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追放された戦士は『同化』で覚醒する〜不要とされた俺が伝説の剣豪を身に宿し、やがて多民族国家を創り上げるまで〜  作者: 八咫 日本


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第62話 搾取の鎖と見出された価値

薄暗い裏路地に、少女の震える声が響いた。

ルミナは自分の足元に転がった一枚の銀貨と、目の前に立つ巨漢の戦士を交互に見つめ、やがて堰を切ったようにぽつぽつと自らの事情を語り始めた。

彼女はハーフエルフとして生まれ、どちらの種族からも忌み嫌われながら育った。しかし彼女には、エルフから受け継いだ魔力植物の深い知識と、人間から受け継いだ計算高さ、そして何より、種族間の壁を越えて適正な物資を流通させたいという、商人としての純粋な夢があった。

魔境の縁に咲く希少な薬草。エルフの森でしか採れない香木。そしてドワーフの鉱山から流れてくる魔石。

ルミナの目利きと商品管理の技術は、この交易都市ファルガーにおいても群を抜いていた。もし彼女が公平な市場で商売を許されていれば、たちまちのうちに大店を構えることができたはずだった。

だが、この街の流通を牛耳る金貨の天秤商会が、彼女の才能と「ハーフエルフである」という立場の弱さに目をつけた。

彼らはルミナが商人ギルドに正式登録するための保証人になると持ちかけ、複雑な魔法契約書にサインをさせた。しかしその契約書には、認識阻害の魔法で隠された法外な手数料と、永遠に膨れ上がる高金利の借金が記されていたのだ。

気がついた時には、ルミナは金貨百枚という、一生かかっても返しきれない莫大な借金を背負わされていた。

商会は彼女を奴隷同然に扱い、彼女が独自ルートで仕入れた高品質な商品を二束三文で買い叩き、それを自らの商会の高級品として売り捌いて暴利を貪っている。もし逆らったり逃げたりすれば、借金のカタとして地下の違法な奴隷市場に売り飛ばすという脅しつきだった。

だから私は、こうして商会から与えられたわずかな不良在庫を、裏通りでこっそり売って、その日のパンを買うための銅貨を稼ぐしかないんです。

ルミナは力なく笑い、自らの丸みを帯びた耳を隠すように俯いた。

才能も夢も、すべてを権力と差別の前にすり潰され、ただ死んだように生きるだけの日々。

その絶望の深さは、かつて勇者パーティーで無能と蔑まれ、泥水をすすりながら雑用をこなしていたヴァンの過去と痛いほどに重なるものだった。

話は聞かせてもらったぜ、嬢ちゃん。

路地裏の入り口から、大きな荷袋を背負った獣人のバクスと、隻腕のドワーフであるバルガンが姿を現した。

バクスはルミナが並べていた星見草を手に取ると、その匂いを嗅いで感嘆の声を上げた。

すごいな。魔力植物は根を切り離した瞬間から魔力が抜け始めるっていうのに、こいつは特殊な樹液で切り口を塞いで、鮮度を完璧に保ってやがる。これなら俺の料理の香辛料としても、最高のポテンシャルを引き出せるぞ。

バルガンもまた、ゴザの端に置かれていた魔石の欠片を右手の指で弾き、その澄んだ音に目を丸くした。

驚いたぜ。ただ色で分けてるんじゃない。魔力の波長が完全に一致する石だけを選別して並べてやがる。ドワーフの熟練鉱夫でも、ここまで正確に石の性質を見抜くことはできねえ。おい、小娘。お前、これを全部一人でやったのか。

二人の規格外の職人からの突然の称賛に、ルミナは目を瞬かせた。

え、あ、はい……。誰も教えてくれないので、自分で本を読んだり、実際に触ったりして覚えただけで……。

十分だ。お前のその知識と技術は、金貨百枚どころの価値じゃない。

静かに告げたのは、ヴァンだった。

彼は漆黒の斬馬刀の柄に手を置き、ルミナを真っ直ぐに見下ろした。

俺たちはこれから、地図にない魔境の深部を切り拓き、どの国にも属さない俺たちだけの拠点を作るつもりだ。だが、俺たちには戦う力と物を作る技術はあっても、流通と交渉の知識がない。

ヴァンの言葉に、ルミナは息を呑んだ。

この戦士は、ハーフエルフである自分を、ただの哀れな被害者としてではなく、明確な価値を持つ「必要な人材」として評価しているのだ。

ルミナ。お前が俺たちの拠点から生み出される素材や武具を正当に評価し、それを世界に売り捌く商人になれ。お前の商人としての夢は、俺たちの拠点で叶えろ。

でも……私には商会の借金が……! あの商会の後ろ盾には、この街の領主や、強力な高位召喚師たちがついているんです。私と関われば、あなたたちまで命を狙われます!

ルミナが恐怖に顔を青ざめさせて叫ぶ。

しかし、ヴァンは微塵も動揺することなく、冷ややかな声で返した。

召喚師、か。

ヴァンの脳裏に、かつて自分を追放した勇者レオンやリーゼたちの姿が過る。召喚獣の力に胡座をかき、他者を踏みにじることを当然とする傲慢な者たち。

俺が一番嫌いな人種だ。借金の証文ごと、その商会を叩き潰す。

えっ……。

案内しろ、ルミナ。その金貨の天秤商会とやらの本拠地へ。

ルミナは信じられないものを見る目でヴァンを見上げた。

しかし、ヴァンの背後に立つセリアが、優雅な笑みを浮かべて頷いている。バクスも包丁の柄を叩いてやる気を見せ、バルガンに至っては嬉々として連射弩の弦を引き絞っている。

彼らは誰一人として、街を牛耳る商会や召喚師の存在を恐れていなかった。

半ば放心状態のルミナに案内され、ヴァンたちは交易都市の中心部へと向かった。

そこには、周囲の建物とは比較にならないほど豪奢な、大理石で造られた金貨の天秤商会の本部がそびえ立っていた。入り口には、全身を分厚い魔法の鎧で固めた屈強な傭兵たちが数人、鋭い眼光で周囲を睨みつけている。

ルミナの姿を認めた瞬間、傭兵の一人が下卑た笑いを浮かべて前に出た。

おいおい、逃げ出したと思ったら自分から戻ってきたのか、出来損ない。しかも、薄汚い獣人とドワーフ、それに頭の悪そうな戦士を連れてきやがって。ゴミ拾いでも始めたのか?

傭兵の嘲笑に、ルミナは恐怖でヴァンの背中に隠れるように身を縮めた。

どけ。用があるのは商会のトップだ。

ヴァンが低く、一切の感情を交えない声で告げる。

あぁ? 戦士風情が、この金貨の天秤商会に何の用だっていうんだ。お前みたいな底辺が足を踏み入れていい場所じゃねえんだよ。さっさとそこを退……。

傭兵が腰の剣を抜こうとした、その瞬間だった。

ヴァンは漆黒の斬馬刀を抜くことすら裏付けなかった。彼はただ一歩、無造作に踏み込み、傭兵の鳩尾に凄まじい速度で拳を叩き込んだ。

ゴフッ。

空気を叩き潰すような鈍い音。傭兵の分厚い魔法の鎧が、物理的な衝撃だけで蜘蛛の巣状にひび割れ、男は声を発することすらできずに白目を剥いて吹き飛んだ。大理石の壁に激突し、動かなくなる。

なっ……!? 魔法防壁を素手で砕いただと!?

残りの傭兵たちがパニックに陥り、一斉に武器を構える。

ヴァンは一切の容赦なく、次々と傭兵たちの懐に潜り込んでは、その規格外の膂力で次々と男たちを宙に舞わせていった。痛覚を持たず、極限の修羅場を潜り抜けてきたヴァンの動きは、街の警備程度しか経験のない傭兵たちにとって、まさに災害そのものだった。

わずか数十秒。

商会の入り口を守っていた傭兵たちは、ただの一人も立ち上がることができず、床に転がって呻き声を上げている。

ヴァンは血のついた拳を無造作に振り払い、商会の重厚な扉を見据えた。

その後ろで、ルミナは足の震えを必死に抑えながら、この常識外れの戦士の背中を見つめていた。

彼女の絶望に塗れた運命の歯車が、強引に、そして力強く逆回転を始めた瞬間だった。

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