第46部 双子の新学期 と、謎の留学生
1950年3月(昭和25年)東京都・神田区
姉の二人の卒業式は、桜子の号泣で始まり卒業祝いのパーティで暮れた。
今度は妹の二人の入学式だ。
「お母さん、合格よ! やったよ!」
桜子は泣きもせずに、
「そうよ、当然よ」
4月7日は入学式だ。おまけがついていた。入学式の壇上でスピーチをしなくてはなりません。双子ですので、どちらが行っても? 誰も気づかない。母の桜子は唯一の例外だ。絶対に入れ替わりは不可能なのだ。
「どうするのよ、全校生徒の面前よ! 分かる?」
「彩香、頑張ってね! 応援するからさ」
「もう、そんな。あり得ない」
「自分が悪いんでしょう? いい点数を取るからよ」
「だって、緊張してさ、一生懸命に回答した結果だもの。姉ちゃんみたいに、計算して回答は出来ないわ」
「何よその言い方は、打算的と言ってよ! 彩香に負けた事は認めるわ。でも変な言いがかりは許容できないからね」
「うん、ごめんなさい。でも、さ、どがんしたらよかろうか」
「二人で原稿を考えようか!」
「そうね。お姉ちゃん達にも応援を頼もうか!」
母の桜子は3日前に東京を出ている。今日位には帰り着くだろう。
「智治さん、今帰りました。お母さまには家の事を押し付けてすみません」
「お帰り、桜!」
「大変だったね、疲れただろう。息子の面倒は面倒だったよ」
「あら? 智治! 何か面倒をかけたの?」
「いいや、何にもないよ。晩酌の相手をして貰ってただけだよ」
桜子は? 台所へ行き、戸棚を開けた。6本の酒が無くなっていたのだ。
「これはこれは、さぞかし大変だったろう」
と、独り言を言って居間に戻った。
「お母さん、智治の面倒をありがとうございます。大変だったことが良く判りました」
「おうおう、そうだろう。すまないね、酒を4本も飲んでしまったよ」
桜子は4本の意味を考えた。
「まあ、大変だったのは、智治だったか。お母さまを面倒見るのが大変だったのね! 可哀そうに、酒は2本しか飲めなかったのか」
「息子の面倒は面倒だったよ」とは、智治がお母さまの面倒を見た! という意味が本当なのだった。
その頃東京では、姉が国家公安委員会の独身寮へ引っ越しした。荷物の整理と搬出で忙しかった。とはいっても、大した荷物にはなっていない。妹が家具類は引続き利用するのだから。大変だったのは、妹の荷物を跳んで運ぶ方だった。
「おやおや、今日もまた二階が騒がしいね!」
桜子が目を細めて独り言を言った。
「あら、茶菓子が二階から降って来たわ!」
ホロお祖母さまが喜んでいたのだった。
1950年4月(昭和25年)東京都・神田区
姉を国家公安委員会の独身寮へ追い出した妹の二人は、札幌には帰らずに荷物の整理と、入学式の挨拶文を考えていた。
いよいよ入学式の前日になった。
「こら、双子! 居るかー」
どこかで聞いたセリフで母の桜子が上京して来た。
「お母さま、お疲れさまでした。どうぞどうぞ」
「もうこの前から本当に大変だよ」
とは言っているが顔は疲れた表情では無かった。
1947年1月4日に、石炭事情悪化で急行列車・準急列車が全廃されたのだが、夜行列車も廃止されたかが不明だ。1949年9月に特急列車が復活するダイヤ改正が組まれた。(3日あれば札幌から東京へ上京出来る? かは自分勝手な想像でしかない。)
その夜は久しぶりに母と会えて喜ぶ双子だった。
翌日、
「二人がこうして大きくなって、私も嬉しいよ」
「私たちも問題なくここまで来れたから、喜んでます」
「どこの娘の為に、学校に呼び出されたか覚えてないのかい?」
「そうね、もう忘れたわ。お母さんも楽しかったでしょう?」
「ああ、昨日、一昨日のように思い出すわね、この不良娘!」
「はは、ごめんなさい」
「そうよ、綾香が一番面倒を起こしたのよね」
「なぬを言うか、彩香。同罪だよ、同~罪!」
「さ、大学へ案内してもらおうかね!」
「はい、お母さま。和服も上出来で御綺麗です!」
初めて見る母の絣の和服姿であって、双子も綺麗な母を見れて幸せだった。
「そうかい、お前は和服を褒めるんだね」
「ええ? そんな事はありませんわ。お母さんは年を経る毎に綺麗になって行くのだもの。きっと生まれた星のせいだわ」
ちなみに二人の服装も和服である。それも姉譲りの・・・・・。
新入生代表挨拶。たどたどしくて、雰囲気に合っていて大きい声で良く話せたものだった。途中3回も笑いが湧いた。
ちなみに、4年後と5年後には姉と同じく、卒業生代表の挨拶もこの二人が壇上に立つのだった。(二人の卒業式を待たずに完了する予定です。)
4月10日、大学の初日が始まった。クラスの定員は25名。双子ということで少々浮いた感じがするが、とある二人によりより目立つ存在となる。
1時限目は1回限りの必修科目で、文教育学部の基本説明である。履修科目の選定と時間割の組み方、高校教員へ向けた大学の基本方針や理念の講義。と、クラスの自己紹介がなされた。双子の面は知れ渡っている。一人が二人だから二つの同じ顔が並べば誰にでも判別ができる。この双子に接近した者が居た。
「私、スザンナ。こちらはリリィよ。どお? 見分けがつくかしら?」
「ええ? お二人も双子なんですね!」
「そんなに驚かないでちょうだい。嘘だとバレますよ」
「ごめんなさい。二卵性の双生児ですよね。スザンナさんがお姉さんね」
「そうよ、スザンナ、リリーでいいわ。私たちは留学で来たんです。あなた達より1歳上かしら。お友達になってくださいね」
「ええ、喜んで」
どちらも姉どうしの会話だ。彩香は澪と同様に第一印象で相手を見抜く? 才能が備わっている。その綾香が感じた事は?
「この人は嘘を言ってる。齢は3つは上だわ。そして、整形? でもしたような顔で似せているから危険だ!」
その後も彩香は会話には加わらないで観察を続けた。同時にリリーも観察をしているようだ。
「ほら、リリー! 人見知りしなであなたも挨拶しなさい」
「初めまして! リリーよ。よろしくね」
同じく黙っていた彩香も、
「私は彩香。こちらは姉の綾香よ。よろしくね」
「サヤカさんとアヤカさんね。ええ、有名なお二人ですからよく存じております」
「有名? なのですか! 私たちは」
「そうですよ、そうなんです。そうですわ、お二人の見分けが出来ましてよ」
「ええ? そうですか? 明日からは楽しみです。ぜひとも名前で呼んで下さいね」
説明開始から30分で一応の説明が終わり、各自で時間割を組上げる30分も過ぎた。次は年次単位の講義の組み方に移行した。
「これらの項目を受講して、成績は 優が50%、良が45% 不可が5%で卒業できます。ちなみに必修は優でなければなりません。よろしいですね」
他の生徒が質問した。
「先生! 不可の5%とは、どういう意味でしょうか」
「選択科目で手抜きをされて下さい! という意味です。ですので追試を受けなくてもいい、という事になりますか」
「はい分りました」
「可、という基準がありません。試験点数は、優が80点。良が60点 不可は50点以下です」
「講師陣は全力で講義しますので、皆さんは苦しんで学んで下さい。以上です」
講師は説明が終わると振り返り黒板に文字を書いた。
「日本の未来は子供の教育に掛かっている。その子供を教育する貴女に日本の未来が掛かるのだ!」
今後の双子にはアメリカの留学生が、常に一緒に居るようになる。
このスザンナとリリィは、何処と無く目つきが鋭い! 双子の行動を見張るような感じなのだが、双子は気づかない。外人と接するのは初めてで、人相とかは区別がつかないのだ。
今日の講義は、おのずと必修科目が用意されている。初日から選択科目とかはあり得ない。続く必修科目2限で初日は終わった。明日からは自ら作成した時間割で受講するのだった。
4人が教室を出て芝生のある広場に来た。人が沢山いた。
「演劇部で~す。お芝居に興味はありませんか~」
「楽器を楽しく奏でませんか、吹奏楽部へどうぞ」
「ごっあんです、相撲部は無いが柔道部はありますよ~」
そのような部活勧誘の事実があったかは調査しておりません。帰宅部?という言葉もありません。
「私たち! 帰宅部です」
在校生のクラブ勧誘を断るのが大変だった。もう直ぐ校門だという所で双子が捕まった。
「あなた達は、沙霧さんと澪霧さんの妹さんですね」
「ええ? え、そうですが・・・・・何か」
「私たちは先輩のお二人から、妹さんの二人の面倒を見るように頼まれました」
「姉たちが何かしでかしたのでしょうか」
「いえいえ、大したことではありませんが」
「そのような事は知りませんが?」
「それは異なことを仰います」
「本当に何も聞いてはおりません」
「私たちの部へ入部して下さい」
「で、その部とは?」
「はい、剣道部です」
「私は薙刀部! です」
「スザンナ! リリィ。私たちはこれで失礼します。また明日会いましょう!」
双子は逃げて行った。
「ねえねえ、あなた達! なんであの二人は逃げて行ったの?」
「ええ、あの双子の姉にこっぴどく道場破りに遭いましたのよ。恨みを晴らさんと待ち構えていたのです」
「それは同情しますが、待ち伏せで入部はしませんわよ」
「そうでした、失敗です!」
クスクスと笑いながら、スザンナとリリィは帰っていった。しかし、剣道部は諦めなかった。諦めれば良かったものを強引に入部させたのだった。功労者はスザンナとリリィであるが、この二人も揃って剣道部に入部した。
この4人のお陰で、全国制覇するが他の部員は大いに迷惑した。当然だろう。
剣道部は、実質4人で制覇されてしまう。




