第28部 東京 乱戦 その2
1947年10月(昭和22年) 東京都・神田
もう直ぐに十月十五日の霧お母さんの命日だ。そして私たちの誕生日でもある。
1916年10月15日 霧、ここに永眠す。時間断層が十年あるので今年で二十一年になるのか。早いもので母の命日には故郷に帰りたいと、そう願う二人だった。
桜子ママには霧お母さまのお墓を作って頂いた。悲しい思いの名残りにもなっている。
昨日のお母さまの訪問には怖い思いをしたが、それは私たち二人がいい加減なのが悪いとは重々承知してはいる。ですが人狼の巫女の定めが平凡な生活をさせてはくれないのだ、呪われた血筋が禍を呼び込んでしまうからこんなもの無くなればいい。
「お母さま、良く眠れましたか?」
「こら! 妹たち起きろ!」
「まぁ、お父さん。長旅でお疲れでしょう」
「彩香! まだ寝とんのか? 起きろ」
「お姉さんたち、おはよう」「よう」
「はい! おはよう」「よう」
「今日は日曜日だよね、綾香と彩香にはどこか行きたい所はあるかな」
「澪が連れて行くよ」
「なに勝手に人の名前を言うのよ、姉さん」
「大通りの出店がいい、秋葉原にも行きたい!!」
「澪、連れて行ってね、お願いよ」
「誰の口が言っているのかな?」
妹の二人が言っているのだ。
「いつも仲がいいね、ウマが合ってるじゃないかい」
「ホロお義母さまは今日も私にお付き合いくださいね」
「うう怖! 寒気がするね」
「それに引き替え、婆の二人はウマが合わないね~ホント!」
「木之本署長さん一家は、港区の事務所に泊ったのかな」
「どうだろうね、デルフィナちゃんが面白がってどこかに飛んで行ったんでしょう? もう巫女の力が面白いのね」
「世代が違うのよ、生きた化石に近づいているのね私たちは」
「じゃあホロお婆ちゃんは何と言われるの?」
「ご先祖様! だね。今どきの若い子にはついていけないよ」
「ねぇお母さま。今日はどうされますの? ホロお婆ちゃんとお出かけされますか?」
「そうね、港区の事務所にカチコミに行こうかと考えてるの」
「カチコミ? ですか。そうですよね」
「安全課の車で送迎されたがよろしいですよ」
「何故だい?」
「もう直ぐに人狼兵が寄って来ますの。逃げても先々で待ち伏せにされたりで、安心して外出が出来ないんです」
「そうですの~困りましたね」
「ニキータさんに力が残っていれば良かったんですが……」
「羆のカムイコロさんは動物園にお出かけされるとか? 言ってありませんでしたか?」
「クマの件も片づけないといけないな~、どうしたら良いと思う?」
「ソードで刺しちゃえば希望通りでしょう?」
「そうなんだけれどもね、そう簡単には出来ないかも」
「動物園で働いてもらいましょうよ、ごはんもたんまりと食べれますと言って騙しちゃいましょう」
1947年10月(昭和22年) 東京都・港区
「署長……木之本署長~大変です、芝浦に人狼兵が多数上陸した模様です」
「なんでだ!」
「満州からの復員船に紛れ込んでおりまして復員数が多く見分けが出来ませんでした。総員は不明ですが集結した倉庫の規模から推測して、おおよそ三百人は居るかと思われます」
「機動隊の出撃依頼を出す、安全課も全員出向くぞ~」
「署長……頭は大丈夫ですか? まだ誰も帰署しておりません。明日の朝かと思いますが」
「そうだったな~あ~困った、どうしよう」
「で、何だ。今回の目的とか有るのか、あ?」
「署長~怒鳴らないで下さい、イライラするのはCa不足ですよ。札幌で牛乳を飲んで無かったのですね。署長ばっかり肉らしい」
「ん? 恨んでるのか、あ?」
「俺ばかりじゃないぞ。全員が肉食だったが、んな事はどうでもいい」
「都の署員を掻き集めて警視庁に行く、馬を曳け~い」
「はい署長……只今ホロさんと桜子さんが曳かれて見えました」
「あたし等は馬じゃないよ、車の名前が馬かい?」
「ニキータはまだ捜索に出て帰らぬか、使えんのう」
「はい悪口を言い続ければ帰署は早くなります、どうぞ続けてください」
「私らも協力するよ、ニキータはもう使えね~な~どこに行ったんだい?」
「テレパシーで翻訳して送ります。ニキータさまお早くお帰り下さい、と」
今日の昼から風が強く吹くようになった。今晩は台風が接近・上陸の予報になっている。
翌朝になっても署員は誰も帰ってこなかった。利根川が氾濫し江戸川沿いの低地は浸水して列車も運休してしまい署員は汽車の中で夜を明かした。相当な被害が出たと。
「ねえお姉さま? 今晩は台風が来る予報だそうです。今日はこのままお休みしましょうよ、ね?」
「そうよね、大体なんで私たちが人狼兵の退治に行かなくてならないのかしらね。先代の巫女が悪いのですわ母たちに責任を取って頂かないとイケませんわね」
今晩の戦闘は流れてしまうも夜は人狼兵の襲撃が続いていた。安全課と機動隊は出撃するも、何の成果もあげることが出来ずにほぼ全滅になった。
1947年10月(昭和22年) 東京都・上野
港区にある安全課は負傷した署員で一杯になった。町の藪医者に往診を頼むもメガネをかけた老人で治療は進まなかった。
「木之本署長! これでは明日からの活動が出来ません。署長から巫女殿に出撃の要請を出して頂けないでしょうか、お願いします」
「無理だ! 札幌から鬼の桜子が来ているから巫女の要請をお願いする事は出来ない、不可能だ。悪いがこのまま壊滅するしか無いな~すまないね」
ああ~と言いながら署長は、机に突っ伏したようにして頭をかきむしりながら寝てしまった。
「おい……署長が笑って寝てるよ、気持ちわりぃ~な」
「きっといい夢見てるのさ」
巫女が助けに来てくれるいい夢? だろうか。
上野の動物園で大きなヒグマと人狼兵が乱戦となっていると連絡が入っていた。しかし出向く事も出来ずにいたのだった。
「何なのあんた達は。ボコボコにするよ? 帰りな」
「何を言いやがる、てめえ~から血祭りにしてやる。かかれ~~~~」
「ボコ! ドテ! ギャー! キャッキャッ!」
「なんだこの大きい熊は、全員で飛びかかれー」
「ボコ! ヒュゥ~ン、ドテ! ヒュゥ~ン、ドテ! ギャー! キャッキャッ!」
猿公が喜んでいる。猿山に放られた人狼は猿からボコボコにされていた。
上野の動物園は猿山の横に人狼の山が出来ていたのがせめてもの救いだろう。
「あなた達はもう帰れないわね~私は帰るけども」
人狼兵の員数の損失は無いに等しいから、明日はもっと激しい戦いになるだろうか。




