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第8話 遊宴

 


 日が傾き空が暁に染まる頃、俺は買い出しに出掛けた。

 ビニール紐が細く伸び、深く食い込んでいる。右手と左手、共に5k以上はあろうか…。指は白くなってきているし、何よりも背筋が痛い。手に負担をかけないために変に力をいれているせいか、背中全体に電流が走っていた。

 やはり飲み物だけというのが辛い。どう考えたって重過ぎだ。しかも一人で買い物に行かせるなんて、人使いが荒いってもんじゃない。かと言って、確かヒロミさんは酒豪だから買い込んでおかないと、途中で買い出しに行けって言われるかもしれないし…。

「おかえり〜。重かったでしょ?」

 手を振りながらこちらに走ってくる人影がある。頭の上には赤くとがった帽子。

「ただいま〜って。真弓、そんなもん被りながら走って来るなぁ〜!!!」

「何よ!? 別にいいでしょ!?」

「俺が恥ずかしいんだよ、オ・レ・が!」

 ったく、周りの気持ちも考えてほしいものだ…。

 走り寄ってきた真弓に袋を一つ渡すと、少しだけ背筋の痛みも取れた。さすがに女に重いものを持たせるというのは気が引けるので、なるべく軽いやつを手渡した。

「サンキュ。いや〜、さすがに重かった…」

「ちょっと心配だったから。だって二人とも酒豪でしょ? だからたくさん買って来るだろうと思ったから迎えにきたの」

 …二人? 今、二人って聞こえたような…。

「真弓? 今、二人って言ったか…?」

「うん、言ったよ。オーナーも酒豪だからね。それに私もそこそこ飲むし」

 この道程をまた歩かなければならないのかと思うと、軽くなったはずの荷物がまた重くなるのだった…。




 テーブルの中心にはクリスマスケーキ。その隣には丸焼きの七面鳥………ということはなく、テーブルの中央に二つの鍋が用意されていた。

「もしかして鍋ですか?」

「そうよ〜。水炊きとチゲ鍋、おいしいよ〜」

 指で丸を作って笑顔する宏美さん。

「ヒロミちゃんがどうしてもって言うからやっちゃった」

 さらなる笑顔で答えてくるオーナー。やっちゃったって…。

 少し早いクリスマスを迎えるここハナビシソウ。ケーキなどいうものは一切なく、鍋とお酒だけというクリスマスパーティーだ。しかも中途半端にサンタの格好になってる真弓。今は帽子を被っているだけはなく、トナカイの鼻まで付けている。

「さぁ〜て、そろそろ始めようか? 皆、飲み物を持って! カンパ〜〜〜イ!!!」

 グラスの甲高い音が響く。次の瞬間、自分以外のグラスの中身が一瞬にして消えていた。宏美さんとオーナーはわかるとして、真弓まで一気飲みしてしまうのは…。今日は覚悟しておいた方がいいのかもしれない…。

 グラスを置いて鍋にとりかかる。水炊きも捨て難いがチゲの方も食べたい。欲張りな気がするが取り皿を二つ用意した。

「健ちゃんは欲張りだね〜。女の方もそんな感じなの〜?」

「何言うんですか!? 俺はそんなんじゃないです!」

 もう酔っ払っているのか、いきなり攻撃を仕掛けてくる。酒豪の宏美さんにそんなことはないと思うが。

「そういう宏美さんだって、二股とかしてるんじゃないですか? 三股とか?」

 鍋から具をよそった瞬間、幾つもの小さな粒が頬を襲ってきた。

「アッチっ! 宏美さん!? あなたはバカですか!?」

「あぁ〜、バカって言ったぁ〜。オ〜ナ〜〜〜」

 オーナーに泣きすがる宏美さん。もしかして、アルコールでスイッチが入ったのか…? 何か嫌な予感。ご機嫌をとっておかないと、後々やっかいなことになりそうだ。

「泣かないでくださいよ。ゴメンなさい、僕が悪かったです。何でも言うこと聞きますから許してください」

 はっと気付いた時にはもう遅い。彼女の影が俺を飲み込もうとしていたのだ。

「今、オーナーも聞きましたよね?」

「健二君、可哀想だけど今回は助けてあげられないわ」

「じゃ〜あ〜、まずは初恋話から初めて、後は色々と話してくれれば許してあ・げ・る」

 完璧にやられた…。このままでは宏美さんのペースに飲まれてしまう。なんとかして逃げなければ、俺の身が危ない。そうだ、真弓にヘルプを…。

「健二〜。ほら、もっと飲まないと」

 俺のグラスに注がれる黄色の液体。泡が溢れ出そうになるのを口で受け止める。

「ほら、イッキ! イッキ! イッキ!!!」

 ビールで満たされていく胃。付き合い程度なら飲めるが、さすがに一気飲みは体に応える。

「ほらほら〜、健〜二。グラスが空だよ〜」

 真弓、ヘルプ…。

「あら〜、まだギブアップじゃないわよね???」

 オーナーまで同盟組んでるんじゃ、俺は勝ち目ないよ………。

 真弓、オーナーの一杯ずつだけで、もうすでにギブアップ目前の俺。

 さっきまでの宏美さんのことなんて、どうでもよくなってきた。恥ずかしいとか知ったことじゃない。盛り上がれば全てはそれでよし! 

「よっしゃ〜、今夜はとことん飲みましょう! じゃあ俺の初恋話を!!!」

 平衡感覚がなくなってきていた。今日は記憶がなくなるまで飲むことになるだろうと思ったところで、俺は暗い奈落のそこへと落ちていたのだった。





記憶があったから、わからなかったのだろう…

記憶がなかったから、わかったのだろう…

心の底は…

読んでいただきありがとうございます。感想・意見などありましたら、メールをどうぞ。今後の参考にさせていただきます。

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