかし、黒色オオカミの伝承があることが分かった。カムイコロが聞きつけてきた。
「黒色のオオカミですか? ここでは見ません。それ以前に存在するのですか?」
老婆は答えた。
Tereljに巨石の建造物が在るというので、見に行く事になった。この岩のある村に黒色オオカミの伝承が残っているらしい。口伝だから詳しい事は絶望的だろうか。ここは山あり谷あり林あり、大きい川もある。オオカミの生息環境にはちょうどいいかもしれない。
イラニからトラック2台で行った。Tereljは綺麗な街だった。針葉樹の並木で街は彩られている。観光名所らしくて、訪ねたら直ぐに分かる所にあった。
「なんだい、この岩は。まるで大きなカメだね」
「そうですね。カメですね」
カムイコロの言い回しに、本田女史は相槌をうつ。
吉本教授は何かの遺跡かもしれないと言うが、ただの岩の固まり? が正解だろう。
「なー、あんたは考古学のえら~い学者さんだろう? 黒色オオカミについて何か考えろよ。分かんないなら帰れ!」
本田女史は、
「教授も形無しですね。汚名挽回のいい考えは無いのですか」
「はい、ありません」
「しゃーねーなー」
カムイコロは澪霧に、
「あんた、あのカメの頭に飛んでみてよ!」
「もう、罰当たりなこと言わないでください」
「そうかい、罪作りになるかな」
「綾香と彩香。あの頭にクマを飛ばすわよ、手伝って!」
「澪姉さん。私たちは今は力がありません。・・・クリナとアナスタシアさんお姉さまと一緒にお願いね」
「はい、クマさんを飛ばして見せます」
クリナとアナスタシアはピンクの文様を出してクマさんを投げ込んだ。
「あ、そういう手があったね、楽ちんだね」
「きゃー、落ちる。落ちた!」
「もういい眺めだよ。これなら何か?????見えてもいいかも?」
「何か見えた~!」
「な、双子。そこの足元な。昔は小さな岩が在ったようだよ。こうーなんというか、頭の中にビジョンが見えたのさ!」
「クリナとアナスタシア、飛び降りるから、ピンクの文様をカメの頭の下に広げてちょ!」
「はい、いいですよ」
「怖いわね~。結構高いのよね~」
「ぎゃー、落ちるー、落ちた~」
「もう騒がしいクマだね。で、どうすんだい」
クライが尋ねる。カムイコロはある提案を言う。
「あんたら巫女の全員で過去に飛んでくれないか。昔はここに小さな岩を積み重ねた祭壇が在ったようなんだ。その祭壇を調べてきてよ」
「もう、難しいこと言わないで。いつの時代まで飛んだらいいのよ」
「なぁ、シビル。うるさいクライは無視して、みんなで飛んでくれないかな」
「ああいいよ。さ、みんな集まって。10年単位で飛んでみようか」
「そいでさ、祭壇が在ったら大きく蹴とばしてくんないかな。きっと中からは宝石が出ると思うから」
「いいよ、やってみる。手を繋いで、3,2,1、ゼロ?」
沙霧と澪霧、綾香と彩香、クリナとアナスタシア。クライとシビル。デルフィナとソフィア。一斉に目の前から消えた。そして直ぐに帰ってくる。
「どうだい、有っただろう?」
「そうね、有ったわよ。メノウ?かしら」
「どうれ、見せてよ!」
「カムイコロさん、どうぞ。きれいな宝石ね」
シビルは琥珀色の綺麗なメノウをカムイコロに渡した。カムイコロは宝石を握り締めている。本当にメノウのようだ。カムイコロはふらつく。
「戻りましょう。さくらお母様に封印を解いて頂くわ!」
「やはりそれが、あなたの宝石かしら?」
「そのようよ。でさ、誰がここの小さな岩を壊したのかな。お礼をしなくては」
「そりゃ~、あの二人よ」
「あの二人はどの二人よ!」
「お礼をしたいのよ、力いっぱいにね!」
「骨が折れるから、だれも教えないで!」
アナスタシアが言った。
「ほほう、抱きつかれて骨が折れる? だと言うのかい」
「分かったわ、抱きついたりしないから、言いなさい」
「嫌だ! ピョーン」
新参になるクリナとアナスタシアが小さな山を、新しい魔法で壊した。だから現在は小さな岩を積んだ山が無いのだ。もう1個ある宝石は飛び散った。
これでカムイコロが覚醒すれば、メノウの宝石の謎が解決する。
桜子と智治、ホロとルカは、Tereljの街を散策していた。
「ねぇ、さくら。ここの博物館を観てみようよ。何か解るかもしれないよ」
「そうね智治さん、行きましょうか」
四人は小さな民族資料館へ入った。モンゴルの遠い昔の衣裳や写真のパネル展示。出土品、オオカミのはく製が展示されている。
中央のガラスケースが頑丈に作られて鍵を掛けてある。中を覗くと!!!
「わーぉ、ね、桜子さん、これはダイヤモンドじゃないかしら。カメ岩の下で見つかった、と書いてあるわ」
「なにない、ルカさん。.....あらホントだ。これはダイヤだね」
「そうかい? さくら」
「智治さん、さ! やるわよ。強盗よ、戦争よ!」
「おいおい、さくら。ここでは強盗は出来ないよ」
「いや、ホロお母さん! 絶対に手に入れる。鉈を持ってきて」
「桜子さん、夜まで待ちましょうよ。ね?」
「う~ん、嫌だ。直ぐに欲しい。欲しい~ぃ!」
駄々をこねる桜子であった。
ここに先ほどの巫女たちが到着して合流する。巫女の全員はメノウの拾得の報告を忘れて、ガラスケースのダイヤに見とれる。
「さくらお母様。このダイヤが欲しいのですね」
クリナが声を掛けた。そして、巫女にも声を掛ける。
「さ、またカメ岩に戻るわよ、戦争よ。争奪戦よ!」
「はい?」
桜子は自分を見ているようで、すっきょんとん? な返事をした。ららら?巫女らは四人の背中を押して民族資料館を出たら、駆け足でトラックの荷台に飛び乗った。
「お父様、さぁ早くトラックを運転して。南西の方角、5Kよ、急いで!」
民族資料館を見学してた四人は訳も分からずについて行った。5Kを3分で走破した。巫女の一人が落ちていて、テレポートしながら追いかけてくる。
「もう、ひどいわよ。ルカさん、怒るわよ、キーーーー!」
「さくらお母さん。メノウが見つかりました。次はダイヤです」
またもや、巫女たちが跳んだ。
「キャッホー!」
民族資料館の中ほどに在ったガラスケースが音もなく消え去った。全員は意気揚々でテントに戻る。途中で、本田女史と吉本教授を忘れた事に気づき1台のトラックは拾いに戻った。そして、今では四人になった教授らが驚いていた。
この後直ぐに宝石の封印が解かれ、カムイコロと桜子が蘇えった。カムイコロと桜子は神着になったのである。カムイコロは本当の人間になり、桜子はダイヤを手にしたから、大巫女の力を得た。桜子はやはりコアイ・マラルの生まれ変わりだった。
「桜子さん、色黒の女性を拾ってきました。言葉もろくに話せずにいましたから保護したのですが・・・・・」
「おや? チャラカイ・リンクゥ、じゃないかい。どうしたんだい?」
「お姉さま? なの?」
屋外の炊事場に居たカムイコロ、そしてクリナとアナスタシアが驚いて叫んだ。桜子に8人目の娘が誕生した。
読者の皆さま、桜子に8人の娘をこさえてしまいました、すみませんです。
女の名前は、マラル・サラマッシ・ロ、という。顔が黒いから本当かもしれないのだ。ペルシャ(1930年代までのイランの旧称)の生まれだそうだ。
この女性は、コアイ(COAI=黒曜石。別名がオオカミの牙。厄除け 開運お守り ペンダント等に利用される)のペンダントを持っていた。
カムイコロのメノウも、涙の形の18面体に形作られた、コアイと同じ形の穴のあるペンダントような宝石だ。レイピアの核心に近づく。
この女性を老婆、クリナとアナスタシアの母に会せることにした。とにかく老婆のうそを見破らなければならない。桜子が命じれば何らかの事情は聞けるだろう。
桜子は、マラル・サラマッシ・ロに尋ねた。
「お前! どうしてここに居るんだい? どこから来たのか、言えるかい?」
「ええ、よく判りませんが、カスピ海の畔の村に住んでいました。70歳程の老人が突然やって来て、ここに連れられてきて、放り出されてしまいました」
「他には? 何か・・・・」
「他には、三姉妹がいつも一緒に居ました。もう一人女の人が居ました。あの老人のような人でした」
「あの老人? もしや、ホロ、と呼んではいなかったかい」
「ええ、確か・・・ぁ、そうですね」
「あ、しまった! ホロ婆さんに事情聴取を忘れていたわ! 何たる不覚!」
「それに、あの老人は、名前が・・ババロニア? みたいな」
「よく解ったわ。今日はたくさん食べて休んでおくれ!」
「はい、????・・・」
「お母さんと呼んでいいよ。チャラカイ。お前は遠い昔の私の娘の生れ変わりなのだよ」
「はい、お母さま!」
「うぅひょ~~~~、桜子さん。気前よく娘を増やしてもいいのですか?」
「だって、クライ。もうしゃ~ないだろう。な、な?」
しばらくして、ホロ、クリナとアナスタシアと二人の母が呼ばれてやってきた。
「クリナとアナスタシア、夕食の準備中に呼び出してすまないね。お前の母に聞きたい事があってさ」
「何でしょうか、?? あれ? もしかして? その、コアイ・マラル?様」
「ええ、そうですよ。転生して蘇生いたしました。このダイヤは分かるかい」
「いいえ、初めて見ます」
「お前は本当に、クリナとアナスタシアの母ですか? 言っている事に矛盾が多くてさ、分かんないのだよ」
「勘弁してくんなまし。本当の娘はアナスタシアだけです。クリナは無き姉の娘でございます」
「やはりそうでしたか。乳飲み子で引き取ったから、二人には分からなかったんだね」
「そうです。我が子のように育てるつもりでしたが、私は病気になり乳が出なくなりまして、仕方なく里子に出しました。養生して乳も出るようになったのですが、迎えに行った時にはもう居ませんでした」
老婆は涙を流して泣き出した。
「ホロお母様。こちらの娘さんはご存じかな?」
「おやおや、お皿の白いお嬢様ですか。どうしてここに?」
「70位の爺さんに、ここへ放り出された! というんだい。そうかな?」
「はいはい、あのハバロフスクに誘拐されていました。ひどい扱いは無かったので、最初はハバロフスクの子供と思っていましたよ」
「お婆さんは、このマラル・サラマッシ・ロ? という名前に聞き覚えはないでしょうか」
「サラマッシは一番上の姉の名字ですわい。最後のロはダジャレでっしゃろ。色が黒いから、もう覚えていないが姉の娘に間違いないですわい」
クライは、
「だんだん話が繋がってきましたね」
「じゃぁ、お婆さん。オオカミとはどういう意味ですかいな」
「それは、コアイ(黒曜石)にオオカミの牙! という意味がありましてな、コアイ・マラルさまのコアイと同じです。遠いご先祖様の氏の名前ですわ」
「では、お婆さん。クリナは母親が連れて来た? という意味ですね」
「そうです。クリナを預けて直ぐに死んじまったです」
「ええ? そうなんですか! 本当の母がもう死んでいると!・・・・」
クリナは突然の事に気が動転してしまった。そんなクリアをアナスタシアは慰めるために両親のゲルに連れて行った。
「最後になるかな。ここには私のお墓が在るのですか?」
「あなた様は生きておいでです。まだお墓は要りませんでっしゃろ?」
「いいえ、コアイ・マラルの陵墓です。近くにあるのですね」
「私には分かりません、在るとも無いとも言えますがな」
ここでホロが、
「在りますよ、あのハバロフスクが見つけて、発掘してしまいました。直ぐに呪いで死ぬでしょうけれども」
吉本教授が言った。
「おお、そうですか。ぜひとも行きたいですね。行かせて下さい」
「教授。今度行く所は、ジンギス・カンの陵墓です。良かったですね。
ただし命が有れば? ですがね・・」
「もう、嫌な言い方ですね。冗談はよしてください、阿部教授」
「私ら二人は9月になりますから、明日に帰国いたします。それから沙霧さん。旦那さんも帰国なさいます。たった今決まりました」
「ええ? そんな。では、お父さんも?・・・帰るの?」
「ああ、すまないね。ここに居ても、名前すら出て来ないだろう? もういい加減すねちゃんになったのさ」
「このソフィアさまはどうなるんだい。全然名前も出ないよ。デルちゃんもね」
「あんたらは明日から活躍するんだから、帰れないよ」
今晩が最後ということで歓送迎会が行われた。歓迎はマラル・サラマッシ。帰国は、三浦。安部の両教授。父の智治とホロお婆様。フィアンセの白川課長。
「まだ他に帰りたい者はいるか。手を挙げて!」
木之本署長と帰国組以外は全員が手を挙げる。
「そうかい、そうかい。俺は手を揚げたいよ」
翌朝は、帰国する5人の見送りと、マラル・サラマッシの覚醒。マラル・サラマッシは恐らく二日は寝込むから、この村にはあと二日は滞在するだろう。
1952年9月(昭和27年)モンゴル・イラニ
「白川さん、お気をつけてお帰りください。何かありましたら直ぐに跳んでまいります」
「沙霧さん、大丈夫ですよ。あなたのお父さんも一緒だし、ね?」
「お父さん、白川さんをしっかり守ってくださよ。お父さんは二の次です!お願いしましたよ」
「おうおう、言ってくれるじゃないか。俺の命に代えてでも守るよ。任せな!」
「ホロお婆ちゃんも今日まで大変でした。帰国されましたら、ゆっくりお酒を飲んでくださいね。それと、父さんの見張り! よろしく」
「沙霧! もうそれ位でいいだろう。安部教授と三浦教授、ありがとうございました。お気をつけてお帰りください」
「さくらちゃん、役に立てなくてすまなかった。ちゃんが帰国するのを楽しみに待ってるよ」
別れの挨拶が続いている。
「さようなら~~~」
「さようなら~~~」
「さようなら~~~」
騒がしく5人が帰っていく。5人もパーティーから抜けるのだ、寂しい気持ちになる。
「さて、マラル・サラマッシの覚醒だね。マラル! 今から腹いっぱいに食べておくれ。目が覚めたら、そうさねー、5kは痩せるからね」
「これ以上やせましたら死んでしまう、しまいます!」
「はは、そうかもね。だから5kは食べるんだよ」
マラル・サラマッシも、老婆のようにやせ細っている。食が足りないのではなく、遺伝なのかもしれない。クリアをアナスタシアはアメリカで、単に肉の食べ過ぎで太っている? とも思われた。
「お母様、太っている? とは、ヒドイです」
マラル・サラマッシは覚醒に備えて簡易ベッドに横たわる。
「お母様のベッドを占拠してしまい、すみません」
「いいよ、可愛い娘だもの、遠慮は要らないって」
「チャラカイ・リンクゥ。我は汝に力を授ける。ピンイン、ネクズ・キヤン。今ここに巫女としての力を受けよ! アクス・ファティーマ!」
黒のコアイが白く強く輝きだした。同時にマラル・サラマッシは深い眠りについた。桜子はダイヤを右手に。カムイコロはメノウを左手に持たせる。
マラル・サラマッシは長い夢を見る事になる。黒曜石の記憶はマラルの母から始まる。
あ、お母さん。とても綺麗なお母さんだ。わか~い。あら? お母さんの横に居る黒い子供? はだれ?
「アラル。外は寒くなったから、さ、ゲルに入ろうか」
「うん、今日の夕食は何かな、ねぇ、ねぇ、なに?」
あの子供は、アラル? 私なの? じゃぁ、向こうの丘に見えるのは、お父さん?
ここはどこかしら、モンゴルの大地なのかな。大きい海が見えるわ。え?あれは湖なの? ここは暖かいわ。緑も大きな木もたくさん見える。
もう~、寒いな~。こんなに雪が積もっている。私の故郷では雪は少ないのよ。ここはどこかしら。大きい木は少ない。どこからか、? オオカミかしら遠吠えが聞こえる。
「起きたかい? オオカミがうるさいから眠れないね」
「お母さんなの? ここは何処かしら」
「お前には分かるかな、オスマン帝国のロムニアだね。カルパティア山脈の山の中ね。この山にはたくさんのオオカミが居るんだよ」
(ロムニア=ルーマニア)
綺麗な山が見える。ここはどこかしら。高い山には雪だね、白く見える。
「ねぇ、お父さん。(お父さん?なの!)ここはどこかな。お母さんは居るの? ねぇ、お父さん」
「おや目が覚めたんだね。ここはロシアのシベリアだよ。コアイは直ぐに戻るからね。外で待っていなさい」
「うん、そうする」
「マラル、マラル、マラル。もう起きていいのだよ。マラル」
「うん、コアイお母さん。まだ眠たいよ。もう少し寝る!」
「我は、マラルに命ずる。イサナキオ! 頭に鉄槌を与えん。ボコ」
「キャーッ」
「やっと起きたか。この寝坊助!」
久しぶりに桜子の呪文がさく裂した。ここに居る全員はマラルの悲鳴を聞いて笑い出した。一番笑ったのは四姉妹だった。
「わ~、懐かしいな。お母さんの呪文。私も目が覚めたわ」
「おやおや、彩香。正義に目覚めたとでも言うのかい?」
マラルが寝込んでから二日が経過している。
「お母さん、頭が痛い。ふらふらする。起こして連れて行って!」
「カムイコロ、あんたがいいわね。抱えて運んでくれないかい」
「あいよ、川や? だね!」
「ついでに投げ込んでもいいよな。着替えも持って行ってね」
「や~だ、ひどい事しないで!」
「あいよ、優しく放り込むさ!」
みんなは笑い出す。四姉妹とクリナとアナスタシアは夕食の準備にかかる。ソフィアとデルフィナは、クライとシビルを相手に、魔法の特訓を受けている。
しばらくの間の幸せだっただろうか。
早く、第2部・人狼 Zweiを終わらせて、第4部・人狼夫婦と妖精 ツインズの旅、を書きたいのですが、いまだに第2部終わりません。全構想は、7~9部作の予定です。 第3部はかなり遅れます。




