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追放された戦士は『同化』で覚醒する〜不要とされた俺が伝説の剣豪を身に宿し、やがて多民族国家を創り上げるまで〜  作者: 八咫 日本


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第98話 禁忌の暴走と二天の雷光

「魂の限界突破――禁忌・多重同化ッ!!!」

セリアの血を吐くような絶叫が響き渡った瞬間。

絶対の虚無に閉ざされていたシュヴァルツの暗闇空間に、天を裂く紫色の落雷と、空間そのものを断ち斬る透明な剣気が同時に叩き込まれた。

それらは真っ直ぐに、影の茨に縫い付けられ、死の淵に沈んでいたヴァンの肉体へと直撃した。

『神速の雷獣』と、地球の英霊『最強の剣豪・宮本武蔵』。

相反する二つの絶大な魂が、ヴァンという一つの「器」の内側で激突した。

――ゴバァァァァァッ!!!

その瞬間、ヴァンの肉体に起きた現象は「破滅」以外の何物でもなかった。

一つの樽の中に二つの巨大な台風を無理やり押し込めたような状態だ。体内で衝突し合う致死量の魔力が、逃げ場を求めてヴァンの内側から物理的な爆発を起こす。

全身の毛細血管が一斉に破裂し、皮膚の毛穴という毛穴から真紅の血の霧が噴き出した。限界まで鍛え上げられた分厚い筋肉の繊維が、内側からの圧力に耐えきれずにブチブチと千切れ、修復され、再び千切れるという異常なサイクルを繰り返す。

本来であれば、魂が交わったその一瞬で、肉体は爆散し、精神は狂乱の渦に呑まれて即死している。

だが、ヴァンは死ななかった。

否、痛覚という「限界を知らせる警報器」が完全に欠落している彼にとって、肉体がどれほど引き裂かれようとも、精神が揺らぐ理由など一つも存在しなかったのだ。

(……魔力の流出を抑えろ。筋繊維の断裂を、雷の魔力で強制的に繋ぎ止めろ)

血の霧を吹き出し、内臓が煮えくり返るような状態にありながら、ヴァンの意識は氷のように冷徹だった。

彼は異常なまでの精神力で、体内で暴れ狂う二つの魂を強引に押さえ込み、己の肉体という名の牢獄に完全に縛り付けたのだ。

その凄まじい内圧の膨張によって、ヴァンを縛り付けていたシュヴァルツの影の茨が、内側からパキパキと音を立ててひび割れ始めた。

『な、何事だ!? 貴様、自らの器の中で何を暴走させている!』

絶対の優位を確信していたシュヴァルツの黄金の瞳が、初めて驚愕に見開かれた。

「……黙って見ていろ。これが、俺の戦いだ」

ヴァンが低く、地の底から響くような声で呟いた瞬間。

彼を拘束していた王の影が、紫色の閃光と共に粉々に吹き飛んだ。

ヴァンの全身を、眩いほどの紫電が駆け巡る。そして同時に、彼の周囲の空間が「ただ立っているだけ」で斬り裂かれるような、異常なまでの鋭い剣気が立ち昇った。

その姿はまさに鬼神。血に染まった鋼の肉体に、雷の神速と、天下無双の剣術が完璧に融合を果たそうとしていた。

だが、英霊・宮本武蔵の魂がヴァンの器に完全に馴染むにあたり、一つだけ「欠落」しているものがあった。

武蔵の代名詞たる兵法、すなわち『二天一流』。二本の剣を用いた戦法である。

現在、ヴァンが手にしているのは、両手持ちを前提とした巨大で重厚な漆黒の斬馬刀一本のみだった。

(……左手が、空いているな)

ヴァンは、巨大な斬馬刀を平然と右手一本だけで持ち上げた。雷獣の魔力で極限まで強化された今の彼の膂力ならば、両手用の大剣すらも羽のように軽く振るうことができる。

そしてヴァンは、極めて自然な動作で空いた左手を自身の腰の裏へと伸ばした。

そこにあったのは、無骨な革の鞘。

ヴァンが引き抜いたのは、分厚く、刃こぼれ一つない頑丈な『小太刀(鉈)』だった。

それは、彼が勇者パーティーで雑用係を押し付けられていた頃から肌身離さず持ち歩いていたものだ。野営の際の薪割りや、倒した魔物の分厚い皮を剥ぎ取る解体作業など、あらゆる「雑務」をこなすための道具。

リーチが短く、魔法の付与もないただの分厚い鉄の塊であるため、これまで対魔物戦の主力として抜くことは一度もなかった。

しかし、無双の剣豪の魂は、その泥臭い「雑用の道具」を、至高の小太刀として選んだのだ。

右手に、巨大な漆黒の斬馬刀(大太刀)。

左手に、使い込まれた分厚い野営用の小太刀(小太刀)。

武蔵のことわりとヴァンの戦士としての歴史が交わり、二振りの物理的な鉄の刃に、限界まで圧縮された紫電の魔力がバチバチと纏わりつく。

ここに、雷光を纏う神速の二刀流剣士が完成した。

『ば、馬鹿な……! 一人の人間に、二つの高位の魂が同時に宿るなど、あり得るはずがない! 肉体が耐えられるはずがないのだ!』

シュヴァルツが顔を歪め、広場を覆うすべての闇を一点に集約させ、漆黒の巨大な刃としてヴァンへと放った。

絶対の虚無空間そのものを質量に変えた、逃げ場のない必殺の一撃。

しかし、ヴァンの瞳はもはや、闇など見てはいなかった。

今の彼に宿るのは、雷獣の超音速の反射神経と、剣豪・宮本武蔵が到達した「くう」の境地。

あらゆる殺気も、魔力も、そして空間の歪みすらも、彼にとっては止まって見える風景に過ぎない。

「……遅い」

ヴァンが一歩、地を踏み込んだ。

その瞬間、轟音すら置き去りにする神速の踏み込みが、シュヴァルツの放った絶対的な闇の刃を真正面から迎え撃った。

右手の斬馬刀が、闇の質量を物理的な豪腕で真っ向から受け止め、強引に弾き返す。

そして間髪入れず、左手の小太刀が、神速の軌道で闇の中心部を袈裟懸けに一閃した。

ジジジィィィィンッ!!!

空間そのものが悲鳴を上げるような凄まじい切断音と共に、シュヴァルツの絶対領域であった漆黒の暗闇が、十字に斬り裂かれ、光の破片となって完全に崩壊した。

奪われていた視覚と聴覚が、再び世界に戻ってくる。

『ガ……ァッ!? 私の、影の絶対領域が……ただの鉄の剣二本に、斬り裂かれただと!?』

シュヴァルツが体勢を崩し、信じられないものを見るように後ずさった。

陽光が差し込む広場の中央。

全身から血の霧を漂わせ、紫電のオーラを纏いながら、重厚な斬馬刀と小太刀を八の字に構えたヴァンが、静かに王を見据えていた。

「言ったはずだ。お前の薄っぺらな影など、俺の剣で全て叩き斬ると」

ヴァンの身体から発せられるプレッシャーは、もはや人間が発していい次元のものを遥かに超えていた。

痛覚というリミッターを外し、肉体の崩壊を意志の力だけで繋ぎ止めながら顕現させた、禁忌の多重同化。

世界を絶望に陥れたダークエルフの王を討つための、圧倒的かつ理不尽なまでの蹂躙劇が、今、静かに幕を開けようとしていた。

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