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追放された戦士は『同化』で覚醒する〜不要とされた俺が伝説の剣豪を身に宿し、やがて多民族国家を創り上げるまで〜  作者: 八咫 日本


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第92話 闇を狩る白銀と戦士の咆哮

建物の分厚い石壁ごと真っ二つに両断された仲間の姿を見て、広場に潜んでいたダークエルフの先遣隊に明確な動揺が走った。

「馬鹿な……人間の召喚師は、外部に魔法陣を展開しなければ何もできないはずだ! なぜあいつは、魔力を放出しもせずに動ける!」

「ええい、怯むな! 相手はたかが剣を振り回すだけの野蛮な戦士だ! 四方八方の影から一斉に串刺しにしてしまえ!」

先遣隊の指揮官らしき男が叫ぶと、広場の地面、壁、そして倒れている市民たちの影から、数十本にも及ぶ漆黒の刃と蔦が一斉に飛び出し、ヴァンに向かって全方位から襲いかかった。

勇者レオンたちであれば、迫り来る刃を視認することすらできず、悲鳴を上げる間もなく穴だらけにされていた必殺の同時攻撃である。

しかし、ヴァンの瞳に宿る『白銀の神狼』の蒼き双眸は、そのすべての軌道を完全に捉えていた。

「……遅すぎる。殺意も、魔力の流れも、何もかもが丸見えだ」

ヴァンが低く呟いた瞬間、彼の身体を覆う白銀のオーラが爆発的に膨張した。

神狼の超感覚は、背後からの奇襲だろうが足元からの拘束だろうが、対象が動くよりも一瞬早くその気配を察知する。ヴァンは石畳を蹴り、人間離れした神速のステップで刃の雨を掻い潜った。右へ、左へ、あるいは跳躍し、空中で身を捻る。迫り来る漆黒の刃はヴァンの残像を切り裂くのみで、彼の肉体にはかすり傷一つ負わせることができない。

「な、当たらない!? 影の速度に、人間の動体視力が追いつけるわけが……」

驚愕に目を見開いたダークエルフの喉元に、瞬時に間合いを詰めたヴァンの斬馬刀が深々と突き立てられた。

声にならない絶叫と共に、二人目のダークエルフが光の粒子となって消滅していく。

「ヒッ……! 距離を取れ! 影の領域をさらに広げろ! 奴の視覚と聴覚を完全に奪ってしまえ!」

指揮官の男が恐怖に顔を引き攣らせながら後退し、残る十数人の部下たちと共に大規模な影の魔法を詠唱し始めた。

彼らの足元から、コールタールのようにどす黒く粘り気のある闇が溢れ出し、広場全体を巨大な半球状に覆い尽くしていく。

それは、勇者パーティーを完膚なきまでに叩き潰した「沈黙と暗闇の絶対領域」だった。太陽の光は完全に遮断され、音の振動すらも闇に吸い込まれて消滅する。さらに卑劣なことに、彼らは広場に倒れていた市民たちを影の蔦で縛り上げ、自分たちの周囲に肉の盾として配置した。

「さあ、どうする戦士! この絶対の暗闇の中で、人質を斬らずに我々を見つけ出すことができるか!」

指揮官の嘲笑う声だけが、頭蓋骨に直接響くような嫌悪感を持ってヴァンの脳内に届く。

だが、ヴァンは斬馬刀を構えたまま、絶対の暗闇の中で静かに目を閉じた。

視覚と聴覚が封じられた世界。一般の人間であれば、己の手足の位置すら見失い、狂乱状態に陥るほどの根源的な恐怖。

しかし、ヴァンの内に宿る神狼の感覚器は、光や音といった表面的な情報など最初から必要としていなかった。

空気の微かな流れ、石畳を伝う僅かな振動、恐怖で早鐘のように鳴る市民の心拍、そして、影の中に潜むダークエルフたちのどす黒い魔力の脈動。

ヴァンの脳内には、暗闇に閉ざされた広場の完全な立体図が、蒼い光の線となって極めて精緻に描き出されていた。

「……お前たちは、魔法で目を塞げば勝てると思い込んでいる。森で生きる獣にとって、こんな薄っぺらな闇など、朝靄にも劣るというのにな」

声は音となって響かない。しかし、ヴァンの殺気は確実に闇の中のダークエルフたちへと伝播した。

ドォンッ!!

視界ゼロの暗闇の中、ヴァンが爆発的な脚力で石畳を踏み砕いた。

その凄まじい踏み込みは物理的な衝撃波を生み出し、空気を切り裂きながら一直線に敵へと肉薄する。

「なっ!? どこから……ギャアアアァァッ!」

市民を盾に隠れていたはずのダークエルフが、暗闇の中で正確に首を刎ね飛ばされた。

ヴァンは止まらない。白銀のオーラを引く一筋の流星となって、闇の中を縦横無尽に駆け抜ける。

「ひぃぃっ! 来るな! なぜこちらの位置が正確に分かる!」

「助け……!」

絶対的な優位に立っていたはずのダークエルフたちが、自らが作り出した暗闇の中で、見えない捕食者に狩られる側へと転落した。

市民たちには一切刃を当てることなく、彼らの後ろに潜む敵だけをピンポイントで両断していく。魔法を発動する隙はおろか、逃げ出す暇すら与えない、神速と超感覚がもたらす一方的な蹂躙であった。

「化け物め……っ!」

最後に残された指揮官が、ヤケクソになって自らの魔力を全て込めた巨大な影の槍を、闇雲に放った。

しかしヴァンは避けることすらせず、左手でその影の槍を正面から掴み取った。神狼のオーラを纏ったその膂力は、魔力で構成された物理的な質量を伴う槍を、万力のように握り潰し、ただの黒い煙へと粉砕する。

「俺の魔力は、この肉体という器に閉ざされている。外から啜ろうとするお前らのちんけな影など、届くはずもない」

頭蓋に直接響くヴァンの冷酷な宣告と共に、光を纏った斬馬刀が振り下ろされる。

指揮官の胴体が袈裟懸けに両断され、先遣隊は完全に全滅した。

術者を失ったことで、広場を覆っていた絶対の暗闇が霧散し、本来の昼間の光が戻ってくる。

ヴァンがゆっくりと息を吐き出し、斬馬刀を背中の鞘に収めると、彼を覆っていた白銀のオーラが静かに薄れていった。

静寂に包まれた広場で、へたり込んでいた市民や防衛隊の兵士たちは、ただ呆然とその光景を見つめていた。

最強と謳われた勇者パーティーですら何もできずに敗れ去った、見えざる影の軍勢。それを、外部への魔法陣を展開することもなく、己の肉体と一振りの剣だけで完膚なきまでに叩き潰したのだ。

「あ、あの方が……本当に、あのヴァンなのか?」

「無能な荷物持ちじゃなかったのか……? なんだ、あの圧倒的な強さは……」

かつて彼を底辺のゴミだと嘲笑い、石を投げて都市から追い出した人々。

彼らは今、己の無知と愚かさを激しく恥じると共に、都市を救うために舞い戻ってきたこの孤独な戦士の背中を、畏敬と圧倒的な希望の念を込めて見上げていた。

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