第9話 記憶の外で
「ぎゃはははは、そうなのよ〜。私だって嫌だっつーの!」
「そんなこと言う男なんて捨てて当然ですよ! 宏美さん正解!!!」
完全にできあがっている二人とは違い、オーナーは未だに酔っていないように見える。私はというと、かなり飲める方なのだが、記憶がなくなるまで飲もうとは思わないので、ゆっくりと飲んでいる。
健二は全然飲めないのに、お姉ちゃんと同じペースで飲んでて大丈夫なのだろうか。確か前の彼氏は倒れたとか…。まぁ、いざとなったら私が止めるか。
「あれ〜〜〜??? お酒がもうないよ〜〜〜。健ちゃん買ってきて〜〜〜」
「はぁ〜い! 健二、買ってきマ〜ス!!!」
立ち上がり敬礼をしている。
「ちょっと、今日はもう止めなよ〜。健二も買いに行かなくていいの!!!」
走りだそうとしていた健二を引き止めたその刹那、人形のように何の抵抗もなく倒れていく健二。顔面から着地しているように見えた。
「あらあら健二君、見事なコケッぷりね〜」
やっぱりオーナーも酔っていたようだ。
「コラ〜健ちゃん、そんなギャグはいらないから早く買ってきなさい!!!」
「失礼しました隊長!!! 今すぐ買いに行ってくるでアリマス!!!」
健二の顔は真っ赤に染まっている。酔っているせいでもあるだろうが、所々擦り傷も見える。
ふらついていて足取りがおぼつかない。健二一人で買いに行かせるのは無理だ。
「私が行くから健二はここにいなさい…って言ってるそばからどこに行くの!?」
怪我でもされたら大変だ。仕方ない、私も一緒に買いに行くか。
「いってらっしゃ〜〜〜い!!!」
酔っているとはいえ、あんな状態の健二を外に出すなんて…。背中越しから聞こえた声に苛立ちを覚えたのだった。
コンビニに行ったものの財布を忘れてしまったことに気付いた時には、すでにコンビニに着いたところだった。フラフラの状態で入らせるわけにいかないので、健二を外で待たせて予算はいくらぐらいか考えた時だ。健二に気をとられて、バッグを持ってくるのを忘れてしまった。
「ゴメン、サイフ忘れてきちゃった。ちょっと待ってて、すぐ戻るから」
「………」
返事がなかなか返ってこない。
「健二、こんなところで寝てたら風邪ひくよ!」
「…な……」
「なんて言った? っもう、とにかく起きて!」
やっぱりこの状態で放っておくわけにいかないか…。一緒に連れて帰っていくしかない。そう思ったときだった。手が伸びてきたと思ったら、ものすごい力で掴まれて抱き寄せられる。
「いく…な…」
「え………? けん…じ………?」
不意なことに、何が起きたのか理解するまで時間がかかった。
身体には健二の温もりが伝わり、耳には吐息がかかっているのがわかる。途端に、顔中が熱湯を浴びたかのように熱くなり、体中を回っていたアルコールが騒ぎ出す。
「ちょっと健二!? 何するの!?」
突き放したと同時に手を上げてしまった。手がヒリヒリ痛む。
「ご、ごめん。大丈夫??? 帰るよ、ほら」
「………」
寝ぼけて抱きつかれるとは思ってもみなかった。さて、ほんとに帰れるのかな。帰り道に襲われちゃったりするかも。そんなことはないか。
「………俺、ダメだった………。結局、俺の実力なんて大したことなかったんだよ」
何を言ってるのかすぐにわかった。変に高まっていた心も、異変に気付き静かになった。そしてそこから這い出してきたのは不気味な笑みを浮かべる悪魔。呪文をつかい私を操る。洗脳された私は抵抗することもなく口から言葉を発する。
「どうして…やめたの…?」
悪魔ではなく『本当の私』だった。
「…続けるのが苦しかったんだよ。いつの間にか独りぼっちで…俺は………」
抱きしめたかった。こんなにも苦しんでいる健二を放っておくことなんてできない。
「頑張ったんでしょ? それでいいじゃない。」
「だけど、俺には何もない!!! 残ったものなんてない!!! 何も満たされない、何をしても満たされない…。月奈に何がわかるんだよ。確かにあいつも悲しい思いしてるさ!!! だけど、だけど………」
「わかったから落ち着いて。…私がそばにいるよ」
強く、強く抱きしめた。これ以上言葉は必要ないだろう。温もりを共有するだけで、今はただそれだけで十分だ。ほんの少しだろうけど、健二の気持ちに近づくことができたかな。
「ハナビシソウに帰ろっか」
冷たくなった手をそっと握り締め、少しでも長い時間をいられるようにゆっくりと歩いていく。
帰り道を半分来た所で、見覚えのある二人が見えた。
「お〜い、真弓〜。ちょっと遅すぎるんじゃないの? あれれ? 手なんか繋いで〜」
とっさに手を離す。今ごろ隠すつもりはないけれども、やはりまだ告白もしてないし。
「お、お姉ちゃん達、良いところに来た。健二を寝かせてあげて」
「はぁ〜、仕方ないね。オーナー、ちょっと頼みます」
「わかりました。健二君は私に任せてください」
健二をオーナーに任せ、お姉ちゃんと肩を並べて歩く。
「ほら、体が冷えたでしょ? コーヒーでも飲みな」
「ありがと。なんか二人にやられたって気分で仕方ないんだけど」
子供をあやすような優しい笑顔しているお姉ちゃん。
「あはは。まぁ、結果オーライでしょ。それにしても遅かったから心配したんだぞ〜。もしかして健ちゃんが襲ってるんじゃないかって思ってたんだよ」
私もそんなことを考えていたなんて、とてもじゃないが言えなかった。
「さて、健ちゃんの所に行きましょか」
あれからハナビシソウ着くと、キレイに片付いていた。すべて予定通りに事は進んだというわけだった。なんか少し嬉しかった。
一つだけ、3人に予想してないことがあった。
「痛たたたた。あれ、いつの間にか朝じゃん」
記憶に刻まれたは健二以外だったということ。
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