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追放された戦士は『同化』で覚醒する〜不要とされた俺が伝説の剣豪を身に宿し、やがて多民族国家を創り上げるまで〜  作者: 八咫 日本


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第48話 白銀の死地と温かな火影

洞窟の外では、夜が深まるにつれて暴風雪が完全に狂気を帯びていた。

ヒュオォォォという耳をつんざくような風の音が岩肌を叩きつけ、気温はすでに人間がまともに呼吸することすら不可能な、絶対零度の領域へと突入しつつあった。山頂付近に広がる、通称「白死の領域」である。

しかし、ヴァンたちが身を寄せる洞窟の中は、嘘のように穏やかで温かな空気に満ちていた。

烈風の怪鳥の特製厚切りステーキを平らげた後、バクスはさらに怪鳥の残った骨と荒野の岩塩草をじっくりと煮出し、食後の温かい薬膳茶を淹れてくれた。

「ほらよ。怪鳥の骨から溶け出した魔力が、胃袋の中で肉の消化を助けてくれる。寝ている間に体の芯から疲れを抜く特製のお茶だ」

木のコップを受け取ると、ヴァンは静かに口をつけた。

香ばしい匂いと、微かな塩気が口内に広がる。ステーキの恩恵である「風の魔力繊維」がすでに皮膚の表面に薄い膜を形成しており、洞窟の入り口から吹き込む吹雪の冷気を完全に遮断していた。

「……信じられないわね」

セリアが両手でコップを包み込みながら、不思議そうに自分の腕を見つめた。

「私の魔力探知では、外の気温は完全に致死レベルよ。本来なら、どんなに分厚い毛皮を着込んでも、数時間で血液が凍りつくはず。それなのに、今は春の陽だまりの中にいるみたいに暖かいわ」

「へへっ、だろ。食材の持つ魔力を余すことなく引き出し、食ったやつの肉体に完全に定着させる。これが俺の料理人としての魂さ」

バクスは照れくさそうに笑いながら、自分の愛用の包丁を取り出し、丁寧に布で磨き始めた。焚き火の揺らめく光が、獣人の横顔を優しく照らし出している。

「俺はな、ずっと人間の街で自分の店を持ちたかったんだ」

バクスは包丁の刃こぼれを確認しながら、ぽつりと語り始めた。

「冒険者たちが過酷な依頼から帰ってきた時、冷たい干し肉じゃなくて、腹の底から温まるような美味い飯を食わせてやりたかった。魔物の肉だって、俺の腕なら最高の料理にできるって証明したかったんだよ」

しかし、彼の声には深い諦めと悲哀が混じっていた。

「でも、人間の国じゃあ、俺たち獣人はただの薄汚い亜人さ。『獣の匂いがする奴を厨房に入れるな』『魔物の肉で毒殺する気か』って、ギルドの連中に店を持つ権利どころか、大切な包丁まで奪われそうになった。……結局、俺は街から逃げ出して、荒野で密猟者どもに蹴り飛ばされるだけの負け犬になっちまったんだ」

バクスは自嘲気味に笑い、磨き終わった包丁を鞘に収めた。

その場に、薪がはぜるパチパチという音だけが静かに響く。

「愚かな連中ね」

静寂を破ったのは、セリアの冷ややかな声だった。

「本質を見抜く目を持たない人間は、どこにでもいるわ。私の『同化召喚』を、術者の肉体を破壊するだけの欠陥魔法だと切り捨てて、私を異端者として地下に追いやったあの街の召喚師たちのようにね。彼らは、理解できないものを迫害することでしか、自分の小さな常識を守れないのよ」

セリアの言葉には、かつて自分が受けた理不尽な扱いに対する静かな怒りと、それを乗り越えた誇りが入り混じっていた。

ヴァンは手元のコップの茶を飲み干すと、傍らに置かれた漆黒の斬馬刀の柄に手を置いた。

「バクス」

低く落ち着いたヴァンの声に、獣人の料理人が顔を上げる。

「お前の飯の価値を匂いや種族でしか測れない連中など、放っておけばいい。俺の器は、お前の料理がなければとっくに砕け散っている。お前の料理人としての夢は、俺たちの胃袋で叶えろ。いずれこの旅の果てに、誰もがお前の飯を笑って食えるような場所が見つかれば、そこに店を建てればいい」

ヴァンの飾らない、しかし絶対の信頼が込められた言葉に、バクスは目を丸くし、やがて目頭を熱くして深く頷いた。

「ああ……。ああ、そうさせてもらうぜ、ヴァン。あんたたちの胃袋は、死ぬまでこの俺が満たしてやる!」

社会の底辺から追放された三人の異端者たち。彼らはこの冷たい魔境の洞窟の中で、焚き火の温もりを分かち合いながら、決して切れることのない強固な絆を確かに結び合わせていた。

翌朝。

洞窟を一歩出たヴァンたちを待ち受けていたのは、視界を完全に白一色に染め上げる猛烈な吹雪だった。

しかし、彼らの歩みに迷いや遅れは一切なかった。

「すごいわ、本当に風の抵抗を全く感じない」

セリアが深い青の外套をなびかせながら、驚きの声を上げる。

烈風の怪鳥のステーキがもたらした加護は完璧だった。暴風雪は彼らの体の数センチ手前で見えない壁に弾かれ、服を濡らすことも、体温を奪うこともできない。

「だろ! これなら山頂を一気に越えられるぜ!」

バクスが先頭を歩きながら、意気揚々と声を上げる。

だが、その時。分厚い雪の壁を突き破り、巨大な白い影がバクスに向かって襲いかかってきた。

「危ないっ!」

セリアの叫びと同時、ヴァンがバクスの前に一瞬で割り込んだ。

現れたのは、体長四メートルを超える白銀の毛皮に覆われた四足歩行の魔獣、氷殻の白猿だった。両腕には氷の結晶が分厚く纏わりつき、天然の巨大なハンマーと化している。

白猿が強烈な冷気を帯びた氷のハンマーを、ヴァンの巨体に向かって振り下ろす。

「セリア、氷を砕く力だ」

「ええ、任せて!」

セリアが吹雪の中で両手をかざし、即座に詠唱を放つ。

「極寒の北海を支配した、豪快なる氷海の荒くれ者。巨大な戦斧で流氷を砕き割ったとされる海賊の魂よ、その砕氷の記憶を、今この器に宿したまえ」

虚空に水色の魔法陣が展開され、毛皮を纏い、両手に巨大な戦斧を持った屈強な北方の海賊の幻影が現れた。幻影は豪快な雄叫びを上げながら、ヴァンの肉体へと同化する。

「同化召喚・北方の砕氷戦士」

ヴァンの筋肉がさらに一回り大きく隆起し、彼の周囲の雪がその熱気で一瞬にして蒸発した。

海賊の魂がもたらすのは、寒冷地帯での圧倒的な適応力と、硬い氷を真っ向から打ち砕くための豪快な斧の技術。

ヴァンは漆黒の斬馬刀を両手で握り、迫り来る白猿の氷のハンマーに対して、回避することなく下から強引にカチ上げた。

ガキィィィンッ。

甲高い破砕音が響き渡り、白猿の自慢の氷のハンマーが、斬馬刀の圧倒的な質量と海賊の技術の前に粉々に砕け散った。

「ギャァァァッ!」

白猿が驚愕の悲鳴を上げた隙を逃さず、ヴァンは斬馬刀を大きく振りかぶり、白猿の胴体を袈裟懸けに両断した。分厚い白銀の毛皮ごと、魔獣の巨体が一瞬にして雪原へと沈む。

「終わったぞ」

ヴァンは静かに同化を解除し、斬馬刀を背中の鞘に収めた。

息一つ乱していないその姿は、吹雪の白魔すらも恐れをなすほどの圧倒的な存在感を放っていた。

「へへっ、さすがはヴァンだ。あの白猿の肉は筋張ってて食えないが、毛皮は最高の寝袋になるぜ。後で剥いでやるからな」

バクスが安堵の笑みを浮かべながら、白猿の死骸を指差す。

三人は再び歩みを進めた。

過酷な白死の領域は、バクスの極上の料理と、セリアの無数の魂、そしてヴァンの絶対的な力の前では、もはや単なる通過点に過ぎなかった。

やがて彼らの視界が開け、雲を抜けた山頂の向こう側に、広大な未知の領域と、古びた巨大な建造物の影がぼんやりと見え始めていた。

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