↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追放された戦士は『同化』で覚醒する〜不要とされた俺が伝説の剣豪を身に宿し、やがて多民族国家を創り上げるまで〜  作者: 八咫 日本


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
57/196

第57話 忘却の自動人形と不可侵の霊体

青白い眼光の正体は、白い石材と未知の金属で構成された、無数の古代の自動人形たちだった。

人間よりも一回り大きく、顔の輪郭だけののっぺりとした頭部を持つ不気味な兵士たち。その関節部にはバルガンが扱うような歯車や滑車は見当たらず、全身に刻まれた幾何学的な魔力回路が青白く発光することで、滑らかで不気味な駆動音を響かせている。

「気をつけろ、ヴァン。あれはただの魔物じゃない。数千年前の魔法技術で作られた、純粋な殺戮用の自律兵器よ」

セリアが外套の裾を翻し、警戒の声を上げた。

「食えそうな部分は……全くねえな。ただの動く石っころだ」

バクスが包丁を抜きながらも、忌々しそうに舌打ちをする。

「歯車一つ使わずに、あれだけの質量を魔力だけで動かしてるっていうのか。古代の連中はどういう頭をしてやがったんだ」

バルガンは建築家としての好奇心と恐怖が入り混じった目で、迫り来る自動人形の群れを睨みつけた。

「食えない石の塊に用はない。一気に片付けるぞ、セリア」

ヴァンが背中の漆黒の斬馬刀を抜き放ち、静かに前傾姿勢をとる。

「ええ。硬い装甲の群れをすり抜け、関節の魔力回路を正確に断ち切るための刃を呼ぶわ」

セリアが暗い通路の中で両手を広げ、高く澄んだ声で詠唱を紡ぐ。

「熱砂の砂漠において、ただ一人で百の盗賊団を切り刻んだとされる幻影の舞手。双つの曲刀を操る砂塵の暗殺者よ、その神速の連撃の記憶を、今この器に宿したまえ」

虚空に、砂漠の熱風を思わせる琥珀色の魔法陣が展開された。

そこから現れたのは、顔を薄布で隠し、両手に鋭く反り返った双つの曲刀を持った浅黒い肌の戦士の幻影だった。幻影は砂が風に舞うような軽やかな足取りで、ヴァンの巨体へと吸い込まれるように同化した。

「同化召喚・砂塵の双刃」

ヴァンの肉体が、ふわりと重力を失ったかのように軽くなる。

狂戦士や盾騎士のような爆発的な筋力の膨張はない。代わりに、全身の関節と筋肉が極限までしなやかになり、彼の両腕には琥珀色の魔力で形成された二振りの幻影の曲刀が顕現した。自身の漆黒の斬馬刀を持たず、両手に幻影の刃を握る完全な双剣の構えである。

「排除、排除、排除」

自動人形たちが、機械的な無機質な音を発しながら、両腕に仕込まれた石の刃を振りかざして一斉に襲いかかってきた。

「シッ」

ヴァンは鋭い呼気とともに、床を滑るように前進した。

自動人形の石の刃がヴァンの頭部を薙ぐが、ヴァンは上体を極端に反らせてそれを紙一重で躱し、そのまま独楽のように回転しながら双つの曲刀を振るった。

琥珀色の刃が、自動人形の装甲そのものではなく、装甲の隙間にある青白く発光する魔力回路を正確に切り裂いていく。

砂漠の暗殺者の記憶が導き出す、人体の構造を超越した変幻自在の体捌き。巨漢のヴァンが踊るように群れの中を駆け抜けるたび、魔力供給を断たれた自動人形たちが、次々と火花を散らして機能停止し、崩れ落ちていった。

わずか数分の舞。

通路を埋め尽くしていた数十体の自動人形は、ただの一度もヴァンに触れることなく、ただの石の山へと変わっていた。

「相変わらず、無茶苦茶な動きをしやがる。あんな図体で、どうやってあんな曲芸みたいな真似を……」

バルガンが呆れたように呟きながら、機能停止した自動人形の残骸に歩み寄る。

ヴァンは幻影の曲刀を霧散させ、静かに同化を解除した。

「手応えがない。ただプログラムされた通りに動いているだけの人形だ。奥にいる本命は、こんなものではないはずだ」

ヴァンの言葉通り、遺跡の最深部から漏れ出す魔力の気配は、先ほどよりもさらに濃密で、肌を刺すような威圧感を放ち始めていた。

四人は警戒を怠らず、さらに奥へと進んだ。

やがて通路が終わり、彼らは広大な地下空間へと足を踏み入れた。

そこは、巨大なドーム状の神殿だった。

天井には満天の星空を模した発光石が埋め込まれ、空間の中央には、美しい純白の祭壇が設けられている。そしてその祭壇の上空には、バスケットボールほどの大きさの、眩い光を放つ多面体の水晶が静かに浮遊していた。

「あれが……この遺跡の魔力源。途方もない純度と密度を持った、古代のアーティファクトよ」

セリアが水晶を見上げ、息を呑む。

その一つの石から放たれる魔力は、一国の軍隊の魔術師全員を集めても到底及ばないほどの莫大なものだった。

「お宝発見ってわけだが……そう簡単には持ち帰らせてくれなさそうだな」

バクスが喉を鳴らし、祭壇の手前を指差した。

アーティファクトの直下。

そこには、先ほどの自動人形たちとは全く異なる存在が立ち塞がっていた。

それは、物理的な肉体を持っていなかった。

半透明の青白い光で構成された、身の丈五メートルを超える巨大な霊体。その姿は、古い時代の王室近衛騎士のような豪奢な鎧を纏い、手には巨大な幻影の大剣を握りしめている。

実体がないにもかかわらず、その霊体が放つ威圧感は、空間そのものを歪めるほどに圧倒的だった。

「霊的な守護者……。物理的な装甲の代わりに、純粋な魔力の塊そのもので形作られた古代の防衛機構よ」

セリアの顔に、かつてないほどの緊張が走る。

「実体がないなら、斬るだけだ」

ヴァンは漆黒の斬馬刀を上段に構え、迷うことなく霊体の騎士に向かって地を蹴った。

何の魂も同化していない、純粋なヴァン自身の膂力による一撃。空気を切り裂くような轟音とともに、巨大な刃が霊体の騎士の胴体を真っ二つに薙ぎ払った。

しかし。

「何っ……」

ヴァンは目を見開いた。

斬馬刀は、まるで水面を叩いたかのように何の抵抗もなく霊体の体をすり抜けてしまったのだ。両断されたはずの霊体の体は、一瞬にして元の形へと修復されていく。

物理攻撃の完全無効化。

霊体の騎士が、無機質な青白い瞳でヴァンを見下ろし、巨大な幻影の大剣を無音で振り下ろした。

ヴァンは咄嗟に斬馬刀を盾にして防御姿勢をとる。

ドガァァァァァンッ。

金属同士がぶつかる音はしなかった。代わりに、純粋な魔力の衝撃波がヴァンの巨体を襲い、彼を十メートル以上後方へと吹き飛ばした。

神殿の石柱に激突し、ヴァンは重い音を立てて床に落下する。

「ヴァン!」

セリアが悲鳴のような声を上げる。

「チッ、馬鹿野郎! 物理が通じない相手にどうやって勝つってんだ!」

バルガンが連射弩を構えながら叫ぶが、彼の放った鋼鉄の矢もまた、霊体の騎士の体を虚しくすり抜けて背後の壁に突き刺さるだけだった。

ヴァンは瓦礫の中からゆっくりと立ち上がった。

痛覚を遮断された彼の肉体は痛みを感じていないが、受けた衝撃は確実に彼の内臓や骨にダメージを蓄積させていた。口の端から一筋の血が流れ落ちる。

「……なるほど。物質ではない相手に、鋼の剣は意味をなさないか」

ヴァンは血を拭い、冷静に相手との距離を測り直す。

「駄目よ、ヴァン! あの守護者は純粋な魔力の結晶体。普通の英雄や戦士の魂を同化させても、物理的な攻撃しかできない魂では決して干渉できないわ!」

セリアが焦燥に駆られた声で叫んだ。

「ならば、どうする。お前の持ち駒の中に、あいつを斬れる魂はないのか」

ヴァンの静かな問いに、セリアは唇を強く噛み締めた。

ある。

物理法則を無視し、魔力そのものを焼き尽くす、概念的な存在の魂。

しかし、それはセリアがかつて地下教会に幽閉される原因となった、絶対に呼び出してはならないとされる「禁忌の魂」だった。

「あるわ……。でも、それは人間の器が耐えられるものじゃない。自我を喰い破られ、肉体が内側から崩壊する『深淵の悪魔』の魂よ。痛覚のないあなたでも、精神が完全に焼き切れてしまうかもしれない」

セリアの声は震えていた。ヴァンを失うかもしれないという恐怖が、彼女の心を激しく揺さぶっている。

霊体の騎士が再び巨大な大剣を振りかざし、神殿全体を凍りつかせるような莫大な魔力を収束させ始めた。次の一撃は、間違いなく彼ら全員を消し飛ばす。

ヴァンは振り返り、セリアの紫色の瞳を真っ直ぐに見つめた。

その瞳には、狂気も、死への恐怖も一切ない。ただ、底知れぬ虚無と、仲間を護るという常軌を逸した絶対的な意志だけが静かに燃えていた。

「俺の器を信じろ、セリア。お前の持つ最も深く、最も黒い魂を、俺に降ろせ」

最強の戦士の覚悟を受け、セリアは震える手を強く握り締めた。

アーティファクトの光が瞬く古代の神殿で、かつて誰も見たことのない、禁忌の同化召喚の扉が開かれようとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。