第44部 第1回 さっぽろ雪まつり 祝!卒業
1950年2月(昭和25年)北海道・札幌市
沙霧と澪霧は2月15日で学校の学業が終わった。終わる事が出来るのは、就職を勝ち取った者だけで、就職未定者は引き続き学校に案内される企業を訪問し仕事を探して回る。欠員補充の二次募集も見逃せない。追試も受ける学生も結構多いのであった。
卒業式の3月14日まではとにかく自由だ。2月16日から二人は里帰りで汽車に乗って東京を離れる。昨年の8月に刑事課の課長さんより勧められた、国家公安委員会の試験を受けるべく、猛勉強に励んでいた。受験は10月だったから、それこそ寝る間も惜しんでの苦行だった。12月に目出度く合格する。
刑事課や安全課の推薦状があったかもしれないが、学業の首席卒業見込みが一番の要因だろう。14日の卒業式に出席するには、10日に実家を出ればいいだろうか。卒業式には母も参加すると言っているから嬉しくもあった。
勤務先の配属は、国家公安委員会 総務課・広報室に決まった。課長さんや署長さんよりも偉くなってしまう。4月1日の入庁式を待たずに、3月20日の月曜日より研修に入る。10日間の研修が29日に終わり、4月1日の土曜日が入庁式になる。
「さ、澪。帰るわよ!」
「うん、姉さん!汽車で帰るのは疲れるね!」
「そうね、跳んで行きたいけれども、妹が居ないと出来ないし」
「お尻が痛くなるけれども我慢と根性ね!」
そうは言ってもきっと寝てるだろう。ソフィアはモスクワに帰る予定と言っていたが、卒業式までは日本に滞在するよう学長に命じられていた。なぜなら、ソフィアが卒業証書を、モスクワの自宅に送って欲しい”と言ったからだった。これが、墓穴を掘る、ということか。
1950年2月18日から1週間、第1回さっぽろ雪まつり開会される。二人の目標がこの雪まつりの参加であった。多分、高校の同級生も集まるから、懐かしい人にも会えるのだ。
目指す参加項目は、スクウェアダンスだ。残念ながら男の子が居ないので、妹の二人を誘っての4人での参加となる。二人に恋人が出来るには、もう暫くかかる予定だ。
このスクウェアダンスは、転倒者続出で30分で中止となった。歌謡ショウや演芸大会、スキー仮装行列なども行われる。
これから帰郷した二人のお話が始まる。18日の土曜日、雪まつりが始まった日。
「ただいま~」
「今帰りました。お母さま、お祖母さま」
「はいはい、お帰り! 寒かっただろう。早くお上り!」
「うん」
「お姉さま、お帰りなさい」
ホロお祖母さまと妹二人が玄関まで出迎えた。父と母は留守らしい。奥からは? 何だか聞き覚えのある声がするようだ。二人は荷物を廊下に置き居間へと進んだ。襖を開けると、
「わ~麻美お母さま! いらっしゃってましたか。お久しぶりです」
「阿部教授もお久しぶりです。少し白髪が増えましたか?」
「何を言うか。まだ55だぞ!」
「でも、+10歳の65歳の筈ですよ?」
「ああ、そうだ。ここの連中はみんなが+10歳だもんな」
「なんだか複雑ね! 神隠しに遭ったような感じよね」
と、麻美が付け加える。
エストニアから帰国までに10年が費やされているから、本人も理解出来ていなかった。
「綾香、お母さんはお父さんとまた実家かしら」
「ええそうよ、いつもの様に、戦争よ! と言って出て行ったわ」
「母さんも戦争が好きなのかな!」
「沙霧お姉さま。それは違いますわ。それもこれもお姉さまお二人の為に! です」
「そうね、分っているわよ」
「あ、そうだ。あんた達の大学受験は、上手く出来たのかしら?」
澪が忘れた頃に尋ねた。沙霧が、
「そうだった、どこの大学を受験したのよ。教えなさい!」
「え~、イヤだ。まだ合格するまでは内緒よ! ね~?」
二人して教えてくれなかった。
「でも、これだけは教えてあげるね?お姉ちゃん」
「ええ? どこよ!」
「私たちも女子大ね!」
綾香が答える。
「新制大学のね、今年の4月1日 文教育学部が出来る所よ!」
「ダメよ、彩香! そこまで言ったらばれてしまうわ」
「ええ? どこよ。女子大? 多くは無いけれども、幾つか在るわね」
「ぎゃはっははは~」
教授が笑い出してしまった。教授が勧めた大学でもあるのだ。
「なんですか、教授! 教授の差し金かしら?」
「そうだな、後は桜子さんに訊いて下さい」
最後まで二人には明かされなかった。新制大学のお茶の水女子大学だ。姉の二人が旧制の東京高等師範学校である。同じ大学だった。
玄関にある二人の靴を見てから桜子は、
「只今~。もう二人は帰ってるかしら」
お母さんの声を聞いた二人は急いで出迎えた。
「お帰りなさい、お母さま」
「お父様、お帰りなさい」
「おう、只今!」
「父さんは休みだったの?」
「そうさね、雪が多いから土曜日は休みになってるよ」
「へ~、仕事が無いんだ」
「バカ言え! 仕事が出来ないんだ! の間違いだぞ」
「そうじゃないのよお姉さま。昨日までは雪まつりの雪像造りに駆り出されていたのよ」
「それは大変でしたわね!」
「そうなんだ。体中が痛くて堪らないよ! 揉んでくれるか?」
「15年前の様に踏んであげるね」
「う~ん、潰れそうだ!」
「まあ失礼な!」
「お父さん! 私たち4人でね、仮装してスクウェアダンスに出るんだ!」
「ほほう、それはいいな! で、服は? どんな衣装で?」
「内緒よ! ホロお祖母さまに頂いたものよ」
「お母さん、いったい孫に何を与えたんですか! 未来の衣装とか勘弁して下さい」
「あら? 何かあったかしら。覚えていないわ」
ホロは痴呆になっていない、とぼけているのだった。心の中では、
「ふっふっふ。明日が楽しみだわ!」
明日は4人で曲芸まがいのダンスを披露するのだった。
それから女5人で夕食の準備で忙しく働いた。お祖母さまはもうリタイヤになっていた。父と教授とお祖母さまは早くから酒盛りになっていて、麻美には二人が入れ替わり立ち代わりで接待をしていた。
夕方の5時過ぎた頃には、教授の家族が集まって宴会が夜更けまで続く。
翌日。雪は降らなかったが、いつもの冬の曇り空だった。雪まつりは、第二次世界大戦の混乱を過ぎて、久しく途絶えていた冬の祭を纏めて再現? した趣旨で企画立案された。札幌市を盛り上げようという事で始まる。
4人は二階で静かに着替えた。衣装の上から大きいコートを着れば普通になる。一応家族にはまつりに行くと声を掛けたが、ロクな返事は返ってこなかった。
4人は嬉々として出かけた。4人が集まるのは本当に久しぶりで楽しいものだ。
「今日は2日目で、お客さんは多いといいね!」
「こんなひらひらした衣装で恥ずかしいわ」
「でも誰も気づかないし、仮面を付けるよ。大丈夫だって!」
人通りの少ない路地に入ってコートを脱いだ。手提げの袋から仮面とコートを入れ替えればそれで済む。沢山の観光客だし変に思われる事は? 多分無い。
すすきのの会場に着いた。大通りでは観光課の職員が受付をしている。順番は早い者順だから、結構早いかも知れない。
「スクウェアダンスにエントリーしますので、お願いします」
「あら、双子ちゃんじゃないの。もう可愛い衣装で!」
「や~だ~、沙織じゃないの。役所勤務なの?」
「ううん、ただのバイトよ! 父が観光課にいるからさ、手伝いに来ているのね」
「じゃぁ、特等席で見ててね。超~恥ずかしいけど頑張るから」
「楽しみね! 転倒しないようにしてね。ほら、あそこ! もう転んでるわ」
「あら、妹だわ。本当ね。注意して踊るね!」
「これ、参加バッジ。胸に付けておいて」
「OK!」
もう沙霧は戦闘モードに入った。開始まではまだ30分はある。
「準備運動よ! 澪、始めようか」
「OK!」
澪も戦闘モードに切り替えた。
「私たちは自己流だから、アップテンポの曲を頼んでくる」
沙霧は事務局に頼みにいった。飛び入りは私たち4人とアメリカの軍人さんの夫婦と、同じくアメリカ人の人が数組らしい。団体競技は近くの高校生が披露するという。
スクウェアダンスは、曲に合わせてフォークダンス? か、民族ダンスのような感じの踊りだ。
「わ、スローテンポ。とてもついて行けないわ!」
「そうね、特にお姉さまのお二人はね」
「これじゃ一緒には踊れないよ」
各自勝手な事を並べ立てている。すると、東ヨーロッパのような民族衣装を着た若い婦人が近寄って来た。
「私たちも一緒してよろしいでしょうか。私も曲がスロー過ぎるので踊れませんし、もう一人も同じ考えですの」
「ええ、ご自由にどうぞ。でも私たちは本当に自己流ですので、一緒に踊れる事は出来ませんよ」
「それで十分です。よろしくお願いします」
「みんな、それでいいかしら?」
「異議な~し!」
3曲目が終わって転んだ回数が12回だった。観客は転んで慌てる様子を見て大いに沸きあがった。
「最終回は高校生の団体というから、この次に頼んできたわ。みんないいかしら」
参加者の衣装を見たら大同小異、メイド服とそう変わりはない。4人は安心していた。合図があったので全員は中央に集まった。そして直ぐに曲がかかる。
曲はどこの国の音楽かは分らない。とにかく軽快な音楽だった。先に声を掛けて来た二人が踊り出した。
4人は少しの間二人のダンスを見て、
「みんな! 踊ろう!」
彩香が大きい声で三人を誘った。
「もう、どうでもいいわ! 楽しければいいのよ!」
澪が掛け声に続いた。
4人は巫女の時の戦闘よろしく、飛んだり跳ねたりして、ステージいっぱいに広がり踊った。クマさんが見えたり、イチゴが見えたりで、観客はとても燥いで手拍子が自然と起こった。
この踊りの様子を見たご婦人は、この4人に合わせてきた。
「ねえ、あなた達、この踊りが自己流なの? とてもお上手よ」
「そうよ、私たちでもついていくのは無理みたい」
そう言いながらも遅れる事はなかった。一人転び、二人転び、とても楽しいダンスになった。曲が長いのだ。事務局は何回転んでもこの6人のダンスを止めさせようとはしなかった。
これに調子づく6人。もうボリショイサーカスのダンスのようになった。曲芸もいいところだ。6人がステージいっぱいで跳ねて回るので、観客は増える一方だった。
こんな激しい動きだと、雪の上だから滑ってしまう。が、この6人は転んで勢いよく身体が流れても、直ぐに誰かが先に飛んで行き自分の足で食い止めている。勢いよく誰かの足に当たったら、弾みで飛び起きる。もうこうなると、故意に転んでいるダンスショーとしか思えないのだ。
「もう楽しいね! あなた達は? ここの人かしら」
「はい、そうです。ここ札幌の生まれですよ」
尋ねられた彩香が答えた。
「あら、そうかしら。お姉さまは何処のお生れですか?」
「う~ん、外国になるのかしら? よく分りません」
「そう、ありがとう。よく分ったわ」
「そうなんですか?」
このダンスは約15分も続いた。女ばかりで大いに賑わって、この後に続く高校生はみじめであった。子供たちは転んで、転んで、安心して見ていられなかった。事務局はとうとう安全の為にと、30分で打ち切った。
ストレス発散した4人は、とても清々しい顔をしていた。このかかった曲は、ドイツ劇場の、ロック・ザ・スイング・フェスティバルで用いられる有名な曲だった。参加した婦人が持ち込んだものだ。
「チョット! 沙霧と澪霧! もう最高だったわ。あの曲芸はどうしたの?」
「うん、サーカスのバイトで習ったんだ。凄いでしょう」
嘘であるが、サーカスの事は本当だ。気にする事はなかった。沙織は信じてしまう。沙織の父の局長から、4人には粗品が贈られた。
さて、二人の若い婦人とは? その素性はいったいなんでしょうか。この後は4人してコートを着込んでおまつり会場を見て廻った。
「どうです? あの4人は。何か収穫があったかしら」
「そうね。本部には有能な人材! とでも報告するわ」
「本当に優秀! と、言っていいくらいよ」
婦人の二人とは別にもう一人の女が居たのだが・・・。この会話は米国訛の英語で話されていた。この三人とは、4年先くらいに再開する予定だ。
こうしてこの日は終わった。卒業式に向けて上京するまでは楽しい時間が、親孝行の時間が過ぎてゆく。
卒業式の卒業生代表の選定がこじれていたのを忘れていました。主席卒業が前代未聞の三人になったのだった。それもこれも当の三人が時間跳躍して頑張ったからであるが。プラスの評価では甲乙点けがたし! で決定しなかった。減点法で結果が出た。唯一の減点の項目が、あの剣道部乱戦事件だった。
三人の巫女が剣の練習にと、剣道部に乱入したからだ。剣の鍛錬・スキルUPの章で、「澪、1本頂戴、乱戦して来る。ストレス解消ね!」で、沙霧が大暴れしたのが唯一の悪評になっていた。
姉の沙霧に反して澪霧の評判が良かったので、代表は澪霧に決定した。ソフィアは学年途中からの編入ということで、惜しくも除外されたのだった。校長は国際化だ! と言ってソフィアにさせたかったらしい。
娘と一緒に上京した桜子は、卒業式で泣きじゃくっていた。こころの底から、霧の期待に添えたのだ! と思えたからである。娘の顔が霧の顔に見えてしまってもう涙が途絶えなかった。困惑した4人はどうにもできなかった。
ソフィアと母のミーシャは、別れが辛くて別の意味でまた泣いてしまった。数年後には再会するのだが、今生の別れと皆は思って泣いた。
生活安全課が発起人となり、卒業した三人への盛大なパーティが行われた。桜子は日中とうって変わって大いに燥いでいた。きっと気を紛らわせていたのだ。会場は安全課の倉庫だったから、仕事も気にせずに全員が騒いでいた。
ソフィアはモスクワに帰り高校の先生になる。双子は国家公安委員会に勤務が決まっている。署長と課長は、二人に顎で使われる日が近づきつつある。それは、今年の11月20日だ!




