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追放された戦士は『同化』で覚醒する〜不要とされた俺が伝説の剣豪を身に宿し、やがて多民族国家を創り上げるまで〜  作者: 八咫 日本


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第186話 怒涛の神格上書き、虚無を裂く絶え間なき刃

脳天を両断され、超高熱の太陽の炎で内部を焼き焦がされたはずの獣神バルバトスの巨体が、絶海の砂浜で悍ましい脈動を繰り返していた。

叩き割られたはずの硬質な頭蓋骨と漆黒の鱗が、まるで時間が逆行するかのように強引に結合していく。傷口に深く残留していたアポロンの白き炎すらも、傷の奥底からドロドロと溢れ出す極彩色の魔力――あらゆる事象を削り取り無かったことにする「虚無」のエネルギーによって、音もなく浸食され、完全に鎮火させられてしまった。

『泥虫風情ガ……私ニ、ココココココココココココココマデノ屈辱ヲ与エルカァァァッ!!』

再生を終えた獣神バルバトスが、六つの血走った眼球をギョロギョロと不規則に動かしながら、天に向かって絶叫した。

その咆哮と共に、背中から生えた巨大な蝙蝠の双翼が天を突くように大きく広がる。翼の羽ばたきが引き起こしたのは暴風などではない。上空に立ち込めていた紫色の淀んだ雲が、翼の軌道に沿って真っ黒な空白へと削り取られ、空そのものに巨大な虚無の穴が穿たれたのだ。

『消エ失セロ。貴様ラノ存在ソノモノヲ、コノ世界カラ完全ニ消去シテヤル』

獣神バルバトスが空に向けた両腕を、一気にヴァンへと向けて振り下ろした。

直後、上空に穿たれた虚無の穴から、無数の「黒い雨」が絶海の岸辺へと降り注いだ。

それは水滴ではない。一滴一滴が、触れた空間ごとすべての物質を抉り取る、数万にも及ぶ不可視の虚無の針。逃げ場など存在しない。防壁の内側にいる民衆たちにも、その絶望の雨は容赦なく降り注ごうとしていた。

「させない! アポロンの魂を解除! 新たなる神格をもって上書きする!」

絶望の雨が降り注ぐ刹那、結界の内で祈るように杖を握るセリアの叫びが戦場に響き渡る。

彼女の紫色の瞳から一筋の血の涙が流れ落ちるが、その声には微塵の迷いも恐怖もない。

「猛火よ退け! 代わって顕現せよ、知恵と戦略を司り、絶対の盾を掲げるオリュンポスの戦女神! 今、この器にて魂を顕せ! 同化召喚……戦女神アテナ!!」

ヴァンの肉体を包み込んでいた白き太陽の炎が弾け飛び、代わって、眩いほどの純白と黄金に輝く、神聖なる戦気と絶対防御のオーラが爆発的に噴き上がった。

大英雄ヘラクレスの剛力と、戦女神アテナの絶対の盾。

連続する神格の強制的な入れ替え。ヴァンの全身の毛細血管が限界を超えて破裂し、皮膚が裂けて夥しい血の飛沫が舞い散る。だが、ヴァンは表情の筋肉一つ動かすことなく、吹き上がる血潮の中で新たな力へと淀みなく身を委ねていく。

手にした陽炎英雄の灼熱斧が、新たな二つの神格の交わりに共鳴し、凄まじい光を放って変異を遂げる。

巨大な斧の刃が溶けるように形を変え、ヴァンの身の丈を遥かに超える巨大な黄金の円盾と、その中心から伸びる極太の槍の刃を持つ、攻防一体の巨兵装へと姿を変えた。

いかなる災厄も弾き返す神の盾と、大英雄の剛力を併せ持つ「アイギスの英雄盾槍」。

「防ぐぞッ!」

ヴァンは両足を絶海の砂浜に深く沈み込ませ、巨大な盾槍を天に向けて高く掲げた。

黄金のオーラが盾から半球状に広がり、防壁と都市を覆い隠すように巨大な光の傘を展開する。

直後、数万の虚無の雨が、黄金の光の傘へと激突した。

ズガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッ!!!!!

世界が崩壊するような凄まじい轟音が響き渡る。

虚無の雨は黄金の盾の魔力を削り取ろうと喰らいつくが、戦女神アテナがもたらすアイギスの盾の概念は「空間の固定」であった。虚無が世界に穴を開けようとする力を、神の絶対的な防御力が強引に繋ぎ止め、拮抗させる。

さらに大英雄ヘラクレスの神の筋力が、上空から降り注ぐ数万の質量の衝撃を、ヴァンの両腕と両足だけで完全に受け止めていた。

「ガアアアアアアッ!」

ヴァンの口から大量の血反吐が吹き出し、彼を踏みとどまらせている足元の砂浜がすり鉢状に数十メートルも陥没していく。腕の筋肉が断裂し、骨が内側から軋む不気味な音が響く。

だが、ヴァンは一歩たりとも退かなかった。黄金の盾の裏側で、彼の双眸は獣神の次の動きを正確に見据えている。

『小賢シイ真似ヲ……!!』

虚無の雨を完全に防がれたことに激怒したバルバトスが、七メートルを超える巨体を躍動させ、自らヴァンへと肉薄してきた。

丸太のように太い右腕に空間を削り取る漆黒の魔力を限界まで纏わせ、神の盾ごとヴァンを粉砕せんと、フルスイングの豪腕を叩き込んでくる。

「セリア! 剛力を外せ! 絶対の凍気を!」

ヴァンが巨大な盾を支えながら、鋭い声を飛ばす。

「ええ! ヘラクレスの魂を解除! 新たなる神格を上書きするわ!」

セリアが杖にさらなる魔力を込め、銀色の髪を激しく逆巻かせながら絶唱する。

「剛腕よ退け! 代わって顕現せよ、終末を告げ、神をも喰らう北欧の絶対零度! 今、この器にて魂を顕せ! 同化召喚……神喰らいの狼フェンリル!!」

ヴァンの肉体を支えていた赤銅色のヘラクレスの闘気が消失し、代わって、周囲の空気中の水分を瞬時に凍結させるほどの、透き通るような白銀の冷気が巻き起こった。

戦女神アテナと、神喰らいの狼フェンリル。

六度目の魂の入れ替え。ヴァンの呼吸器から溢れ出した血が、彼自身の放つ冷気によって瞬時に凍りつき、赤い氷の粒となって空中に散る。

手にしたアイギスの英雄盾槍が、白銀の冷気を吸い込んで劇的な変異を遂げる。

巨大な黄金の盾が二つに割れて両腕に装着される籠手状の刃となり、その先端から、神の肉体すらも容易く噛み砕く、絶対零度の冷気を纏った巨大な氷の牙が伸びた。

戦女神の戦術眼と、神をも喰らう狼の牙を併せ持つ「氷狼の戦女神双牙」。

戦女神アテナの力が、ヴァンの脳内に数手先までの最適な回避と反撃の軌道を鮮明に描き出す。

バルバトスの虚無を纏った右腕が振り下ろされるコンマ一秒前。ヴァンは神喰らいの狼の超獣のバネを活かし、前傾姿勢のまま地を滑るようにして、バルバトスの懐へと信じられない角度で潜り込んだ。

『ナニッ!?』

空間を削り取るバルバトスの右腕がヴァンの頭上を通過し、背後の陥没した砂浜を巨大な虚無の暗黒へと変える。

「凍れ」

ヴァンはバルバトスの胴体に肉薄したまま、両腕の絶対零度の双牙を、無防備な獣神の胸元へと下から上に向けて交差させるように振り抜いた。

ザシュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥンッ!!!

神を喰らう狼の牙が、鋼よりも硬い獣神の鱗を紙のように引き裂き、胸部から腹部にかけて巨大なX字の裂傷を刻み込んだ。

同時に、双牙から放たれた絶対零度の冷気が、切り裂いた傷口からバルバトスの体内へと直接流れ込み、ドス黒い血液と細胞を瞬時に凍結させていく。

『ギャアアアアアアアアアアアッ!!!』

獣神バルバトスが、胸を深く切り裂かれ、体内を凍らされる激痛に狂乱の悲鳴を上げた。

さらにヴァンは追撃の手を緩めない。戦女神の戦術眼が導き出す無駄のない動きで、獣神の巨体の周囲を縦横無尽に駆け抜けながら、絶対零度の双牙で次々と斬撃を叩き込んでいく。

右脚、左脇腹、そして巨大な蝙蝠の右翼。

空間を削り取る虚無の反撃が来る前に、その発動の兆候をアテナの知恵で完全に読み切り、フェンリルの牙で凍てつかせて発動そのものを封じ込める。

『オノレ……オノレオノレオノレェェェッ!!』

全身から青白い冷気を漂わせ、鱗をズタズタに切り裂かれた獣神バルバトスが、六つの眼球から血の涙を流しながら咆哮する。

自身の放つ虚無の攻撃がことごとく見切られ、逆に手痛い反撃を受け続けるという事実が、彼の肥大化したプライドをさらに深く抉り取っていた。

「まだだ! アテナを外せ! さらなる手数を!」

ヴァンは氷の双牙を振るいながら、止まることなくセリアへ次の神格を要求する。

一瞬でも攻撃の手を緩めれば、虚無の再生能力が働き、あるいは広範囲の次元削りによって消去される。常に相手の予測を上回る神格をぶつけ続け、圧倒的な物理破壊でねじ伏せ続けるしかない。

「ええ! アテナの魂を解除! 新たなる神格を上書きするわ!」

セリアは全身の魔力回路が焼き切れるような激痛に耐えながら、杖を天に突き上げる。

「知恵よ退け! 代わって顕現せよ、荒れ狂う嵐を纏い、海原を割る東方の猛神! 今、この器にて魂を顕せ! 同化召喚……嵐と海の神スサノオ!!」

ヴァンの肉体を包んでいた純白と黄金のオーラが消失し、代わって、吹き荒れる暴風と荒れ狂う波濤を具現化したような、荒々しく猛々しい蒼黒の闘気が爆発的に噴き上がった。

神喰らいの狼フェンリルと、嵐と海の神スサノオ。

七度目の魂の上書き。ヴァンの肉体は限界のその先を通り越し、骨髄から直接血が滲み出ているかのように赤く染まりきっている。だが、彼の握る武器の軌道は決してブレることはない。

手にした氷狼の双牙が、荒れ狂う神の力に共鳴し、再び全く異なる凶悪な武器へと変異する。

両腕の籠手状の刃が融合して長大な柄となり、そこから極端に反りの入った巨大な一本の刀が形成された。刀身からは絶対零度の吹雪と、すべてを切り刻む無数の真空刃が嵐のように吹き荒れている。

神を喰らう氷と、海を割る暴風の剣撃を併せ持つ「暴風狼の神殺し大太刀」。

『死ネェェェェェェェェッ!!!』

追い詰められた獣神バルバトスが、残されたすべての魔力を両腕に集中させ、自身の周囲全方位の空間を削り取る「虚無の竜巻」を発生させた。

触れれば最後、分子レベルで世界から消去される真っ黒な次元の断層が、巨大な渦となってヴァンへと迫り来る。防御不可、回避不能の絶対死の領域。

「切り拓くッ!」

ヴァンは大太刀を上段に構え、自らの肉体を暴風の力で弾丸のように前方に射出した。

迫り来る虚無の竜巻に対し、ヴァンは一切の躊躇なく、神殺しの大太刀を真っ向から振り下ろす。

ドゴァァァァァァァァァァァッ!!!

大太刀から放たれたスサノオの荒れ狂う暴風と真空刃が、虚無の竜巻の表面に激突し、凄まじい嵐となって絶海の空気を引き裂いた。

虚無は暴風を飲み込もうとするが、そこにフェンリルの絶対零度の冷気が流れ込み、空間の境界線そのものを強引に「凍結」させていく。

削り取ろうとする虚無の動きが、極低温によってほんのコンマ数秒だけ遅滞する。

「そこだァァァッ!」

ヴァンはその僅かな遅滞を見逃さず、両腕の筋繊維をブチ切りながら、神殺しの大太刀をさらに深く押し込んだ。

バキィィィィィィィィィィンッ!!!

氷と嵐の神撃が、ついに虚無の竜巻を物理的に打ち砕いた。真っ黒な空間の断層がガラスのように砕け散り、その奥にいる獣神バルバトスの無防備な巨体が晒される。

「ウ、ソダ……。私ノ、虚無ガ……!」

バルバトスの六つの眼球が、信じられないものを見るように見開かれた。

「これで、七つ目だッ!」

虚無を砕いた勢いのまま、ヴァンは暴風の推進力で獣神の懐へと深く潜り込み、下段から上段へと、神殺しの大太刀を豪快に斬り上げた。

ズバアァァァァァァァァァァァァァンッ!!!!

暴風と氷雪を纏った巨大な太刀の刃が、獣神バルバトスの巨大な胴体を、左腰から右肩にかけて完全に斜めに切り裂いた。

鋼の鱗が砕け、肉が分断され、ドス黒い血液が噴出するよりも早く、絶対零度の冷気が傷口を内側から完全に凍てつかせる。

『ガ……ァ、ア…………ッ!!!』

獣神バルバトスの口から、声にならない絶息の呻きが漏れた。

胴体を深く両断され、全身から白い冷気を漂わせながら、七メートルを超える巨体がゆっくりと後ろへと傾いていく。

ズズゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥンッ……!!

絶海の砂浜を大きく揺らして、覇軍大将バルバトスが再び地に倒れ伏した。

激しい嵐と吹雪が吹き荒れる中、ヴァンは血塗れの大太刀を構えたまま、荒い息を繰り返している。彼の足元には、彼自身の肉体から流れた赤い血が、小さな池のように広がっていた。

結界の内側で、セリアが震える手で杖を握りしめたまま、その様子を見つめている。

神々の入れ替え戦。互いの命を削り合う狂気の攻防は、確実に絶望の魔王を追い詰めていた。しかし、同時にヴァンの肉体も、そしてセリアの精神も、崩壊の瀬戸際へと立たされている。

バルバトスは倒れた。だが、その残骸からは、未だに底知れない魔界の闇が、ドロドロと不気味な音を立てて湧き出し続けている。

異次元の最終決戦は決してここで終わることはなく、互いの魂を擦り潰し合う極限の死闘はさらに激化していくのであった。

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