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追放された戦士は『同化』で覚醒する〜不要とされた俺が伝説の剣豪を身に宿し、やがて多民族国家を創り上げるまで〜  作者: 八咫 日本


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第33話 剛への反転と粉砕の斬馬刀

静寂の森の頭上、鬱蒼とした木々の合間から差し込む薄暗い光を背にして、ヴァンは宙に舞い上がっていた。

自らの放った赤黒い糸を利用され、完全に死角である頭上の空間を取られた四ツ腕の鎧蜘蛛は、八つの複眼を不気味に明滅させながら、慌てて四本の腕を頭上に交差し、最も分厚い背面の魔法反射甲殻を盾として構えた。

「セリア、今だ!」

空中で重力に引かれ、落下が始まるその一瞬の滞空時間。

ヴァンが叫ぶと同時に、沼地の安全圏に立つセリアが胸の前で力強く印を結び、極限まで高めた魔力を解放した。

「解除と同時上書き。肉体への負荷は過去最大になるわよ……!」

セリアの警告とともに、ヴァンの身体を包んでいた「流水の武芸者」の淡い蒼色の光が一瞬で霧散する。それは、彼の肉体が再びただの重い人間のそれに戻ったことを意味していた。

しかし、その無防備な時間は一秒にも満たなかった。

「鋼の城門をも粉砕し、戦場を無慈悲に蹂躙せし破城の戦鬼よ。その絶対的質量と粉砕の記憶を、今この器に宿したまえ」

セリアの凛とした詠唱が森に響き渡ると同時、空中のヴァンの背後に、暗褐色に淀んだ巨大な魔法陣が展開された。

そこから現れたのは、全身を分厚い鋼の重装甲で覆い、自らの背丈ほどもある巨大な戦鎚を担いだ、小山のような巨漢の幻影だった。その幻影は、凄まじい咆哮を上げながら、落下していくヴァンの背中へと激突するように同化した。

「同化召喚、破城の重装鬼」

ドゴォォォンッ!

ヴァンの体内で、これまでの比ではない圧倒的な爆発が起きた。

流水の「柔」から、破城の「剛」への完全なる極端な反転。相反する二つの極端な概念が連続して肉体を通過することで、ヴァンの細胞という細胞が悲鳴を上げ、筋肉繊維がちぎれんばかりに膨張する。常人であれば、空中で肉体が破裂して血の雨を降らせていたであろう致死的な負荷。

だが、ヴァンの深淵なる虚無は、その狂乱する破壊の魂すらも冷徹に飲み込み、圧倒的な物理エネルギーとして自らの腕へと注ぎ込んだ。

「……シッ」

痛覚を完全に遮断されたヴァンは、表情一つ変えることなく、右手に握った刃渡り二メートルの斬馬刀を頭上高く振りかぶった。

重装鬼の記憶が、ヴァンの全身の筋肉に「物体を粉砕するためだけの極限の収縮」を強制する。そこに、ヴァン自身の巨体が落下する重力エネルギーと、相手の引き寄せた糸の張力が完全に足し合わされた。

「ギ、ギチィィィィッ!」

鎧蜘蛛が、己の甲殻の硬度を信じ、交差させた四本の腕でその一撃を迎え撃とうとする。魔法を反射するその装甲は、上位の炎魔法すら傷一つつけられない強固なものだ。

しかし、ヴァンの放った一撃は、魔法などという小賢しいものではなかった。

純粋な、そして規格外の物理的質量のみを極限まで高めた、暴力の結晶。

ギガァァァァァァァァンッ!!!!

斬馬刀の巨大な刃が、鎧蜘蛛の交差させた腕に激突した瞬間。

静寂の森の木々が、その衝撃波だけで根元からへし折れ、沼地の泥水がクレーター状に大きく吹き飛んだ。

魔法反射の甲殻など、全く意味を成さなかった。

強靭なはずの四本の腕が、まるで枯れ枝のように粉々に砕け散る。ヴァンの斬馬刀は勢いを僅かたりとも殺すことなく、そのまま鎧蜘蛛の背中を覆う分厚い甲殻の中央へと深々と叩き込まれた。

メシャァッ、という生々しい破壊音が響く。

装甲の硬度を、上からの物理的な圧壊力が完全に上回ったのだ。斬馬刀は甲殻を真っ二つに割りながら、内部の柔らかい内臓をすり潰し、鎧蜘蛛の巨体を沼地の底深くへと叩き伏せた。

大量の緑色の体液が間欠泉のように吹き上がり、周囲の泥を染め上げる。

「ギ……チ……」

森の生態系の頂点に君臨し、数多の冒険者たちを屠ってきた変異種は、痙攣を数度繰り返した後、二度と動かなくなった。

ドスン、とヴァンが泥水の中に重く着地する。

彼は斬馬刀についた体液と泥を無造作に振り払いながら、ゆっくりと息を吐き出し、同化を解除した。

強烈な疲労感と、連続同化による筋肉への反動が、どっと肉体にのしかかってくる。だが、彼の足取りはしっかりとしており、致命的なダメージは一切見られなかった。

「……見事な手際だったわ、ヴァン」

泥を避けて歩み寄ってきたセリアが、信じられないものを見るような、それでいて深い陶酔を含んだ目でヴァンの背中を見つめた。

「最初の流水の魂で、相手の機動力と罠を完全に無効化し、空中に逃れた一瞬の隙を突いて、破城の魂で装甲ごと叩き潰す。あなたの完璧な状況判断と、私の召喚術が、これ以上ない形で噛み合ったわ」

セリアの言葉に、ヴァンは振り返って短く頷いた。

「ああ。俺一人では、最初の猛攻を捌き切れずに泥に足を取られていた。お前が流水の術を正確なタイミングで合わせてくれたからこそ、敵の力を利用して上を取ることができたんだ。それに、最後の一撃の破壊力。あれはお前が適切な魂を選んでくれたおかげだ」

勇者パーティーで、裏方としてただ黙々と戦場を観察し、地形や魔物の習性を分析し続けてきたヴァン。その泥臭い経験が、極限の状況下でセリアの多彩な術を完璧に使いこなすための最高の戦術眼として結実していた。

「私たちは、二人で一つの完璧な武器ね」

セリアが微笑みながら言うと、ヴァンは「悪くない」と短く返し、鎧蜘蛛の死骸に向き直った。

「さて、ギルドとの約束通り、この立派な甲殻と糸は俺たちがいただく。魔法を反射する素材なら、スラムの鍛冶屋に持ち込めば、今度こそ俺の力に耐えきれる強力な武器と防具が作れるはずだ」

ヴァンは、解体用のナイフを取り出し、手際よく巨大な甲殻の剥ぎ取り作業を開始した。その手つきは、かつて荷物持ちとして魔物の解体を押し付けられていた頃と同じ、無駄のない実直なものだった。

しかし、彼の横顔に宿る静かな自信と誇りは、あの頃とは明確に異なっていた。

魔法を持たない最底辺の戦士と、異端の同化召喚師。

彼らが成し遂げた変異種の単独討伐という事実は、やがて都市の冒険者ギルドに決定的な衝撃を与えることになる。

そしてそれは、彼らを追放した勇者レオンたちの虚栄の足元を、さらに深く切り崩していくための、確かな楔となるのだった。

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