第69部 ターニャの救出へ 急襲を受け、巫女に危機が迫る
1952年8月(昭和27年)ソビエト・スフバートル
ハバロフスクからシベリア鉄道でイルクーツクまでは、三日三晩の時間が掛る。日本からは機動隊の50人をはじめ、沙霧と澪霧、それからシビルの三人の巫女と共に、警察庁の生活安全局の白川課長と警視庁の刑事課課長が居る。あまり役には立たないエリートだが、組織には頭が必要だ。頭脳の頭という意味ではない。
日本からの55人は、機動隊の30人が武器の警護をしている。6人態勢で8時間の警備を行う。他の者は酒も許された。だが狭い日本の国土にいる日本人だ、この広い大地での三日三晩には大きく堪えた。約二人を除いてであるが。アメリカに続くソ連での婚前旅行になっている。その先は地獄だというのに。
シベリア鉄道で二日間を過ごした巫女らと白川は、四人で先にイルクーツクへテレポートした。白川としたらテレポートは2回目になる。白川本人は鉄道で行きたかったらしいのだが、シビルと澪霧がそれを許さなかった。
白川の心の中では、「勘弁!勘弁!勘弁!勘弁!・・・・・」の文字が並ぶ。またしても目を回した白川だった。無事に『アンガラ・ホテル』前に着く。
シベリアの巴里と呼ばれるイルクーツク・アンガラ川沿いの観光スポットを見た四人は、街の美しさに感嘆した。沙霧と澪霧は二回目だが、ソ連軍に追われる身の上だったので、15年前は街の美しさを見る余裕が無かった。
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しかし、1937年(昭和12年)からは15年もの歳月が流れているし、第一にここイルクーツクでもウランバートル同様に、シベリア抑留日本人の労力で建設されている建物が、たくさん増えている。15年前に比較したらとても綺麗になった都市だろう。シベリア抑留日本人ばかりでは無く、ポーランド人やその他の、モスクワから囚人や政治犯が多数流刑地としてのイルクーツクに流され、これらの者も都市建設に強制労働を強いられて建設された。
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二人は広場の中央に立つ、『スパスカヤ教会』を憧れの眼差しで見ている。
目的を忘れそうになった三人だ。シビルはどこまででも冷静である。本当にシビル=魔女! だと言える。澪霧とシビルは面倒だ! とばかりに、二人でアンガラ・ホテルへテレポートした。
「すみません、今日の予約でそのう、杉田か木之本ととかで、日本人旅行者の18人の予約が入っていると思いますが。チェッインしていますでしょうか。私どもは明日から宿泊する予定の、白川と言います」
「はい、白川さま。ご宿泊ありがとうございます。日本の団体さまは、まだお見えではないですね。遅れるという連絡も入っておりません」
「あぁ、そうですか」
残念そうに二人は顔を見合わせる。がっかりとした表情だったのだろうか、フロントマンが声を掛けた。
「日本国からのご予約でございますね、ちょっと気がつきませんですみません。今日からお部屋は押さえておりますので、ご宿泊なさいますか?」
本当に気が利くフロントマンだ。私たちの事を気に掛けてくれている。
「ええ、そうして頂ければ私たちは助かります。二部屋を先にお願いします」
「はい、かしこまりました」
明日からは決戦が始まるかも知れないのに、スタートで悪い予感しかしない。二人で力を合わせてテレパシーを妹二人に送るも、返事は無かった。
澪霧とシビルは、沙霧と白川課長の二人を探した。二人は噴水公園で直ぐに見つかる。
「見つけたわよ! もう随分と探して回ったのよ! 右足は棒のように腫れているんだからね」
うそである。女はとかく派手に演じたくて、随所にうそを交えて話す生き物だ。
「さ、ホテルへ行きましょう! お部屋を頼んできたのよ」
などなど、声をかけるも返事は無かった。夫婦喧嘩でもないようだが、とにかく二人は機嫌が悪かった。澪霧とシビルには無視して二人の会話が進む。
「俺は列車に戻る。だから届けてくれ。ぜ~ったいに、気絶はしないからさ」
「なんでさ! せっかく二人になれたのよ。嬉しくないの?」
「それは嬉しいに決まっているさ! でもね、今すぐに列車に戻る必要があるような、とても強い感じがするからさ!」
「お二人さん。もう夫婦喧嘩は止めましょうよ。どうしたの?」
「うん、このテレポート嫌いな奴がね、今すぐに列車に戻りたいと言うのよ。でも私一人ではテレポートは出来ないから、そう言っていたの」
「あらあら、沙霧お姉さま! でしたら巫女も三人が揃いましたよ?」
「すまぬ澪霧さん。至急テレポートしてくれないか」
「しゃーないな。お二人さんと旦那?! 行きましょうか」
シビルの掛け声で四人はテレポートで列車の中へ跳んだ。
「きゃー、なんだい君たちは! 何処から湧いたんだ!」
「あら? ごめんなさい。今日は何日かしら」
「?え?、今日は昨日の次の日だよ、何か?」
「沙霧! しっかりしなさい。明日に飛んでどうするの! もう困ったちゃんね!」
「んなことを言っても・・・・」
「え~と、この列車は動いていませんね。どうしてかしら?」
「昨日、この先で事故が起きたって。だから今は線路の点検中なのよ」
「あらそうでしたか。よい旅を!」
四人は改めてテレポートして列車の中に飛んだ。
「おや? もう帰ってきたのかい?」
課長が声を掛けたのだった。直ぐに列車が止まる。
1952年8月(昭和27年)モンゴル・スフバートル
その頃スフバートルでは、すでに決戦の前哨戦が行われていた。
昨日の午前に話が戻る。
「智治、そこをどいて!」
桜子は不安になり、智治の背中をとても力強く押した。智治は驚いてよろける
も、直ぐに立ち直る。
次の瞬間に爆発と共に桜子の身体は大きく弾き飛ばされた。智治には事情が分
からない。直ぐに桜子に駆け寄る。
「おい、さくら! しっかりしろ! さくら!・・・」
ホテルから大きな爆発音がしたので、巫女たちも慌てて音の方向に走る。
「キャー、お母様!」
「おい、智治くん、どうしたんだい!」
フロントのカウンターが大きく損傷している。桜子は瞬時に逃げを打っていた
ので、背中に爆発の衝撃を受けて気絶している。後頭部や足・手には少し出血が
有るくらいで、見た目は大した事はないように見えた。ホテルのレディはもっと
悲惨で顔から血を流して倒れていた。
野次馬も多数集まる。木之本は職業柄か、ニキータと野次馬の制止を行う。
教授の二人は桜子の怪我の状態の知見に努めた。常日頃の桜子だったら、多分
直ぐに起き上っただろうが、ヘンティー山脈以来元気がない。だからかもしれな
いが、完全に気を失っていた。ぐったりとしている。
「お母様! お母様!」
双子とクリナとアナスタシアは泣きながら母を呼んでいる。ホテルからは
支配人らが駆け付けた。
「おい、直ぐにミハイルを呼べ! それから医者も呼んでくれ!」
「はい、支配人」
ミハイルは年配の男性で、ホテルの客の急病人を診る専門医だ。だが、診立て
だけの簡単な市販薬の投与だけで、大それた治療は出来ない。
「皆さん、少し落ち着いて下さい」
「・・・・・・・・・」
「失礼します」
気を失った桜子に、そう言って触診を始めた。最初は手足から、次に頭と首。
最後に腹や胸、背中に触っていた。
「大丈夫ですよ、とてもお強いご婦人です。頸椎の捻挫はあるでしょうが、骨折
はありません。ひどい筋肉痛だけで済むでしょう。全治3週間です!」
「はい? 3週間ですか!」
「ええ、痛みが消えるまでの3週間です。寝たきりの3週間とは違います」
ミハイルはそう言ってカバンを持って、フロントレディの元に走っていく。
止血はすでに行われていたが、直ぐに専門の止血を施して包帯が巻かれる。
暫くして支配人は二人の教授の元へ来て、
「お部屋の用意をさせています。直ぐに用意はできますので、お客様をご案内
いたします」
両教授はもちろん、智治や綾香と彩香。クリナとアナスタシアがついていく。
残ったニキータ デルフィナ。ソフィア カムイコロ ゴルバチョーフ クライ
は近辺の調査を始めた。今のところ、爆発以外は何もなさそうだった。敵の姿は
確認も出来ていない。その後もホテルに留まり警備を続けた。
「ノック!ノック!ノック!」
部屋に入って直ぐにノックがあり、ホテルから呼ばれた医者が立っていた。
「お怪我の様子を診にまいりました。入ってもよろしいでしょうか」
白衣を着た男と看護婦の女の二人が部屋の入口に立つ。
「どうぞ、お入り下さい」
と、安部教授は二人を部屋に入れようとした。
「待って! 教授。その二人は入れてはダメ! ダメだよ!」
クリナが大声で叫ぶ。同時に綾香と彩香は臨戦態勢をとる。クリナが大声で
制止した所為で、医者と看護婦はバックを部屋に投げ入れて逃げていった。
特に女は男を見捨てて速く走って逃げていた。
今度はアナスタシアが大声で叫んだ。
「そこをどいて! 爆弾よ・・・。この~ぉ~・・・」
アナスタシアはバッグを思いっきり窓に蹴とばした。
「ナイス、彩香! グッジョブ!!!!」
彩香はアナスタシアの声に反応して、とっさの判断で窓を開け放っていた。
バックはアナスタシアに蹴られて空へ飛んで行く。
「ボルテ・マジック」「ボルテ・スクエア」
クリナとアナスタシアは、二人同時に呪文を唱えた。それも飛んで行くバック
にである。窓から落ちて行くバックにはピンクの模様が包み込み、やがて大きい
音と共に爆発した。二人の結界のお蔭で何も被害は出なかった。
巫女の4人はその場にへたり込んだ。本当に緊張した3秒だった。わずかの
3秒か4秒だっただろうが、四人にはとても長く感じた。そして倒れてしまう。
「キャッハー、びっくりしたー。死ぬかと思った~」
「そうだね、クリナとアナスタシアは凄いや。私にはとてもとてもマネは
できっこない」
アナスタシアは爆弾を蹴とばしたので、死ぬかと思ったと言った。
綾香と彩香は、クリナとアナスタシアのコンビネーションを見て、とても感心
してそう思ったのだ。その一瞬の出来事には全く反応出来なかった男どもは、
「わ!・・・・・・」
「わ、」だの「げぇ、」だのとしか言わなかった。もし爆弾が部屋で破裂して
いたら、全員は★になっていただろう。
「私たちが入って直ぐに医者が来たもの。偽物と思っただけよ!」
クリナはそう言った、クリナの直感に全員は救われた。
桜子は爆弾の破裂した音で目を覚ました。
「ノック!ノック!ノック!」
今度は本当の医者と看護婦がやって来た。
「ノック!ノック!ノック!」
階下にいた全員が走って来た。
「どうしたの? 襲撃なの・・・・・?」
「そうなのよ、だからね、クリナが・・・・・・・・・そんでね・・・・・・」
説明が続いている。
イルクーツクに向かうシベリア鉄道の一行はこの騒ぎを知らない。ただ言える
ことは、今までとは違う戦いになるという事だ。木刀や剣の戦いは終わり、近代
兵器での戦いとなった。巫女たちには応戦も出来なくなった。
安部教授、智治、カムイコロ、、三浦教授、の4人はトラックの元に行って
作業を始めた。もちろん、銃撃戦に備えての対策にである。
クライ、ゴルバチョーフの二人が鉄板? 等の買い出しに行った。
今晩はホテルに泊まった。地元警察も警護をしている。私たちはただの旅行者
で関係ありませんと、しらを通した。
翌日になり、イルクーツクに向かうことにした。怪我が気がかりの桜子は智治と
二人で残る事にする。
残りの全員は車とトラックに乗り込む。とても暗い車内になっていた。
スフバートルのホテルを出て一時間もしない郊外で予定通りの襲撃を受ける。
「ばこ~ん」
「襲撃を受けたわ。弾が鉄板に当ったのよ」
「ばこばこ~ん」
「OKよ、みんな。力を合わせて魔法を放つわよ」
「見えないんですけど・・・」
「ばこばこばこ~ん」
「もう、大丈夫よ!空に放てばいいのよ」
「あ、そうだね!」
「アクア・バードスプラッシュ」
「ファイヤー・バードスプラッシュ」
巫女の力を侮っていた人狼兵は、ことごとく破れさる。
「ぎゃ~、あち~」
遠くで悲鳴があがる。
「最強の魔法だわ!」
「アクア、ショット!」「ファイヤー、ショット!」
「アクア・バードスプラッシュ」
「ファイヤー・バードスプラッシュ」
「アクア・バードスプラッシュ」「ファイヤー・バードスプラッシュ」
魔法攻撃が飛び交い、逃げる人狼兵をどこまででも追いかける。そして命中!
次々に人狼兵は倒されるのだった。第一戦は巫女の完勝に終わった。
スフバートルを出て直ぐに襲撃を受けたが無事に交わした。次に大きい街は
ウラウンデだ。スフバートルからは200kはある。この距離は何とか辛抱出来
よう。途中で襲撃されたので所要時間が削られた。ウラウンデに臨時停泊なら
ぬ臨時宿泊とした。
予定外の宿泊だったので、敵も気づかなかったようで襲撃は無かった。
真夜中まで警戒したが何も起こらなかった。
「敵さんも疲れているんだ。夜には眠りたいのさ!」
気楽なことを言うのは誰だろうか。行方不明のホロお婆様の手がかりは依然と
して無い。他人の事よりも、今の自分を守るのが精一杯なのだから仕方がない。
ウラウンデからは200kのパニコフカに差し掛かる。
あと少しでイルクーツクに着くのだが、パニコフカで国道の道路工事が
なされていた。旧道へ迂回の指示表示が出ている。しばらく停車して他の車の
通行を見る。1時間で3台の車が行き来した。ダミーだとは思わなかった。
ここで国道の道路工事がなされているかを確認すべきだっただろう。しかし、
車に揺られた脳みそでは、そのような考えも浮かばなかった。ミスである。
「多分、本当の道路工事でしょう。私たちも行きましょうか」
国道を右に折れて少し細い道を走った。
パニコフカはブイドリノのほんの少し前である。バイカル湖と森があるだけで
他には何も無い。旧道とバイカル湖の間にはシベリア鉄道が施設されている。
直ぐに木々の多い道路になった。
「ダメ~、車を止めてちょうだい。砲弾が落ちる~」
ヒューン、ヒューン、ドーン、ドドーン。ヒューン、ヒューン、ドドーン。
またもやクリナが大声を出した。クライは間髪を入れずにトラックを急停車
させた。直ぐ前に砲撃の弾が落ちて破裂した。
ヒューン、ヒューン、ドーン、ドドーン。ヒューン、ヒューン、ドドーン。
トラックは危機一髪で難を逃れるも、先の乗用車には直撃した。
乗用車には、安部教授、沙霧、澪霧、ゴルバチョーフ、ルカ、の5人が乗って
いる。車は見事に横転した。運転しているのは安部教授だった。
「わ~、大変だ!」
そう言ってカムイコロは急いで荷台から飛び降りた。
「待って!みんな、トラックから降りて! 次にまた砲弾が来るわよ。森に隠れ
ましょう。救護はそれからよ」
「ボルテ・マジック」「ボルテ・スクエア」
「ボルテ・マジック」「ボルテ・スクエア」
「ボルテ・マジック」「ボルテ・スクエア」
クリナとアナスタシアはあらん限りの力を振り絞って、乗用車に結界を張る。
そして、
クリナが大声でみんなを先導した。これは正解であった。動かないトラック
は瞬時に吹き飛んだ。
ヒューン、ヒューン、ドーン、ドドーン。ヒューン、ヒューン、ドドーン。
「わぉ!」
「キャッ! 粉々ね。参るわ!」
吹っ飛んだとかは関係なしに砲弾が次々に飛んでくる。乗用車にも次々と
落ちている。爆発は激しく5発や6発どころではなかった。次々と着弾するの
で救助とかは出来ない。クリナとアナスタシアは結界を張るだけで精一杯なのだ。
ヒューン、ヒューン、ドーン、ドドーン。ヒューン、ヒューン、ドドーン。
結界で守られている乗用車の中は、さながら地獄だったろう。
ヒューン、ヒューン、ドーン、ドドーン。ヒューン、ヒューン、ドドーン。
「お姉さま! 助けて~」
綾香は力の限り叫んだ。叫んだところで姉の二人には聞こえるはずはない。
でも叫んだ。自分を鼓舞するかのように続けて叫ぶ。
「沙霧~、澪お姉さま~~~」
ヒューン、ヒューン、ドーン、ドドーン。ヒューン、ヒューン、ドドーン。
ヒューン、ヒューン、ドーン、ドドーン。ヒューン、ヒューン、ドドーン。




