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追放された戦士は『同化』で覚醒する〜不要とされた俺が伝説の剣豪を身に宿し、やがて多民族国家を創り上げるまで〜  作者: 八咫 日本


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第189話 崩壊する肉体と極限の共鳴

光と闇が正面から激突した絶海の中心には、すべての音が圧殺されたかのような、鼓膜を劈く不気味な静寂だけが残されていた。

破壊神シヴァの放つ純粋な「破壊の概念」は、獣神バルバトスが展開した虚無の空間を物理的に粉砕し、その巨体に決定的なダメージを刻み込んでいた。七メートルを超える醜悪な肉体は無惨に抉られ、ドス黒い血が砂浜に滝のように降り注ぐ。幾度となく超常的な再生を繰り返してきた魔界の理すらも、破壊神の一撃の前には完全に機能を停止していた。

『ア……、ガ…………』

地に伏したバルバトスの残された二つの眼球が、信じられないものを見るように虚空を彷徨っている。

魔界という弱肉強食の異次元の頂点に君臨し、数万年もの間「絶対的な強者」として君臨してきた己の存在証明。それが、辺境の地に這いつくばる泥虫のような人間の戦士によって根底から覆された。その事実を、彼の精緻な頭脳は処理しきれずに激しいショートを起こしていた。

驚愕は一瞬にして、己の存在そのものを焼き尽くすほどの「恐怖」と「焦燥」、そして狂気へと反転した。

『死ニタク、ナイ……。私ハ、私ハ完全ナル存在ダ! 泥虫ゴトキニ、私ノ歴史ヲ終ワラセラレテタマルモノカァァァッ!!』

残された眼球から、理性を完全に投げ捨てた純粋な狂気が噴き出した。

バルバトスは、抉り取られた己の肉体を再生させることすらも放棄した。その代わりに、魔族としての生命力、魂の残滓、そして自身の存在の概念に至るまでのすべてを「虚無のエネルギー」へと強制変換し始めたのだ。

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!

新大陸の地中深くから、星の悲鳴のような凄まじい地鳴りが湧き上がった。

バルバトスは自身の足元から虚無の根を星の深枢へと突き立て、大地を循環する生命力やマナを無差別に吸い上げ始めた。淀んだ紫色の空が完全にひび割れ、虚空からドス黒い雷が次々と絶海の岸辺に降り注ぐ。

それはもはや、一個人を対象とした魔法などではない。周囲の環境ごと、この星の地殻そのものを丸ごと削り取り、虚無の彼方へと消し去るための、魔界四天王による究極の自爆魔法、星崩壊のチャージであった。

一方、その絶望の魔王と真っ向から斬り合っていたヴァンの肉体は、すでに生命活動の限界をとうに通り越していた。

「ガハッ……!」

ヴァンの口から、黒ずんだ大量の血塊が吐き出される。

災害級魔物の素材で打たれた最強の防具「黒曜の鱗鎧」は、これほどの規格外の死闘を経てもなお、一切の傷を負うことなくヴァンの外殻を護り抜いていた。しかし、その強固な鎧の内部にあるヴァンの肉体は、完全に破壊し尽くされていた。

連続する十二度もの多重同化――相反する神々の魂を強制的に上書きし続けた代償は、人間の器を内側から無慈悲に引き裂いていた。全身の筋繊維は断裂し、骨は自らの振るう神の剛力に耐えきれずに無数の亀裂を走らせている。血管という血管が破綻し、無傷の鎧の隙間という隙間から、赤い血がとめどなく溢れ出し、彼の足元に巨大な血の池を作っていた。

常人であれば、言語に絶する激痛だけで数万回はショック死している状態だ。痛覚を持たないヴァンであっても、物理的に肉体が崩壊している以上、体を動かすことなど不可能なはずだった。

だが、ヴァンは倒れない。

血に染まった両足で大地を深く踏み締め、破滅修羅の三叉神矛を構えるその姿勢には、一片の揺らぎも存在しなかった。彼を立たせているのは、もはや筋肉でも骨でもない。背後の都市を、そしてただ一人の愛する召喚師を護り抜くという、執念にも似た強烈な意志のみであった。

「……まだだ。まだ、奴の魔力は膨張している」

ヴァンは片目すらも内出血で潰れた状態で、静かに、そして力強く前を見据えた。

肉体が崩壊していく不気味な音を自身の耳で聞きながらも、彼の中にある闘志の炎は、眼前のバルバトスが放つ絶望の闇よりもなお熱く、激しく燃え盛っている。

防壁の内側で、その凄惨な姿を見つめていたセリアの紫色の瞳から、大粒の涙が次々と溢れ落ちていた。

「ヴァン……! ああ、ヴァン……ッ!」

彼女の頬を伝うのは、もはや透明な涙ではない。極限まで魔力を絞り出している代償として、彼女の目から、鼻から、そして噛み切った唇から、赤い血がとめどなく流れ落ちていた。

彼女の魔力回路はとうに焼き切れている。自身の命を直接削りながら神格を現世に繋ぎ止めるという禁忌の術の継続は、彼女の命の灯火を急速にすり減らしていた。

ヴァンの肉体が内部で崩れていくのがわかる。彼がどれほどの負荷を魂だけで押さえ込んでいるのか、同化召喚師であるセリアには痛いほどに伝わってくる。

術を解けば、彼は助かるかもしれない。だが、それは同時に、あの獣神の放つ星崩壊の虚無がこの世界を飲み込み、彼が命を懸けて護ろうとしたすべてが消滅することを意味している。

「私が、ヴァンを殺してしまう……。でも、ここで止めたら、彼の覚悟を、私たちの誓いを裏切ることになる!」

セリアは血の涙を振り乱し、震える両手で自らの杖を強く、折れんばかりに握りしめた。

「私は詠唱を止めない! あなたの魂がそこにある限り、私は絶対に、あなたから手を離さないわ!!」

セリアの悲痛で、しかし絶対的な愛情と信頼が込められた叫びが、崩壊していく絶海の岸辺に響き渡った。

その瞬間、奇跡が起きた。

限界を超え、擦り切れかけていた二人の魂の境界線が、極限の負荷と絶対の信頼によって完全に融け合ったのだ。

物理的な距離など関係ない。セリアの心臓の鼓動がヴァンの胸で鳴り、ヴァンの視界に広がる絶望の闇がセリアの脳裏に共有される。互いの命の重さ、温もり、そして絶対に諦めないという強烈な感情が、二人の魂を一つの完全な球体として結びつけた。

魂の共鳴が、極限に達したのである。

「あぁ……わかっている、セリア。お前の魔力、お前の魂……全部、俺が受け止める」

ヴァンが血に染まった唇を僅かに吊り上げ、笑った。

痛覚を持たない孤独な戦士と、世界から無能と蔑まれた孤独な召喚師。理不尽な世界から弾き出された二人の魂が完全に同調した時、ヴァンの肉体から、これまでのどんな神格の力よりも純粋で、そして温かい、白銀と紫色の混じり合った神秘的な光のオーラが立ち昇り始めた。

内側から崩壊し、血を噴き出していたヴァンの肉体が、その光のオーラによって強引に繋ぎ止められ、さらなる神格の降臨すらも許容する「絶対の器」へと進化していく。

『サア、消エ去レェェェェッ!! コノ忌マワシキ星ゴト、虚無ノ深淵デ永遠ニ泣キ叫ベェェェェッ!!!』

獣神バルバトスが、ついに星崩壊の虚無のチャージを完了させた。

彼の巨体を中心に、直径数百メートルにも及ぶ漆黒のブラックホールが形成され、新大陸の大地をメリメリと音を立てて抉り取りながら、圧倒的な引力と消去のエネルギーを放ち始める。

「行くぞ、セリア。あいつの絶望ごと、この世界の理不尽をすべて断ち切る!」

ヴァンは破滅修羅の三叉神矛を上段に構え、限界を超えた両足で、星を飲み込もうとする極大の虚無に向かって真っ直ぐに踏み出した。

「ええ……! 私たちの魂で、絶望を打ち砕くッ!」

セリアが血の涙を拭うこともせず、魂の底から最後の詠唱を紡ぎ出す。

極限の共鳴を果たした二人の命を懸けた一撃が、星を破壊する真なる絶望と正面から激突する、その最後の瞬間が目前に迫っていた。

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