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第5話 感化の予感

 



 忙しい夕刻を過ぎ、外はもう闇に支配されている。光に包まれているのはここだけだ。

「それにしてもマユミちゃんは手際が良かったわ〜」

 喫茶店『ハナビシソウ』のオーナーがエプロンを外しながら、皆のいるテーブルに座る。

「でしょ? オーナー? 昨日は雨でお客さんが来なかったから、真弓の実力がわからなかっ

たけどさ」

「そんなことないですよ」

 いつものお茶会。店を閉めて片づけが終わると、こうして一つのテーブルに集まるのだ。

「いや本当に凄かったよ。真弓があそこまでやれるなんてさ」

「健二までそんなこと言って〜。照れちゃうよワタシ…」

 本当に真弓の手際には驚かされた。前にやっていたバイトのおかげだと言っているが、真

弓だからこその働きだったに違いない。

「ということでオーナー。採用ということでいいですよね?」

「もちろん。文句なんかつけたらバチが当たっちゃう」

「良かったね真弓。これから頑張ってね。ウシシシシ、本当にさ…」

 チラチラと宏美さんの視線がこちらに向いてくる。何を考えているのか…。

「何よその薄ら笑い〜」

「イイってことよ。私は応援してるぞ〜。さてと。真弓、健ちゃんに家まで送ってもらいなさい。

私は用事があるから帰りは遅くなるよ〜ん」

「えぇ!? ちょっと、お姉ちゃん!?」

 さっさと帰っていく宏美さん。全くわけのわからない人だ。

「私からもお願いするわ。もう外は暗いし、何があるかわからないからね」

「別に、俺はいいですけど」

「じゃあ、お願いしますね」


 夜ともなれば幻想の世界へと変わり、これに魅せられた人々は時間という一生解けない摂

理から解き放たれる。それはほんの少し。けれど、人々は満足なのだ…。

 風が吹き抜け、それに合わせて飛ばされていく光たち。周りに植えられた花々は昼間のような美しさはなものの、飛ばされた光を受けどこか神秘的な雰囲気をだしている。その場所を物珍しそうに見つめる一人の女性。

「うわぁ〜。ここってこんなにも綺麗なんだね!」

「昼と夜とでは全然違うんだよ、この公園。昼間お客さんが見ているような綺麗さはないけど、

夜は夜で噴水がライトアップされてるからな」

 そう。ここはわりと有名な公園なのだ。今は噴水しかライトが当ってないが、そのうち周り

の木々もイルミネーションされる。毎年テレビニュースで放送される名所なのだ。

「もうすぐクリスマスがあるからライトアップされてるんだね。キレイだな〜」

「クリスマスなんてまだ1ヶ月も先じゃないか」

「健二には乙女心っていうのがわからないんだ。まだまだお子チャマだね」

「お子チャマで悪かったな…」

 ─────沈黙。視覚と聴覚が捉えた美しい世界に惑わされ、今までの二人は『男』と『女』という立場で話していなかっただろう。

「あの………」

 同時だった。魔法をかけられたのは自分だけではなかったようだ。

「ははははっ。真弓が先に言えよ」

「健二こそ、先にどうぞ」

「…ビックリしたよ。真弓がくるなんてさ」

 昨日、いきなり目に飛び込んできたのは真弓だった。真弓のやつは俺に会えたことが嬉し

かったらしく、全身ビショ濡れなのがわかっているのに抱きついてくるくらいだった。俺として

は二ヶ月前の文化祭でさえ会うことはないと思っていたのに…。

「私だって健二がお姉ちゃんの働き先にいるなんて、昨日初めて教えられたんだよ」

 俺が『ハナビシソウ』で働き始めたのは、真弓と久しぶりに会った二ヶ月前の文化祭の後ぐらいだった。街中で偶然真弓の姉、宏美さんと出会ったのだ。真弓の付き合いもあったので、もちろん宏美さんの面識もあった。そこで宏美さんからバイトをしないかと誘われ、現在に至る。

「意地悪な性格だからな、あの人は。お互いまんまとやられたというわけか…」

「お姉ちゃんらしいけどね〜。それはそうと、健二、ウエイター姿似合ってたね」

「そういう真弓こそ、よくあんなフリフリ着れるな」

 宏美さんは歳のこともあるせいか、俺と同じウエイター姿。しかし真弓はというと、人形が着るようなフリフリの入った服を纏っていたのだ。

「私だってちょっとは抵抗あったけど、カワイイから着ちゃった!」

「『着ちゃった!』じゃないよ。ちょっとは考えろよ…」

 正直なところ、初めて見たときはかなりドキドキした。別にフリフリを着せている店なんて、どこでも見かけるものだ。けれども、それが知人となると少し気恥ずかしい。

「もしかして、ドキっとしちゃった?」

 どうして女のいうのは、こういうことに関して勘が鋭いのだろう。

「っるせぇ。そ、そんなわけあるか!」

「あれれれれ? 図星かな?」

 いつの間にか顔中が熱い。

「そろそろ帰るぞ! さっさと後ろに乗れ!」

「えぇ〜ん、待ってよ! 意地悪したのはアヤマル〜」

 後ろに重みを感じると、二本の細い腕によって俺の身体がしっかりと抱き寄せられる。背中に温もりが伝わってきたのを確認して自転車を走らせる。

「なぁ? 真弓は今、大学生だよな?」

「うん、大学にいってるよ。サークルにも入ってるし。劇をするサークルだよ」

「そうか。真弓は真弓なりに楽しんでるんだな」

 投げかけられた。もしかしたら自分で投げかけたのかもしれない。

 車のライトがいくつもすれ違って行く。もう何台目だろうか…。

「俺は…やめたよ…。あの劇団からも抜けたし………」

「やっぱり、そう…なんだ…」

 一番言わなくてはならなかったこと。一番言いたくなかったこと。どちらも頭に渦巻いてい

る…。真弓にとっても同じだろう。あえて『問い』を出さずに『答え』を聞き出す。まったく、やっぱりあいつには勝てないな。でも、いずれは言わないといけない事だから。

「まぁ、生き方っていうのは色々あるからな。フリーターってのも悪くないし」

「うん…」

「また…よろしく頼むな」



明日からもこの温もりが感じられるかもしれない…

すれ違うライトで目を細めつつも、そんなことを思っていた… 

読んでいただきありがとうごさいます。感想などありましたらお送りください。お待ちしております。

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