第29部 東京 家族乱戦 Aパート
1947年10月(昭和22年) 東京都・港区
台風の被害は大きい。江戸川沿いの低地は床上浸水していた。住民の救助とは別の船が数艘おかしな動きをしていた。火事場泥棒である。金品を奪いに民家に忍び込む、実際にあったのだ、水害の火事場泥棒が。
今頃は白血病にでもなってるかもしれないが、電気会社には治療費の請求が出来ないで、脱毛で寝ているだろうか。
人狼兵は、総員の10%が船で泥棒をしている。残りは徒歩による泥棒の仕事に励んでいるだろう。2日間は休戦状態になった。ロシアの研究所に居る約1000人程の食糧を確保しなければならない。至上・急務の命令が下されていた。
「署長!人狼兵の襲撃は無いですね。何をしているか気になります」
「江戸川沿いで泥棒さ!決まってるだろう」
「泥棒?ですか。放置していても良いのですか?」
「それは警察の仕事だ。手出しは出来んよ。お前も早く治療を受け給え」
「いえ、私は大した事はありません」
「あいつ等はいつ帰るんだ。役に立たないな」
あいつ等とは、北海道に行ってまだ戻らない連中で、水害で帰署出来ないのだ。
「はい、奥さまと同じかと存じますが」
「そうよのう!神田に行く。暇なら付いてこい」
署長は神田にご機嫌取りに出かけた。北海道に帰る手段はあるのだが、まだ在宅中だろう。媚を売りに行こう。あやつは大した事は無い!と言いながら病院へ行った。署長よりも偉い賢明な判断だ。
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この年の9月14日 - カスリーン台風の来襲があった。初めて利根川が決壊、関東地方大水害になり(死者と行方不明が2000人以上、家屋の流失6000戸余り)江戸川沿いなど、低地が浸水している。火事場泥棒も横行したと言われている。
また、石炭の不足で特急列車等が廃止されているし、貨物・旅客運賃が3.5倍に引き上げられている。
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1947年10月(昭和22年) 東京都・神田
神田の杉田家の前に、生活安全課の黒の車が止まった。車からは署長が1人で降りて来た。自ら運転をして来たのだった。署長は署長でも偉くは無いのは本当なのだろう。襟元のネクタイを締め直す為に玄関先で立ち止って咳払いをした。ガキンチョは、当然の如く湧いてくる。手あかでスモーク色になるだろう。
「お頼み申す。巫女さま方はご在宅でしょうか」
「はいはい、ちょっとお待ちください」
玄関の引き戸が開けられ巫女の三人が出迎えた。
「こんにちは。あら?今から学校に行かれるのですか?」
学校は臨時休校になっていた。台風の被害が多すぎて生徒が登校出来ないのだ。三人は登校する服装で居たが、なんでだろうか。
「いいえ。台風で臨時休校になってますが、準備だけですの」
「そうですか。お母さまはいらっしゃいますか?」
「ええ、お待ちください。お母さま!木之本署長さんが見えました」
「なんだい!」
奥から返事はあるが、暫くしても出て来ない。
「あのう~、桜子さま!お話がありまして出て参りました・・・・・」
巫女の三人は署長を居間に通した。居間には難しい顔をしたこれまた四人の親が食卓を挟んで睨めっこをしていた。桜子とホロ。ソフィアの母のミーシャと。行方不明だったニキータもいた。
「突っ立ってないでお入り!」
ニキータは一瞥しただけで何も言わない。直ぐにでも帰りたい程の不穏な空気が漂っている。署長はこの風景を一瞬見ただけで、鳥肌が立ったのだ。桜子が一番怒っているよう感じだ。ニキータは憮然とした表情で桜子を見ている。ミーシャは少し萎れたような様子で下を見ている。
「あの~、すみません。御取込み中ですね、出直してまいります」
「ああ、帰んな。序でにあんたの嫁さんも連れて帰ってよ。もうお帰りだからさ」
「うちのニキータが何か?ありましたか。三日前から帰って来ないので探しておりましたのですが。・・・・・・・?」
誰も何も言わないのだ。重い空気がより重くなったような気がした。三人の巫女をも見てみれば、両手を少し挙げて、ヒョットコのような顔をして見返してくる。巫女の三人でもお手上げなのだろう。台所では、ヒグマが居座っていた。何をするでも無く胡坐をかいてただ座っていた。
「ニキータさん、帰ろうか。もうお話は済んでるのでしょう?」
署長は恐る恐る声を掛けた。しかし、立ち上がる様子は無い。
「ニキータさん?」
「ああ、帰ろうか。シン!娘に逮捕状を出して呉れないかい」
「穏やかでないねー、なんでだい?」
「飛んで逃げるので捕まらないんだ。もう、お手上げさ!人狼兵の餌食になる前に確保しなといけないね」
「人狼兵に捕まる事は無いと思いますがね」
「調子こいてるから、誰かみたいに捕まるさ!正義ぶって人狼退治をしていたらさ大変だよ?」
「ブー。どうせ私は、ドジです」
ソフィアがブーイングをしている。
木之本夫妻は帰宅した。安息の夜になれば良いのだけれども、どうだろうか。
1947年10月(昭和22年) 東京都・港区
あれから1週間が過ぎた。江戸川沿いの復興も開始されていて、大勢で一気呵成に作業が進んでいる。ボランテアの外人が人狼兵?かと思うのは早計だろう。
昔の人々は、何でも協力していたものだ。今日では想像も出来ない人ばかりだ。洪水の後片付けは大変なものだが、床下に水は溜まらないから、その分は楽だが。家財は少ないし電化製品も殆ど有りはしない。いい意味でも、悪い意味でも?無いのだ。秋葉原の道路の露天にラジオが多数並んでいた。
「さて、諸君。超長期休暇はいかがだったかな。長い汽車の旅は満喫出来ただろうがお前ら一様に疲れた顔は何なんだい。今月は馬車馬の如く働いて貰う。休みは無しだ」
「アイアイサー」
「今日からは、人狼兵が動くらしいと、情報が寄せられた。でだ、新兵器を警視庁から配給を頂いた。GHQのお下がりの機関銃で、当たれば腕も足も吹き飛ぶ程の強力な武器だな。今から地下射撃場にてお披露目会を行う」
半月ぶりに全員が揃った。地下射撃場には人狼をかたどった人形が数体的に置いてある。水害家屋の廃材で作られていて、非情にもろいのだった。全員はこの非情に脆い!に気づいていなかったのだ。
実射試験、兼、訓練に励んだ。木像は悉く飛散していった。全員は感嘆して喜び合っていた。
「署長!これさえ有れば、鬼に金棒ですよ。最高です」
「おめえら、バカ!言ってるんじゃ無い。俺ら日本人が去年までこの機関銃の的になっていたんだぞ。いった何万人が殺されたと思ってるんだ」
「・・・・・・・・・・・」
「俺は死ななかったが、同僚は多数死んでいっている。忘れるな!」
「アイアイサー」
「俺にも撃たせろ!」
署長は5分は撃ちつづけただろうか、弾切れでようやく機関銃を台に置いた。満足でもしたのか、ただの憂さ晴らしだったのだが。
「か・い・か・ん!!!」
全員は命の危険を感じて退避していた。射撃場は四方八方が蜂の巣になっていた。この署長には絶対に持たせてはいけないのだ。
「ニキータさん、娘は見つかったかい?」
「娘?顔も忘れちまったよ!」
「・・・・・・・・」




