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追放された戦士は『同化』で覚醒する〜不要とされた俺が伝説の剣豪を身に宿し、やがて多民族国家を創り上げるまで〜  作者: 八咫 日本


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第4話 届かない忠告と夜闇の歩哨

太陽が岩山の稜線に沈むと、周囲の空気は一変した。

昼間あれほど肌を焼き付けていた熱気は嘘のように消え失せ、代わりに骨の髄まで凍りつくような冷たい夜風が岩の間を吹き抜け始めた。急激な気温の変化によって岩が収縮し、あちこちで不気味な軋み音が鳴っている。乾燥した空気は喉の奥を刺すように冷たく、息を吐くたびに濃い白霧となって闇に溶けていった。

ヴァンは、硬い岩盤の上に巨大な天幕を設営するという難題に直面していた。土の地面とは違い、鉄のペグを打ち込むには岩のわずかな亀裂を見つけ出さなければならない。重い鉄槌を振り下ろすたびに、硬質な衝撃が手首から肘、そして肩へと強烈な痺れとなって伝わってくる。手はすでに豆が潰れ、血が滲んでいたが、ヴァンの表情に痛みを堪える様子はない。彼はただ機械のように正確な動作を繰り返し、風の向きを計算して天幕が最も安定する角度を導き出していた。

天幕が完成し、内部に魔力で発熱する魔石ストーブを設置し終える頃には、完全に日が落ちていた。

レオン、リーゼ、キースの三人は、すでに温かい天幕の中でくつろいでいる。彼らの夕食は、街の高級レストランで調理され、時間停止の魔法袋に保存されていた極上のシチューと焼きたての白パンだ。芳醇な肉の香りが風に乗って漂ってくるが、天幕の外で焚き火の番をするヴァンに与えられたのは、昨日から変わらない塩辛い干し肉と、石のように硬い黒パンだけだった。

ヴァンは少し離れた岩陰に腰を下ろし、黒パンを水で流し込みながら、周囲の環境を鋭い視線で観察していた。

長年、泥にまみれて野営の準備をしてきたヴァンの感覚は、魔力を持たないがゆえに、自然の微細な変化に対して異常なほど研ぎ澄まされていた。微風が運んでくる土埃の匂いに、わずかな酸の臭いが混じっている。さらに、足元の岩盤の隙間に溜まった砂が、風もないのに不自然に崩れ落ちるのを彼の目は見逃さなかった。

地中だ。

この岩山地帯には、硬い岩盤を酸で溶かしながら地中を掘り進む、鋏大百足という魔物が生息している。一体一体は下級の魔物だが、強力な毒を持ち、夜間に獲物の足元から奇襲をかける習性がある。

ヴァンは立ち上がり、静かに天幕の入り口へと向かった。分厚い布越しに、中から楽しげな笑い声が聞こえてくる。

「キース、結界の深度について少し話をしたい」

ヴァンが声をかけると、中の笑い声がピタリと止んだ。数秒の沈黙の後、天幕の入り口がわずかに開き、不機嫌そうな顔をしたキースが顔を出した。

「なんだ、騒々しい。僕たちは明日の討伐ルートについて高度な戦術会議をしているところだ。戦士の分際で、魔術の話題に口を挟む気か」

「足元の砂が不自然に鳴っている。鋏大百足の兆候だ。お前の張っている防衛結界は、地上からの物理攻撃と魔法には完璧だが、地中深くへの魔力浸透が浅い。岩盤の三メートル下を掘り進まれた場合、結界の下を通り抜けられて直下から天幕を突き破られる可能性がある。結界の形状を半球型から、地中まで覆う球型に変更してくれ」

ヴァンの淡々とした、しかし具体的な指摘に対し、キースは目を丸くした後、鼻で嘲笑った。

「馬鹿馬鹿しい。魔力すら感じ取れない底辺の戦士が、この僕の結界術にケチをつけるというのか。僕の結界は王立アカデミーで最高評価を得た完璧な術式だ。薄汚い虫けら一匹、通しはしない」

「だが、岩盤の密度が魔力の浸透を阻害しているはずだ。念のためだけでもいい、結界を深くしてくれ」

「口を慎め、荷物持ち。お前がやるべきことは、僕たちの結界の性能を疑うことじゃない。外で火の番をして、野犬でも追い払っていることだ。これ以上、僕の完璧な計算を侮辱するなら、明日の食事は抜きにするぞ」

奥からレオンの「相手にするなキース、冷気が入る」という苛立った声が聞こえ、キースは冷酷な目でヴァンを一瞥すると、乱暴に天幕を閉じた。

ヴァンはそれ以上言葉を返すことはなかった。彼らのプライドの高さを考えれば、これ以上の進言は逆効果になるだけだ。ヴァンは静かに踵を返し、再び焚き火のそばへと戻った。

深夜。凍てつくような寒さが岩山を支配し、天幕の中からは三人の穏やかな寝息が漏れ聞こえていた。

ヴァンは焚き火の前に座ったまま、一睡もしていなかった。彼の背中に負った両手剣はすでに鞘から抜かれ、膝の上に静かに置かれている。彼の意識は、視覚よりも足の裏から伝わる岩盤の微細な振動へと向けられていた。

カサ、という耳鳴りのような小さな音がした。

ヴァンは音もなく立ち上がる。向かったのは、天幕の裏手。キースの結界が地表に接している境界線のすぐ内側だった。

岩の表面が、まるで沸騰する泥のように微かに泡立ち、溶け始めた。酸だ。キースの結界は、地表への魔法攻撃は弾くが、地中から岩そのものを溶かして上がってくる物理的な現象までは完全に防ぎきれていなかったのだ。

音もなく岩が崩れ、そこから赤黒い甲殻に覆われた巨大な百足の頭部が姿を現した。鋭い大顎から滴る強酸の涎が、地面をジュウジュウと溶かしている。魔物は完全に油断して眠りこける天幕の中の獲物たちへと、その毒牙を突き立てようと身をよじった。

その瞬間、闇の中で鈍色の刃が閃いた。

ヴァンの両手剣が、一切の風切り音を立てることなく、滑るように百足の装甲の隙間、首の関節部分へと吸い込まれた。

硬い甲殻を断ち切るのではなく、関節の柔らかな組織だけを正確に削ぎ落とす神業。百足は断末魔の叫びを上げることも、暴れて音を立てることもできず、その首を完全に切断された。即死だった。

飛び散りそうになった酸の体液を、ヴァンは咄嗟に身に着けていた厚手の革外套で受け止めた。外套の表面が焼け焦げ、有毒な煙が上がるが、ヴァンは表情一つ変えずにそれをもみ消す。

天幕の中の三人は、すぐ外で自分たちの命が奪われかけていたことなど露知らず、心地よさそうに眠り続けている。

ヴァンは無言で百足の死骸を引きずり、結界のずっと外側、谷底へと続く崖から投げ捨てた。地面に残った酸の痕跡には、周囲の乾いた砂をかけて念入りに隠蔽する。魔物の死骸が残っていれば、朝になって彼らが騒ぎ立てるからだ。自分の手柄を誇示する気など、ヴァンには微塵もなかった。

革外套には大きな穴が開き、下に着ていた軽鎧にも酸が達してヴァンの左腕の皮膚を薄く焼いていた。しかし、彼はその傷を布で無造作に縛っただけで、再び焚き火の前に戻り、剣についた体液を油布で丁寧に拭き取り始めた。

夜明けまでまだ数時間。

自分の忠告が無視されようと、身を挺した献身が永遠に知られることがなかろうと、ヴァンにとってはどうでもいいことだった。与えられた場所で、ただ一つの犠牲も出さずに夜を越す。

戦士として、誰にも頼られずとも、彼は彼自身の仕事だけを完璧にこなし続けていた。

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