表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追放された戦士は『同化』で覚醒する〜不要とされた俺が伝説の剣豪を身に宿し、やがて多民族国家を創り上げるまで〜  作者: 八咫 日本


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
46/187

第46話 山岳の野営と天空の支配者

魔境の第二層、天を突くような巨大な山岳地帯の中腹。

周囲の景色は、荒野の赤茶けた土から、険しく切り立った灰色の岩肌へと完全に姿を変えていた。標高が上がるにつれて空気は薄くなり、吹き下ろしてくる風は肌を刺すような氷の冷気を帯びている。

だが、ヴァンたち三人が身を寄せている岩穴の野営地には、外の過酷な環境を忘れさせるほどの温かな空気が満ちていた。

パチパチとはぜる焚き火の上で、使い込まれた鉄鍋が心地よい音を立てている。獣人の料理人バクスが、昨日仕留めたばかりのロック・キメラの岩の胴体から取り出した極上の骨髄を使い、特製のシチューを煮込んでいたのだ。

骨髄から溶け出した濃厚な脂が、荒野で採取した香草と絡み合い、冷え切った岩穴の中に暴力的なほど食欲をそそる芳醇な香りを充満させている。

さあ、出来たぜ。キメラの骨髄と岩塩草の濃厚とろみシチューだ。冷めないうちに腹に入れてくれ。

バクスから渡された熱々の木の器を受け取り、ヴァンは木のスプーンでそれを一口すくって口に運んだ。

その瞬間、舌の上で骨髄の濃厚な旨味が爆発し、とろけるような食感とともに、喉の奥へと滑り落ちていく。そして、胃袋に到達したシチューは瞬時に強烈な熱源へと変わり、ヴァンの巨体の隅々にまで、マグマのような温かな魔力を送り込み始めた。

美味い。凍えていた指先まで、一瞬で熱が通っていく。

だろ。キメラの骨髄には、大地の魔力が濃縮されている。それを俺の酵素で分解して吸収効率を極限まで高めてあるからな。これ一杯で、吹雪の中に裸で放り出されても半日は凍えないぜ。

バクスが誇らしげに笑い、隣ではセリアも幸せそうにシチューを味わいながら、冷えた手を器で温めている。

ヴァンは無言で二口目を味わいながら、ふと、勇者パーティーにいた頃の野営を思い返していた。

勇者レオンや魔術師のリーゼたちは、常に魔法で温度調整された快適な特注テントの中で眠りについていた。その間、雑用係であるヴァンはテントの外で、凍えるような寒さの中、粗末な布切れ一枚を被って朝まで見張りを強制されていた。

与えられる食事は、歯が欠けそうなほど硬い干し肉と、冷え切った泥水のようなスープだけ。寒さと飢えで感覚が麻痺していく中で、ただひたすらに魔物の気配を監視し続けるだけの孤独な夜。

それが今やどうだ。

自分の背中を完全に預けられる理解者であるセリアがいて、自分の酷使した肉体を最高の料理で内側から癒してくれるバクスがいる。社会から不要とされ、底辺を這いずり回っていた彼らは、この過酷な魔境において、かつてないほど豊かで温かな日常を手に入れていた。

この先は、さらに冷え込みが厳しくなるわね。頂上付近は一年中雪と氷に覆われた白死の領域だと、古い文献で読んだことがあるわ。

セリアがシチューを飲み干し、紫色の瞳を岩穴の外の暗闇に向けた。

その言葉に、バクスが真剣な表情になって頷く。

ああ。このシチューの熱も、あの山頂の絶対零度の中じゃ長くは持たない。だからこそ、山頂にアタックする前に、どうしても手に入れておきたい極上の食材があるんだ。

食材、か。また厄介な相手になりそうだな。

ヴァンが空になった器を置き、静かに先を促す。

この山岳地帯の上空を縄張りにしている、烈風の怪鳥と呼ばれる巨大な鳥の魔物だ。そいつの胸肉は、風と冷気を完全に遮断する特殊な魔力繊維でできている。それを俺の腕で適切な処理を施してステーキにすれば、山頂の吹雪すら心地よく感じるほどの完璧な防寒と、風の抵抗を無効化する加護を肉体に得ることができるんだ。

なるほど。山頂を越えるための鍵は、空を支配する怪鳥の肉というわけね。

翌朝。

ヴァンたちは岩穴を出て、切り立った崖に作られた獣道を慎重に登り始めていた。

右を見れば雲海が広がり、左を見れば滑落すれば即死の絶壁。足場は狭く、少しでも気を抜けば谷底へと真っ逆さまだ。

そんな過酷な地形で、バクスの警告は現実のものとなった。

キィィィィィンッ。

耳をつんざくような甲高い鳴き声が上空から響き渡った。

見上げると、雲海を切り裂くようにして、体長十メートルを超える巨大な鳥の魔物が姿を現した。青白い羽根に覆われ、鋭い嘴と巨大な鉤爪を持つ烈風の怪鳥である。

来たぞ。あいつらは群れで空を支配している。一匹に見つかったってことは、次から次へと仲間を呼ぶはずだ。

バクスの叫びと同時、怪鳥が巨大な翼を大きく羽ばたかせた。

それだけで、ただでさえ強い山の風が圧縮され、目に見えるほどの鋭い不可視の風刃となってヴァンたちに襲いかかってきた。

ヴァンは咄嗟に背中の漆黒の斬馬刀を抜き放ち、巨大な刀身を盾にして風刃を弾き返した。

金属が激しくぶつかり合うような甲高い音が響き、ヴァンの巨体が足元の岩ごと数センチ後方へ押し込まれる。

物理的な質量を持った風の刃か。しかも、あの高度から一方的に撃ち下ろしてくるとはな。

斬馬刀を構えたまま、ヴァンは冷静に上空の敵を観察した。

足場が悪すぎる。この狭い崖の上では、狂戦士の暴力的な踏み込みも、槍騎士の突進も使うことができない。重力に縛られたままでは、空を自在に舞い、遠距離から風の刃を放ってくる怪鳥に攻撃を届かせる手段がなかった。

ヴァン。これまでの地に足のついた英霊たちでは、あの空の支配者には届かないわ。

背後から、セリアの静かな、しかし自信に満ちた声が響いた。

彼女は崖の壁面に背を預けながら、上空で旋回する怪鳥を見据え、その紫色の瞳を妖しく輝かせている。

地の利が相手にあるなら、その利ごと奪い取ってしまえばいい。私たちは今から、重力の鎖を断ち切ってあの空を蹂躙するのよ。

空を、か。悪くない。

ヴァンの口角がわずかに上がる。

セリアは深く息を吸い込み、吹き荒れる暴風の中で、両手を天高く掲げた。かつてない次元の同化召喚を成立させるための、神話の扉を開く詠唱が静かに始まろうとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ