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第4話 日々はソラモヨウ

 

 窓から見える景色はいつもと同じである。木々は葉を落とし、空気は冬の訪れをみせている。

それら以外そう毎日変わることなどないだろう。感じられるのは四季の変化だけであって、

他は何もない。

 しかしこの空間はどうだろう…。時間によってかなり違ってくる。

「ちくしょう〜、何で俺がこんなことやってるんだ!?」

「ちょっと!? こっちのまだ!?」

「水くれませんか〜?」

「はいはい、少々お待ちください!!!」

 学生帰りが目立つこの時間帯は、店が混みだす唯一の時間なのだ。ケーキのおいしいお店

としてテレビに出て以来、毎日が商売繁盛なのだ。他にもサンドウィッチやコーヒーもおいし

いと評判なので、キッチンもフロントも大忙しだ。

 カランカラン…。お店の入り口のドアから聞こえてくる音がまた客の来店を教えてくれる。

(何でこんな日に限って客が多いんだ…)心の中でグチをつぶやくと、

「いらっしゃ………って、コラっ! 遅刻ですよ〜!!!」

 元凶の人物がやってきた。キッチンであるはずの自分がキッチンもフロントも両方やる

ハメになり、さらには客のグチを一斉に引き受けて…。

「ハァ、ハァ、ハァ〜。ご、ごめん。途中で自転車のチェーンが外れちゃって…」

「言い訳は後で聞きますから、早く着替えて準備してください!」

 一つだけいつもと同じところを見つけた…。 



 今日はこれでお仕事終了。あとはcloseの看板掛けて終わりかな。あとはたっぷりと言い訳

を聞くだけか。

「ほんっとにゴメンなさい。今日は間に合うようにいつもより早く家を出たんだよ。だけどね、

自転車のチェーンが外れちゃったの。それでね、なんとか直そうとしたんだけど、今までチェ

ーンが外れたことなかったから直し方がわからなくて…。それで頑張って走ってきたんだよ!」

「間に合うようにって、いつもは間に合わないように来てるんですか?」

「違うよ〜。それは言葉のあやで…。ゴメンね、健ちゃん。この通りだから」

 両手を合わせて俺を拝むような形で謝る。

「宏美さん、いい加減にその呼び方やめてください! それに遅刻はもうダメですよ! オー

ナーからも何か言ってくださいよ〜」

「そこまでにしてあげて、健二君。ヒロミちゃんだって悪気はないんだし」

 ここの喫茶店のオーナーはいつもこんな感じだ。どこか抜けているというか何というか。

「そうだよ。悪気はないんだよ、私」

「あなたが言ってどうするんです…」

「すいません…」

 肩を狭くしてしょぼんとする宏美さん。

「そうそう。オーナー新しいバイト欲しがってましたよね?」

「え、えぇ」

 さっきまで怒られていたのに、まったくこの人は反省のハの字も知らないらしい。

「見つけましたよ。マジメな子ですからきっと気に入りますよ」

「宏美さん以外なら、皆すべてマジメですから大丈夫でしょうね」

「ひど〜〜〜い。健ちゃんは私のことをそんなふうに思っていたんだ…。エ〜ン、オ〜ナ〜」

 泣くまねをしながらオーナーに抱きつき、こちらに指をさしてくる。まるで子供じゃないか…。

「よしよし。それで新しい子は?」

「明日連れて来ます。別にいいですよね?」

「そうですね、明日から働いてもらいましょう。ヒロミちゃんからの紹介なら大丈夫でしょう」

「えっ? オーナーそれは早すぎますよ。面接は?」

 俺は徹底的に抗議する。また宏美さんみたいな人が増えたらたまったもんじゃない。

「健ちゃん、私のおかげでここでバイトできたの忘れたのかな〜?」

「………すいません、宏美様。さっきの言葉はなかったことに…」

 いつも自分の立場が悪くなるとこれだ。遅刻の件でこのことが出なかったのは、そのため

なのか。切り札は最後まで取っておいたってことか。広美さんにしては頭を使ったな。

 俺がちょうどバイトを探している時に偶然に出会い、ここを紹介してくれたのが宏美さんな

のだ。あの時は切羽詰まっていたからすぐにOKをだした。今はここを辞めて他に移っても

いいが、ここが気に入っているので辞めたくはない。

「それにさ、健ちゃんには悪い話じゃないんだよ」

「遅刻しない人が来るからですか?」

「あはははは、健ちゃん…」

 宏美さんの目がマジになってきたので今日はこれ以上攻めに入らない方がいい。

「明日になればわかるよ。それじゃあ私はこれで帰りますので。健ちゃん掃除よろしくね〜」

 さっさと帰ってしまう宏美さん。

「こらっ! 逃げるな〜!!!」

 こうして今日のバイトも終わるのだった…。



 空からは雨を想わせるような雲が広がっている。

「はぁはぁはぁはぁ、今日は俺が遅刻かよ」

 自転車の上には乗らずにひたすら足を動かしている。まさかあの人と同じことが起きるな

んて思わなかった。

「チクショ〜、絶対間に合ってやる〜〜〜!!!」

 そろそろ足が疲れてきた。もう少しで着くというのに、足が鉛をつけているように重く感じる。

こんなにも長く走ったのは学生の持久走くらいだ。

 ふいに頬に冷たい感触。コンクリートの地面にはところどころに丸い模様ができている。

「チックショ〜〜〜。雨も降ってきやがった!」

 激しい雨が容赦なく身体に叩きつけてくる。冷たい雨を吸う服はどんどん重くなり、それに

つれて体温を急激に奪っていく。視界もままならず、とにかくひたすら目標に向かって走るしか

手立てはない。

 やっとのおもいでたどり着いたときには、体中が悲鳴をあげガタガタと震えていた。凍えた手

で入り口のドアを開ける。どうせこの雨じゃ客は来ていないだろうと思い大声で叫ぶ。

「宏美さん、タオルとって〜。遅刻したことは謝るからさ〜」

 差し出されたタオルで頭を拭く。

「ありがとさ〜ん」

 拭き終わって頭をあげるとそこには…

「健ちゃん、久しぶりだね!この前の文化祭以来だね」

「真弓…?」



嬉しいのか…

悲しいのか…

ただ一つわかっていたのは…

自分の心が今の空と同じだったということだけだった…


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