第30部 東京 家族乱戦 Bパート そして集結!
1947年10月(昭和22年) 東京都・神田
ニキータは娘の顔も忘れた”と、言っているが、本家本元の杉田家では?
「桜子さん、そろそろ機嫌を直して下さいよ。双子ともう一人が可愛いそうです」
台所から声がする。
「昨日はあんなに心配して駆けつけてさ! 分かりあって泣いてたのにさ、どうしたんだい? どうしたいのさ? もしかして、自分でも判らない”とでも言うのかい? それじゃぁ、娘が可哀そうというものさ」
「・・・・・・」
「桜子さん、愛想尽かして下の双子は何処かにいっちまったぜ。いいのかい?」
「ミーシャさん、もうソフィアと帰ったらどうだい? 今日あたり、あの署長が何か言うてくるだろうさ」
「ヒグマさんはどうするんですか?」
「上野に仕事があるらしいので、東京に残るよ。人間に戻りたいしね。この件は、桜子に一任さ!」
「檻に入るのですか?」
「それもいいね!」
「変な熊さん!」
「沙霧、澪霧。二人ともおいで。お話ししましょう」
母の呼ぶ声が聞こえる。久しぶりの母らしい、優しくて穏やかな声だ。二人は警戒するも、元気よく、
「は~い、お母さま」「何でしょうか?」
「今日は辛く当たってしまい、ごめんなさいね」
「ホロお祖母さまは、お仕事も行かせないでごめんなさい」
「ううん! 私たちは大丈夫よ。だってお母さまの娘ですもの」
「そうだよ、桜子さん。孫を信じておやりよ。ね?」
「はい、ホロお母さま。お母さまにもご心配をお掛けしました」
「さ、沙霧、澪霧。あの人狼兵の事は、今後はどうするのかい?」
「私たちも困っています。だって、ロシアの人が、エストニアのお礼だ! といって人狼兵を差し向けるのですもの」
「そうですよ、逃げても追いかけて来るし、大体が、お母さまたちの戦いが尾びれに火を点けて来るのですもの。私たちは被害者ですわ」
「ホロお母さまに文句を言ってちょうだい!」
桜子は、少し弱気になったのだろう、ホロをお母さま、と呼び出した。娘は娘だけれども、血縁は無い。ホロと霧。霧と智治。智治と桜子、の関係だ。
「ええ、そうします。ホロお祖母さまはこの件に関して何とお考えでしょうか」
「ただただ、巫女の呪われた血筋が、としか言えません。お許しください」
「お祖母さまのせいではありませんのも、そう言わないで下さい」
「うう! ありがとう、二人とも。ありがとう」
「お母さま、私たちは逃げても人狼兵が寄って来ますので、頑として戦いますわ。でないと、囚われてしまいます」
「そうよね、私も訳が分らずに3年は戦い続けました。もうダメか!と思った事も10回以上はあります。母として応援せざるを得ないでしょう」
「ホロお母さまも二人を助けてください。お願いします」
「無事に仲直りができました。良かったよかった」
台所から声が聞こえた。
「ホントですわ! 桜子小母さまから殺されるかと思いましたわ」
玄関の外から声が聞こえた。
「私も引退しないといけないね。これも巫女の定めか……」
生垣の外から声が聞こえた。
「あらら、みんな! どうしちまったですか?」
何処からともなく、デルフィナの声が響いた。
「あ~ぁ、お腹が空いた。熊の姉ちゃん、なんか食べ物ちょうだい!」
「あいよ、これしかないけれど、全部いいよ、食べな!」
今朝の味噌汁が鍋ごと差し出された。デルフィナは受け取り一気に飲み干した。
「さ、今日も戦闘開始だ! 双子と双子。何処に行ったかな。誘いに来たのだがな」
「下の二人は多分、秋葉原だろうね。上は隣で親子水入らずだね。声掛けんじゃねぇよ。あんた、今までどこほっつき歩いていたんだい?」
「人狼兵の討伐にさ、ちょっくら行ってたさ」
「そうかい、何処かの母親が探していたぜ。顔を忘れられる前に帰んな」
「そうすっか。あんな婆あはロシアまで蹴飛ばしてやるよ。敵陣視察に刺殺! だ」
「お元気な事で・・・・・。あんたの娘はここに居るよ。早く捕まえて!」
木之本夫妻が肉まんを沢山持って杉田家を訪ねて来た。デルフィナを見るなりニキータは飛んで逃げた。予知能力があるらしい。デルフィナは腹いっぱいで機嫌が良くなった。
木之本署長は改めて、巫女の4人に人狼兵の討伐を依頼した。桜子は終始無言で口は出さなかった。
「でありますから、今晩からは人狼兵も総力戦に打って出るようです。我々も機関銃を10丁用意しました。これで手足どころか、なんだ頭も砕いてみせます」
「へ~、そうなんだ。出来るかな?~~~。出来ないだろうね~~~」
デルフィナがそう言って水を差す。デルフィナは間違った事は言っていないが、誰も信じない。動物園の戦いからは、数段に強くなっていた。学習能力が身についていたからだ。今晩から火ぶたが切られた。安全課の事務所が襲撃された。
最後に桜子は、
「私の機関銃は……八丁、口八丁さ!」
1947年10月(昭和22年) 東京都・港区
「署長、木之本署長! 大変です。人狼兵の襲撃が始まります。総員でこちらに向かう、と通告があちました。この兵の背中を見て下さい」
「なにない、今晩は、はい、今晩は。貴殿の事務所を総攻撃いたしますゆえ、多数の巫女を参列させて頂きますよう、ここにお願い申し上げます」
「署長、なにとぼけた事を言ってるんですか。戦闘の準備を早くして下さい。もう地下に全員が揃っております」
「よっしゃ! 酒と杯を持って来てくれ。先勝の祝いを行う」
「赤城の山だね・・・」
「シン! お待ち」
「なんだい、ニキータさん。今からカチコミされるんだからさ」
「うん、これ、お守り。もう一つの黒の宝石よ。持ってて。もしもの時に助けてくれるから。死なないでね」
「おう! ありがとう。死なないよ」
署長ら三人は地下に下りていった。署員全員はタスキ掛けの銃弾を二重に三重に肩から掛けていた。やる気満々だ。
「母にも1丁お願いします」
双子も参加していた。母とは桜子さんだが、ミーシャさんも居る。
「銃刀法違反で逮捕しますが、よろしいでしょうか?」
「ええ、逮捕して札幌に護送をお願いします。今回は物凄い恨みを買いますのでどうしても護送でお願いします」
「署長! サイコパス所長も来ていますよ。なにやら、新兵器が完成したらしい、と、大きな鋏と鋸を持って来ています」
「好きにさせとけ! 絶対に死にはしないさ」
「全員、武器は所持したな。ヨシ! 迎え撃つぞ!」
「オウー!!!!!!」
全員出撃する。東京総決戦の始まりだ。サイコパスの所長の新兵器とは、いったい何だろうか。瞬時に人間に戻せるものならいいのだが。多分、役に立たないだろう。
警視庁の機動隊は到着していて、バリケードを築いている。付近の住民の避難誘導もなされている。土嚢を前にして待ち構えて待機した。
「来ました。物凄い数です。刀と盾を持っていますよ、署長?」
「ああ、そうだな。でもこちらの機関銃は盾もぶち抜くさ!」
一斉射撃がなされた。銃弾は、カキン、カキンと盾に当たり跳ね返される。署長は青ざめた。機関銃が利かない。語気が強まる。
「全員! 足と頭を狙え~。撃て~」
全員は一斉射撃を開始するも、恐怖心で中々当たらなかった。ただ一人だけを除いて。
「おらおらおら! てめ~ら全員死んじまえ!」
桜子は、捻じり鉢巻きとタスキ掛けで土嚢の上に立ち、乱れ撃ちを行っていた。臆するところは微塵も感じられない。怖気づく署員に激! を飛ばす。銃口を向けるのだから、全員が逃げ出してしまった。
「あらあら! あら。きんOOが小さいのね。困ったわ」
「ちょっと、お母さん。銃を向けるからですよ。脅かしてどうするんです」
「まぁ~、そうですわね。あんた達だけだね。ヒグマと一緒に暴れておいで!」
そう言って桜子は機関銃を放り投げ、日の丸の扇子に持ち替えた。応援体勢だ。署長にも激を飛ばす。
「あんた、それでもニキータの旦那か! しっかりおし! さ、あんたも打込みに参加しなさい」
桜子は何処からともなく日本刀を取り出して、署長に手渡した。誰の刀だろうか。桜子の刀なのか。署長も捻じり鉢巻きで飛び出した。ニキータは驚いて、
「シン! バカな事は止めて。代わりに私が行くわ。ちょっと、桜子! シンを焚きつけないで。お願いだからさ」
ニキータは署長から刀を取り上げて突進した。安全課のビルの屋上からは、妹の双子らが弓を射って援護をしてくれる。
桜子は笑っている。
「ブヒヒヒィィ!」
いやはやなんとも、不気味な笑いだことか!




