第26部 杉田一家……七人の再会
1947年10月(昭和22年) 東京都・神田
「じゃお母さん、呪文を全部の名前で唱えて!」
「桜子は、汝に命ず。ボガトィリの唄を讃えよ、クマ」
「桜子は、汝に命ず。ボガトィリの唄を讃えよ、ヒグマ」
「桜子は、汝に命ず。ボガトィリの唄を讃えよ、カムイ」
「桜子は、汝に命ず。ボガトィリの唄を讃えよ、コロ」
「桜子は、汝に命ず。ボガトィリの唄を讃えよ、ニャン」
「桜子は、汝に命ず。ボガトィリの唄を讃えよ、コハク」
どれにも変化は無かった。無いと書くから先には進まない。こうして追いつめて文字を打ち込んで考えています。
「う~んこれは最後の手段よ。カムイコロさんは綾香と彩香の三人で手を繋いでちょうだい。二人のダイヤの力を借りるわ。カムイコロさんは気をしっかりと持ってて下さい、恐らくはそうとうなショックがあるかもしれません」
「桜子は、汝に命ず。ボガトィリの唄を讃えよ、ヴォルフェンリード・カムイ!」
「キャッ!」
カムイコロは卒倒してしまいこの場の全員も卒倒しそうになるのを堪えた。ちなみに卒倒する人間は悲鳴は上げないでしょう? この悲鳴、誰にしましょうか。
「なによカムイコロが羆になっちまったよ、なんでだよ。みんな慌てないで他の乗客から隠すのよ、さあ早く」
「早く男共を呼んで来て! この列車から降りるのよ」
何処かに飛んで行った娘を除いて全員が集まった。桜子が指示を出す。
「みんな手を繋いで。彩香、綾香にはまたお願い、何処かに飛んで! さもないと見つかってしまうわ。東京まで飛べるかしら」
「うんやってみる」
「姉ちゃん行くよ!」
「二人の姉の下に飛べ!」
全員が消えてしまう。翌日の朝刊に走行中の新幹線から乗客が瞬時に消えた! 大きな見出しで一面の記事になった。
彩香と綾香を覚醒させていたのは正解だった。新幹線に熊さんが居たら即撃ち殺される事だろう。人間は残酷でヒドイ生き物だ。野山の生き物は大事にしろ、街中の熊は殺せ、たまたま迷い込んだのに殺されるのは理不尽だ。
熊の熊権を要求する!
さて全員は何処に飛んだことか。
1947年10月(昭和22年) 東京都・神田
三人の巫女と人狼の戦いが始まっていた。新幹線の高速移動で感覚が二日位がくるってしまい、東京乱戦の真っただ中に飛んできた。ダイレクトの時間跳躍だから少しは狂いもするだろう。派手なメイド服やセーラー服だから直ぐには判らなかった。
「あれはお姉さまの二人ですよお母さま。もう一人は判りません」
「そうかいやはり二人だったか。ホロお義母さん……沙霧と澪霧ですよ判りますか?」
「動きが速くてね。あんなに速く動ける瞬間移動する巫女は見た事がありません。以前よりももっと素早く綺麗に動いてますわ」
「四人目が来ました? あ、あれはデルフィナです、今着いたんでしょうか」
「エイヤ! ター! ザクッ! ガチャーン! ギャー! イデ~! ホーイ! そっちに行ったよ。飛んで押えて!」
「ホーイこれで5人目ね、楽勝よ。少し回すよ新入りさん。貴女はだれ? 随分と若いわねソードはこうして作るのよ……いい?」
「ギャー、タズゲデ~! バタンキュー!」
「は~~い終わりっと、今日も楽勝ね?」
十人は居たはずの人狼兵は五分と持たずに倒されて人間に戻って、以前の苦戦していた時と全然違う人物に見えるのだった。ニキータはもうぼんやりと眺めるしかなかった。
暫くして安全課のサイコパス所長が到着して兵士の全部を回収して行った。
桜子は大声で三人とデルフィナの下に駆けて行く。
「ごらあ~双子~なんばしょうるとか。こっち来い、逃げるなよ、この親不幸者。あ、あぁ? はよ来んか。殺すぞ! ごらぁ!」
「キャッ! お母さま。逃げるよ。澪」
「OK! ねーちゃん」
「だれ~~~~?」
三人は飛んで消えた、自宅に戻ったのだった。
「あの二人はいつもこんな危険な事をしてるとですか、あ、あぁ? ニキータさんよ。どうですか?」
「はいごめんなさい。お許しください」
「あらお母さん。早かったわね。面白そうだったから少し見学してました」
「あんたはどこさ行ってたの? 探したわよ~」
「お母さん巫女の力は凄いわ~何でもできそうよ、楽しい~」
熊さん以外は桜子の凄味に萎縮してしまう。熊さんは道路に寝っ転がっている。安全課の木之本署長は威勢がいいが、動きはタジタジで行動が伴っていない。
「ホロお義母様は子供の所に案内して下さいな、直ぐに乗り込みますよ」
「お手柔らかにお願いします、可愛い孫ですから」
「あら……可愛い娘ですわよ、お義母さま」
ホロはきつく言われ続けている。お義母さまとは桜子の怒りの声で、ホロお婆ちゃんは子供目線で言うのであって桜子が穏やかな時に使う呼び方だ。
そんなこんなで双子の家に着いた。逸る桜子を綾香が制止した。
「お母さん中の二人は飛んで逃げるから私の合図まで待って、先にダイヤの結界を張るわ。そうするともう逃げられないからね」
「彩香、結界を作るわよ」「OK! 姉ちゃん」
「我ら二人が命じる、この家に逃走防止の盾を張りたまえ! ごめんね! 上のねーちゃんたち母に捕まりたまえ。アンチ遁走魔法! トンデレラ! シッツイ!」
「お母さま、もう玄関を叩いていいわよ」
「ごらぁ~双子、居るか~玄関を開けろ!」
家の中からは、
「ドタッ、ドスン、キャ! ギャッ! ドス~ン! ドテ!」
跳んで逃げる事が出来なかった二人の尻もちの大きい音と悲鳴が上がった。二度の跳躍を行ったようである。妹たちはご愁傷さまですと心に思ってはいない。
「あらお母さま、お早いお着きですね」
恐々(こわごわ)と玄関を開けるのだった。二人の目が泳いでいて首は短くなっている。
二人を見た桜子は開口一番に澪の変化に気が付いた。
「澪! ちょっと待ちなさい。その頭はどうしたの? お団子のトレードマークはどうして無くなったの。さあ話しなさい」
「お母さんこれはね、ボリショイ・モスクワ国立サーカスの団員さんが巫女で消して下さったのよ。アナスタシアさんと言う女性です」
「ああーそうかい、で、あのひらひらした服装は何だい? あ? 答えろ」
「キャーごめんなさいお母さま。落ち着いてお話ししましょうよ、お母さま。ね?」
「お姉さま! 助けて~」
「ダメよまだ澪は離さない。沙霧は後で叱るから今は澪だよ」
「沙霧はそこに座ってなさい、逃げるなよ!」
「はいはい! そうかい、分ったふりをしようじゃないか」
「沙霧、お前は姉だろう? いったい何してるんだい。この有様は? あ、あん?」
「お母さま……ごめんなさい。色々と事情がありまして、ですね、その、え~と」
「わーっお母さま、お許し下さい」
「ホロお婆ちゃん、助けて下さい」
「二人ともしっかりと怒られなさい」
頑張れ! 二人とも。
少し離れた所に二人の影が在るのだが出て来れないでいるようだ。熊さんが目をさましてもう人の姿に戻っている。いや、変身かもしれない。
「なんですかこの騒ぎは。近所迷惑ですよ桜子さん。もう少し穏やかにお話しを致しましょうよ」
「桜子さん、私の目を見て下さい、何が見えますか?」
「目です。他には何も」
「いいえ見えていますよ、私の目には怒った桜子の姿が写っているはずです。違いますか?」
コンタクトレンズを使用すれば映り込みが生じるが生身の目には写る筈はないのだ。ましてや桜子は人狼兵と戦う自分が死ぬような経験をして来た戦いを、娘の二人が今行っているから当然普通ではいられない。誰でも取り乱すに決まっている。桜子は三年程の経験で銃撃戦も受けているのだ。
はっとした桜子は「自分が取り乱してどうする」そう思ったのだ。
そのような桜子をなだめたカムイコロさんは偉かった。桜子は自分を取り戻していてもう大丈夫だろう、娘二人は殺されない。
「ごめんなさい、取り乱してしまいました」
「私に謝ってどうするの。私はただ目を見なさい、としか言ってませんわ。さ、二人に謝って無事に会えた喜びに感謝なさい」
桜子はその場にしゃがみ込み泣き出しのだから下の姉妹が母に寄り添う。
「お母さん? 無事なお姉さまたちに会えたのですよ? なんで怒るのですか? さ、立ち上がって下さい、もう一度やり直しです。二人を抱きしめてください」
付き添われたような感じで桜子は立ち上がった。桜子の怒りに恐怖した二人を見てさらに泣き出したのだった。上の姉妹も立ち上がり母に近づく。
「お母さん……ごめんなさい。ごめんなさい……ごめん……」
最後は言葉にならない、二人から母に抱きついて三人して泣き出した。他の全員も貰い泣きを始めてしまう。桜子は落ち着き無事に杉田一家の七人の再会が果たされた。
東京 乱戦 その2 につづく。




