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追放された戦士は『同化』で覚醒する〜不要とされた俺が伝説の剣豪を身に宿し、やがて多民族国家を創り上げるまで〜  作者: 八咫 日本


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第77話 語られる夢と異端者たちの国

パチパチと爆ぜる焚き火の音が、静寂に包まれた夜の湖畔に心地よく響いている。

見上げれば、澄み切った夜空には数え切れないほどの星々が瞬き、巨大な鋼殻の移動要塞のシルエットをうっすらと浮かび上がらせていた。

ヒュドラ討伐の祝勝会は、穏やかな空気の中で続いていた。

バクスが焼き上げた極上の串焼き肉と、ルミナが提供したエルフワインは、彼らの心と体を芯から温めていく。かつて社会の底辺で冷遇され、孤独な夜を過ごしてきた彼らにとって、誰かと火を囲み、同じ飯を食って笑い合えるこの時間は、何にも代えがたい宝物のようなひとときだった。

「いやあ、本当に最高の気分だぜ」

バクスが空になった木彫りのカップを地面に置き、満足げに息をついた。彼の獣の耳が、パタパタと嬉しそうに揺れている。

「何が最高かって、俺の作った飯を、種族も見た目も関係なく、ただ純粋に美味いって言って食べてくれる奴らがいることだ。人間の街にいた頃は、こんなこと夢のまた夢だったからな」

バクスの言葉に、焚き火を囲む仲間たちの視線が集まる。

「俺はずっと、人間の街で自分の店を持つのが夢だった。美味い飯を作れば、誰だって笑顔になってくれると信じてたんだ。でも、現実は違った。獣人の毛が料理に入るだの、獣臭いだのと言われて、店を開くどころか厨房に立つことすら許されなかった。誰も俺の料理の味なんて見てくれなかった。俺についている、この耳と尻尾しか見てなかったんだ」

バクスは自嘲気味に笑い、手元の木の枝で焚き火の端を突いた。

「だからよ、俺はいつか作ってみたいんだ。人間も、エルフも、ドワーフも、獣人も……種族なんて一切関係なく、でっかい丸テーブルを囲んで、同じ大皿の肉をつっついて笑い合えるような、そんなバカでかい食堂をな」

「バクスさん……」

ルミナが、ワインで少し赤くなった頬を両手で包み込みながら、深く共感するように頷いた。

「分かります。私も、交易都市の裏通りでずっと同じことを思っていました。ハーフエルフというだけで忌み嫌われ、正当な報酬すら支払われない。私がどれだけ完璧な計算をして、商会に利益をもたらしても、手柄はすべて人間の商人たちに奪われて、借金だけが膨れ上がっていく……。そんな理不尽ばかりでした」

ルミナは顔を上げ、焚き火の向こうで揺らめく移動要塞を見つめた。

「だからこそ、ヴァンさんたちが私をそこから引きずり出してくれた時、決めたんです。私に任されたこの要塞の財産と物資は、絶対に公平に管理するって。そしていつか……どこの国の法律にも、種族の偏見にも縛られない、本当の意味で公平な市場を作りたい。居場所を奪われた人たちが、自分の才能と努力だけで正当に評価されて、安心して笑って暮らせるような場所を」

二人の語る夢。

それは、純血至上主義と召喚術の力のみが絶対とされるこの世界においては、あまりにも荒唐無稽で、実現不可能な幻想に過ぎない。

しかし、その場にいる誰一人として、彼らを笑う者はいなかった。

「がははっ、いいじゃねえか。種族無用の大食堂に、公平な大市場か」

バルガンが残された右腕で顎髭を撫でながら、豪快に笑う。

「だが、そんなふざけた場所を作ろうとすりゃ、既得権益にしがみつく各国の王族や貴族どもが黙っちゃいねえぞ。間違いなく軍隊を送って潰しに来るだろうな。……だからこそ、俺の出番ってわけだ」

ドワーフの建築家は、ギラリと目を輝かせた。

「俺が、どんな大国の軍勢だろうと、伝説級の魔物だろうと絶対に破れない、難攻不落の城壁を築いてやる。同胞に裏切られ、人間に利用され尽くした俺の最高の技術は、お前らみたいなはぐれ者を守るために使ってやるよ」

料理人、商人、建築家。

直接的な戦闘力を持たない彼らが、焚き火の温もりの中で語り合う、一つの理想。

「どの国にも属さない、居場所のない者たちのための場所……。それはもう、一つの国のようなものね」

セリアが、深い紫色の瞳を細めて静かに呟いた。

「ええ。異端の同化召喚師として、教会の地下でずっと息を潜めていた私にとっても、それはとても魅力的な夢だわ。世界のすべてを敵に回してでも、守る価値のある場所」

セリアの言葉に、全員の視線が自然とヴァンへと向けられた。

勇者パーティーの雑用係として、来る日も来る日も身を粉にして働きながら、最後は無能として最も理不尽に切り捨てられた戦士。この異端のパーティーの中心であり、圧倒的な力で彼らを理不尽から救い出してきた男。

ヴァンはしばらくの間、パチパチとはぜる炎を見つめていた。

彼の脳裏に浮かぶのは、召喚獣の強さだけで人間の価値を測り、他者を見下していたレオンやキースたちの嘲笑う顔だ。彼らが信奉する国家や社会のシステムは、強者だけを優遇し、弱者や異端者を徹底的に排除する残酷なものだった。

ヴァンはゆっくりと顔を上げ、仲間たちを真っ直ぐに見据えた。

「俺は、国づくりなんて気の利いたことは分からない」

ヴァンは静かに、しかし絶対の意志を込めて口を開いた。

「俺はただの戦士だ。前を塞ぐ敵を斬り伏せることしかできない。だが……お前たちがその場所を作りたいと願うなら、俺がお前たちの剣となり、盾となる。その夢を脅かす理不尽が迫るなら、俺がすべて斬り捨てる」

その短く不器用な誓いは、どんな英雄の演説よりも重く、彼らの胸に響いた。

バクスが感極まったように鼻をすすり、バルガンが大きく頷く。ルミナの目にはうっすらと涙が浮かび、セリアは誇らしげな微笑みを浮かべていた。

国家のしがらみに縛られない「自分たちだけの国」。

最初はただの酒の席の夢物語だったものが、ヴァンという最強の刃と、彼を支える完璧な歯車たちの間で共有された瞬間、それは明確な「目標」へと形を変えていた。

「……とはいえ、そんな国を創るには、今の俺たちじゃ圧倒的に知識も素材も足りねえな」

バルガンがワインを飲み干し、現実的な問題へと話題を戻す。

「この鋼殻の移動要塞も、まだまだ未完成だ。もっと強固な装甲素材と、未知の魔物に対する知識、それに……同じような志を持つ仲間も必要になってくる」

「それなら、次に向かうべき場所は決まりですね」

ルミナが懐から羊皮紙の地図を取り出し、焚き火の明かりに照らした。

「この未開の大地をさらに北東へ進んだ先には、バクスさんの同胞が多く住むという『獣人たちの霊峰』と、西には手付かずの魔法素材が眠る『エルフの深緑領』があると言われています」

「なるほど。人間の手が届かない場所から、情報を集め、力を蓄えようってわけだな」

バクスが腕をまくり上げ、やる気に満ちた表情を見せる。

「いいだろう。まずはその奥地を目指す。俺たちの国を創るための、本当の旅の始まりだ」

ヴァンが立ち上がり、漆黒の斬馬刀の柄に触れながら静かに宣言した。

夜空の星々が、彼らの新たな門出を祝福するように瞬いている。

社会から不要とされた異端者たち。彼らが理想の国を創り上げるための途方もない挑戦は、多頭蛇の討伐という実績を引っ提げ、未知なる領域への確かな一歩とともに、新たな幕を開けようとしていた。

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