第6話 濁りティー
星に…ベルに…
色とりどりの飾りを付けられていくモミの木。
「大学卒業して二年ってことは…」
「頭の中で数えなさい!!!」
宏美さんに脳天チョップをくらわされる。
「健二、女はそういう生き物だから注意しないと」
痛みにこらえながら、最後の飾りを付けて終了。
「できた〜〜〜!!!」
歓喜の声に溢れる『ハナビシソウ』。12月に入ったということで店内はクリスマス一色
に変えられ、ツリーやリーフが飾られている。
「疲れた〜。さて、お茶にしますか」
「宏美さんは口を動かしていただけじゃないですか。そんなにも疲れてないはずですよね?」
「頭をつかってたのよ。頭をね」
ちょんちょんと頭を指して答える宏美さん。実際、ただグチを言ってただけ。
「さぁ、お茶にしますよ。今日は頑張ったからケーキもつけちゃいます! たくさんあります
から食べてくださいね」
「やった〜! オーナー太っ腹! どれから食べようかな〜〜〜」
「宏美さん、太りますよ」
足に激痛が走る。しかもつま先だけが踏まれているのでハンパな痛さじゃない。
「健ちゃん…、今日は失礼な発言が多いんじゃないの………?」
目が…、目が恐い………。
「ス、スイマセン…」
「よろしい〜」
ケーキがブラック・ホールに飲まれていく。止まることなく吸い込んでいく。しかも速度が
増しているような気がするのは気のせいだろうか。
「あれ? 真弓は食べていかないの?」
「あ、うん。ダイエット中だし、それに友達と待ち合わせてるから。私もう行くね。オーナー、
お先に失礼します。お姉ちゃん私の分も食べていいよ。健二、お疲れ。またね!」
笑顔を向け手だけで別れを告げ、俺もケーキを食べだす。一口食べると上品な甘さが口中
に広がり、疲れた気分も一瞬にして吹き飛んでしまった。コーヒーも格別で、ここが人気なの
が十二分にわかる。
「健ちゃ〜ん、もっと優しくしてあげなさいよ〜」
「どういう意味ですか!?」
口の中のものが飛び出そうになって、慌てて口をふさぐ。
「そのまんま。ったく男は鈍いったらありゃしない」
「まぁまぁ、健二君も別に悪気があるわけじゃないし」
二人の会話は止まることなく続いていく。
俺だってわかってる。あいつだってわかってるだろう。お互いの気持ちがどこに向かってる
のかなんて。けれど、俺が、俺がそれを拒んでる…。あいつがここに来てから何度も一緒に帰
ったりしたが、世間話程度で終わっている。傷付くことなく、傷付けることなく…。
「ねぇ健ちゃん、前から聞きたかったんだけど、何で劇やめたの?」
「………」
「えぇ〜、健二君、劇やってたの? 初耳ですよ」
「当たり前ですよ。今まで言ったことなかったんですから。真弓からやめたことは聞いたんだ
けど、理由までは聞いてないみたいだし。ここはズバッと言っちゃって! 真弓はいないしさ」
「………」
口の中に残っているものをコーヒーで流し込み、空気の塊をゆっくりと吐き出す。視線を横
に向けると、唇を噛んでいる自分とイルミネーションされた公園が見えた。
「嫌気がさしただけです。それに自分の実力なんて、大したことないですから…」
「そんなことないじゃん。一度文化祭で見たことあるけど、凄い演技だったよ。オーナーにも
見せたかったなぁ〜」
「ビデオとかで撮ってないの?」
「そうだよ! ビデオに撮ったんだっけ。今度持ってきますよ! 明日にでも…」
次の瞬間、テーブルから叩き割れんくらいの轟音と器同士があたる音が耳に響く。
「すみません、先に帰らせていただきます…」
コーヒーを一気に飲み干しここを立ち去る。
「本当に…。俺はまだまだ子供だよ…」
外の冷たい空気にさらされると、右手からじわじわと痛みが込み上げてくるのだった。
「失敗しちゃったな。健ちゃんがあそこまで怒るなんて思わなかった」
「私、あんな健二君初めて見ましたよ」
「…ということで、真弓、いるんでしょ?」
片隅から真弓が出てくる。
「気付いてたんだね…」
「私は耳がイイって知ってるはずだがね、妹よ」
「…」
俯く妹にさらに追い込むように質問を続ける
「私に対して怒ってるのかな? それとも嫉妬してる?」
「ヒロミちゃん!?」
すかさずオーナーが止めに入るが、宏美は続ける。
「聞いちゃいけない事を聞いたし、聞けなかった事を聞いたし…」
「お姉ちゃんのバカ!!!!!」
裏口のドアの音が遠くから聞こえてくる。
「ヒロミちゃん、マユミちゃんはいつからいたの?」
「私が劇の話を切り出すちょっと前です。多分、忘れ物でも取りに来たんでしょう」
溜息をつきつつ天井を見上げ、グチのように小声で呟く。
「あんたしか健ちゃんを救ってやれないんだよ。頑張れ、真弓…」
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