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追放された戦士は『同化』で覚醒する〜不要とされた俺が伝説の剣豪を身に宿し、やがて多民族国家を創り上げるまで〜  作者: 八咫 日本


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第94話 凍てつく氷晶と砕け散る暗殺者

広場を揺るがすような絶大なる歓声と、自身の名を呼ぶ熱狂的な声援。

かつて無能と蔑まれ、石を投げられるようにして追放された都市の真ん中で、ヴァンは英雄としての賞賛を一身に浴びていた。

しかし、ヴァンの表情に慢心や喜びの色は一切ない。

彼は背中の鞘に収めかけた斬馬刀から手を離さず、油断なく周囲の建物の影へと鋭い視線を巡らせていた。

「喜ぶのは早い。負傷者を要塞の中へ運べ。歩ける者は広場の中央から動くな」

ヴァンの低くよく通る声が、熱狂していた兵士たちの背筋を正させる。

「は、はいっ! 総員、負傷者を保護しろ! ヴァン殿の邪魔にならないよう中央へ固まれ!」

防衛隊の隊長が声を張り上げ、市民たちを迅速に誘導し始めた。

ヴァンの戦士としての研ぎ澄まされた直感は正しかった。

上空を覆う不気味な暗雲は未だ晴れず、都市の路地という路地から、どす黒い冷気がじわじわと広場へ向かって這い寄ってきていたのだ。

「……先遣隊と本隊をたった一人で壊滅させるとは。人間の戦士風情が、思い上がるなよ」

広場の出口を塞ぐように、石畳に落ちた建物の影が突如としてコールタールのようにドロドロと溶け出し始めた。

その影の泥濘の中から、音もなく姿を現したのは、先ほどの部隊とは装備からして格が違う、暗殺に特化したダークエルフの精鋭部隊だった。彼らの顔は漆黒の布で覆われ、その手には魔力を吸い尽くす呪いの短剣が握られている。

「影のシャドウ・ボグを展開しろ。広場にいる人間どもを、一人残らず絶望の底へ引きずり込め!」

精鋭部隊のリーダーが短く命じると、彼らの足元から溢れ出した影が、瞬く間に広場の半分を底なしの泥濘へと変えてしまった。

「うわあっ!?」

「足が、足が沈む……っ!」

逃げ遅れた数人の兵士が影の沼に足を取られ、腰のあたりまで飲み込まれて悲鳴を上げる。彼らが魔法で抵抗しようとしても、沼自体が魔力を喰らう性質を持っているため、一切の詠唱が成立しない。

精鋭部隊のダークエルフたちは、その影の沼の中をまるで水面を滑る魚のように高速で移動し、身動きの取れない兵士たちの首を刈り取ろうと漆黒の短剣を構えて肉薄した。

「セリア!」

ヴァンが叫ぶと同時、彼の背後に控えていたセリアが即座に両手を胸の前で組み合わせた。

相手は不定形の影の沼であり、物理的な斬撃だけでは水面を叩くように威力が減衰してしまう。ならば、その概念ごと物理的に固定し、粉砕すればいい。

「ええ、分かっているわ。あなたの器に、絶対零度の吹雪を降ろす!」

セリアの深く澄んだ声が、絶望の沼に沈みかけた広場に響き渡る。

『極北の深淵より出でし、凍てつく世界の支配者。万物を沈黙させる絶対零度の吐息よ。今、強靭なる鉄の器を以てその冷厳なる魂を縛り、我らが敵を砕く氷牙となれ』

セリアの足元から、今度は目を開けていられないほどの眩い氷白色の光が弾け飛んだ。

周囲の気温が一瞬にして数十度も急降下し、大気中の水分が凍りついてダイヤモンドダストとなってキラキラと舞い散る。石畳の上に、複雑な六角形の雪の結晶を象った巨大な召喚陣が展開され、その底から凄まじい吹雪と共に巨大な氷の竜が顕現した。

『絶対零度の氷晶竜』。

触れるもの全ての分子運動を停止させ、概念すらも凍結させる超高位の氷属性召喚獣である。

「同化ッ!」

セリアの号令と共に、氷晶竜は猛吹雪の渦となってヴァンの肉体へと殺到した。

常人であれば、魂が触れた瞬間に血液が凍りつき、肉体が内側から破裂して即死するほどの極低温。しかし、いかなる苦痛も感じず、極限の環境を生き抜いてきたヴァンの規格外の器は、その暴れ狂う絶対零度の魔力を完全にねじ伏せ、自らの肉体の内側へと強引に封じ込めた。

ゴォォォォッ!

ヴァンの全身から、白い冷気がオーラとなって激しく噴き出す。

彼の強靭な筋肉は霜を纏ったような薄氷の鎧に覆われ、吐く息は真っ白に染まり、その瞳は氷河のように冷たく青い光を放っていた。右手に握られた斬馬刀の刀身には超高密度の氷の魔力が凝縮され、周囲の空間すらも歪んで見えるほどの絶対零度の刃へと変貌している。

「……冷えるな。だが、悪くない」

ヴァンは白く凍りついた息を吐き出すと、影の沼へと向かって一直線に踏み込んだ。

「馬鹿め! 影の沼に自ら飛び込んでくるとは!」

ダークエルフの精鋭たちが嘲笑し、沼の中から無数の影の触手を伸ばしてヴァンの手足を絡め取ろうとする。

だが、ヴァンの超人的な反射神経は、足元から迫る影の軌道を完璧に見切っていた。

彼は迫り来る影の触手を躱すことすらしない。ただ、神速のステップで影の沼の表面を強く蹴りつけた。

パキィィィィンッ!!

ヴァンの足が触れた瞬間、対象の魔力を喰らうはずの影の沼が、凄まじい音を立てて真っ白に凍りついた。

彼の肉体に完全に封じ込められた氷晶竜の魔力は、外部から干渉しようとした影を逆に絶対零度で侵食し、不定形であった影を物理的な「ただの氷の塊」へと変質させたのだ。

「な、なんだと!? 影が、凍った……!?」

驚愕に動きを止めたダークエルフの精鋭に対し、ヴァンは氷結した影の沼の上を滑るようにして瞬時に間合いを詰めた。

彼の手には、絶対零度の冷気を纏った斬馬刀が握られている。

「動きが止まっているぞ、暗殺者」

冷酷な宣告と共に、ヴァンの斬馬刀が一閃された。

「ギッ、アアアァァッ!」

刃が触れた瞬間、ダークエルフの肉体は漆黒の鎧ごと瞬時に凍結し、そのままヴァンの圧倒的な物理的膂力によって、ガラス細工のように粉々に砕け散った。血の一滴すら流れることなく、ただ赤い氷の結晶となって空中に散華していく。

「ヒッ……! ば、化け物……! 距離を取れ! 沼に潜って態勢を立て直せ!」

残る精鋭たちがパニックに陥り、凍結を免れた影の沼の奥深くへと潜り込もうとする。

「逃がすか」

ヴァンは斬馬刀を上段に構え、自らの肉体を限界まで捻り上げた。

バクスの料理で極限まで強化された筋繊維と、氷晶竜の強大な魔力が、一本の刃の中に完全に融合する。

「砕け散れ」

ヴァンが裂帛の気合いと共に、斬馬刀を眼下の影の沼へと全力で突き立てた。

ドゴォォォォォォッ!!

刀身から放たれた絶対零度の衝撃波が、広場の半分を覆っていた影の沼全体へと一瞬にして伝播した。

ドロドロと蠢いていた巨大な闇が、端から端まで完全に白く凍りつき、巨大な氷の平原へと姿を変える。影の中に潜んでいた十数人のダークエルフの精鋭たちも、逃げる間もなくその氷の中に完全に閉じ込められた。

そして次の瞬間。

ヴァンの突き立てた斬馬刀を起点として、凍りついた影の沼全体に無数の亀裂が走り――。

パアァァァァンッ!!!

鼓膜を突き破るような破砕音と共に、広場を覆っていた影の沼が、中に閉じ込められていたダークエルフたちもろとも、数万の氷の欠片となって完全に粉砕された。

太陽の光を反射してキラキラと輝く氷の雨が、歓声の止んだ広場に静かに降り注ぐ。

不定形の影を利用した暗殺部隊の必殺の罠すらも、ヴァンの絶対的な肉体とセリアの同化召喚の前では、全く無意味な戯れに過ぎなかった。

ヴァンは静かに斬馬刀を引き抜き、付着した氷の結晶を振り払って鞘に収めた。

彼を包んでいた氷晶竜のオーラが霧散し、周囲の気温がゆっくりと元に戻っていく。影の沼に沈みかけていた兵士たちも、沼が粉砕されたことで無事に解放され、腰を抜かしたままヴァンの背中を見上げていた。

圧倒的。ただひたすらに、圧倒的。

召喚師の常識を覆すその戦いぶりに、都市の人々はもはや歓声を上げることすら忘れ、ただ神の御業を見るかのような畏敬の念を持って、孤独な戦士の姿を瞳に焼き付けていた。

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