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追放された戦士は『同化』で覚醒する〜不要とされた俺が伝説の剣豪を身に宿し、やがて多民族国家を創り上げるまで〜  作者: 八咫 日本


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185/201

第185話 絶え間なき神々の交壊、狂乱の異次元攻防

ズシンッ、と絶海の砂浜が大きく陥没した。

獣神バルバトスが一歩を踏み出した、ただそれだけの動作。しかし、彼の足が触れた空間そのものが音もなく虚無へと変換され、世界に巨大な黒い穴が穿たれる。

「死ネ、泥虫ガ」

七メートルを超える巨体から繰り出された右腕の爪が、空気を引き裂く物理的な音さえも消し去りながら、ヴァンの肉体へと迫る。

防御も相殺も不可能。触れれば聖剣ごと空間ごと削り取られる絶対的な死の軌道。

これまでのヴァンの神速をもってしても、獣神の規格外の体躯から放たれる広範囲の空間削りを完全に躱し切ることは不可能だった。

しかし、この絶対的な死地に直面した瞬間、防壁の内側で極限の集中状態にあったセリアの紫色の瞳が、鋭い光を放つ。

「アーサー王の魂を解除! 新たなる神格をもって上書きする!」

セリアの悲痛な、しかし世界を統べるような力強い詠唱が戦場に響き渡る。

「深淵の海を統べる絶対の水圧、万物を飲み込む流動の主! 今、この器にて魂を顕せ! 同化召喚……海神ポセイドン!!」

ヴァンの肉体を包んでいた騎士王の黄金の光が瞬時に弾け飛び、代わって、深海のような底知れない群青色のオーラが爆発的に噴き上がった。

雷神トールと、海神ポセイドン。

二重同化を一度も解除することなく、片方の魂だけを全く別の神格へと瞬時にすり替える。それは、器となるヴァンの肉体に言語を絶する負荷を強いる狂気の術。ヴァンの全身の毛細血管が悲鳴を上げ、黒曜の鱗鎧の隙間から夥しい量の血の霧が吹き出すが、彼の動きには微塵の遅れも生じなかった。

手にした神雷の聖剣が、新たな神の組み合わせに共鳴して激しく姿を変える。

両手剣だった刀身が柄から長く伸び上がり、先端が三つの鋭利な刃に分かれた巨大な三叉槍へと変異を遂げた。青白い雷神の超高圧電流が這い回り、同時に海神がもたらす極限まで圧縮された超高水圧の渦が槍全体を包み込んでいる。

雷鳴と深海の圧力を併せ持つ「紫電の海神槍」。

「シィィィッ!」

ヴァンは空中で姿勢を捻り、虚無の爪が迫る直前、海神ポセイドンの持つ「完全なる流動」の特性を発動させた。

ヴァンの肉体が水流そのものになったかのように、物理的な慣性を完全に無視して不自然な角度へと滑るように軌道を変える。空間を削り取る漆黒の爪が、ヴァンの鼻先数ミリを音もなく通過し、背後の絶海の海面を巨大な虚無へと変えた。

紙一重で爪の軌道をすり抜けたヴァンは、そのまま雷神の推進力を槍の石突きから爆発させ、獣神の無防備な懐へと一気に肉薄した。

「貫けッ!」

ヴァンが両腕の筋肉を限界まで膨張させ、紫電の海神槍を獣神の巨大な胴体に向かって渾身の力で突き放つ。

ドゴォォォォォォォォォォンッ!!!

超高水圧でコーティングされた三叉槍の刃が、空間削りの余波を強引に押し流しながら、獣神バルバトスの鋼のような鱗をブチ破り、その腹部へと深々と突き刺さった。

同時に、槍から放たれた雷神の超高圧電流が、バルバトスの体内へと直接流し込まれる。

「グギャアアアアアアアアアッ!?」

獣神の口から、理性を保っているとは思えないほどの醜悪な絶叫が上がった。

体内を駆け巡る雷の破壊力と、内臓を押し潰すような深海の超水圧。バルバトスの七メートルを超える巨体が、その一撃の威力によって数十メートルも後方へと弾き飛ばされ、砂浜に巨大な轍を刻みながらもんどり打って倒れ込む。

「やった……! あの化け物を、吹き飛ばした!」

防壁の上で見守っていた難民の兵士の一人が、希望に満ちた声を上げる。

だが、ヴァンの顔に油断の色は一切ない。

倒れ込んだ獣神は、すぐに信じられないほどのバネで跳ね起き、六つの眼球をすべてヴァンへと向けた。その瞳に宿る怒りは、痛みに怯むどころか、自身の醜い姿をさらに晒させられたことへの際限のない憎悪となって煮えたぎっている。

「泥虫ガ……泥虫ガァァァァッ!! 私ノ……私ノ美シイ肉体ヲ、ココマトデ汚スカーーッ!!」

獣神バルバトスが、狂乱の咆哮と共に大地を両手で激しく叩きつけた。

直後、絶海の砂浜の下から、無数の巨大な漆黒の棘が、空間そのものを削り取りながらヴァンの足元を串刺しにせんと一斉に突き出してきたのだ。

ヴァンは海神の流動と雷神の神速を駆使し、滑るようなステップで次々と突き上がる虚無の棘を回避していく。しかし、棘の数は数百、数千と増殖し、足の踏み場すらも完全に削り取られていく。

さらにバルバトスは、棘の回避に集中するヴァンを上空から見下ろし、巨大な顎を大きく開いた。その喉の奥で、先ほどの球体を遥かに凌駕する質量の「虚無のブレス」が、ドス黒い光を放ちながら圧縮され始めている。

今の紫電の海神槍の貫通力では、あの広範囲を削り取る質量のブレスを真正面から相殺することは不可能だ。

「セリア! 雷を外せ! 絶対の剛力を!」

ヴァンが棘を回避しながら、血を吐くような声で叫ぶ。

「ええ! トールの魂を解除! 新たなる神格を上書きするわ!」

セリアが杖を握り直し、結界の内で自らの唇を噛み切りながら血の滲むような詠唱を紡ぎ出す。

「雷鳴よ退け! 代わって顕現せよ、神話の頂点に立つ無双の武、不壊の肉体を持つオリュンポスの大英雄! 今、この器にて魂を顕せ! 同化召喚……大英雄ヘラクレス!!」

ヴァンの肉体に纏わっていた青白い雷光が掻き消え、その代わりに、大地そのものを隆起させるかのような、圧倒的で暴力的なまでの赤銅色の闘気が爆発的に噴き上がった。

海神ポセイドンと、大英雄ヘラクレス。

連続する魂の上書き。本来ならば人間の肉体が数億回は破裂しているほどの絶対的な負荷が、ヴァンの細胞をズタズタに引き裂く。全身の皮膚から赤い血が滝のように流れ落ち、彼の足元を赤く染め上げるが、それでも彼の両腕の力は決して衰えない。

手にした紫電の海神槍が、極限の質量の交わりに共鳴し、最も禍々しく重厚な形態へと姿を変えた。

三叉槍の刃が一つにまとまり、信じられないほどの分厚さと質量を持つ巨大な錨のような形状の戦槌へと変異する。深海の超水圧をその身に宿し、ヘラクレスの持つ純粋な神の筋力でのみ振り回すことができる絶対質量の打撃武器、「深海英雄の巨錨槌」。

「消シ飛ベ、羽虫ィィィィッ!!」

獣神バルバトスの喉の奥から、空間のすべてを真っ黒に削り取る虚無のブレスが、巨大な奔流となってヴァンに向けて撃ち下ろされた。

回避は不可能。周囲のすべてが、漆黒の死に飲み込まれていく。

「押し潰すッ!」

ヴァンは逃げることなく、両足を深く砂浜に沈み込ませて大地のスタンスをとった。

大英雄ヘラクレスの神の筋力がヴァンの両腕の筋肉を限界のその先まで膨張させ、海神ポセイドンの力が巨錨槌に途方もない深海の重さを付与する。

ヴァンは、迫り来る虚無のブレスの正面に向かって、自らの身の丈を遥かに超える巨錨槌を、下から上へと渾身の力でカチ上げ、振り抜いた。

ドゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォンッ!!!!!

純粋な物理的質量と、空間を削り取る虚無のエネルギーが真っ向から激突した。

絶海の空気が悲鳴を上げ、新大陸の地殻そのものが分断されるかのような超弩級の衝撃波が発生する。

虚無のブレスはヴァンの肉体を削り取ろうと喰らいつくが、ヘラクレスの不壊の闘気と、ポセイドンの超高圧の水の膜がそれをギリギリのところで拮抗させている。

「オオオオオオオオオオッ!!」

ヴァンが血反吐を吐きながら、さらに巨錨槌を力任せに押し込んだ。

神話の英雄が放つ絶対的な筋力が、ついに魔界の理を力ずくでねじ伏せた。巨大な虚無のブレスが、槌の先端から真っ二つに割れ、ヴァンの左右へと逸れていく。

逸れたブレスは後方の絶海の海面と無人の森を吹き飛ばし、地図の形を変えるほどの巨大な真空のクレーターを穿った。

「バ、馬鹿ナ……ッ!? 私ノ虚無ヲ、力尽クデ弾キ返シタトイウノカ!?」

獣神バルバトスの六つの眼球が、驚愕に見開かれる。

その隙を、ヴァンは決して逃さない。ブレスを弾き飛ばした反動をそのまま前進のエネルギーへと変換し、ヴァンは巨錨槌を引きずりながら、獣神の足元へと肉薄した。

「砕けろ」

ヴァンは腰の捻りから生み出されたすべての運動エネルギーを両腕に伝え、巨大な深海英雄の巨錨槌を獣神の太い右脚の関節へと向けてフルスイングで叩き込んだ。

メキバキバキバキィィィィィンッ!!!

鋼鉄よりも硬いバルバトスの漆黒の鱗が粉砕され、その下の極太の骨が、神の筋力と深海の質量による圧倒的な打撃力の前になす術もなくへし折られた。

「ギィギャアアアアアアアアッ!?」

右脚を完全に粉砕された獣神が、バランスを崩して砂浜に巨大な膝をつく。

連続する神々の入れ替え。炎、水、雷、風、そして剛力。

いかに次元の違う虚無の力を持っていようとも、セリアの完璧な戦況把握による神格の上書きと、ヴァンの決して折れない精神力がもたらす物理的な極限の連撃が、バルバトスに反撃の隙を一切与えない。

「まだだ! セリア、休むな! 水を外せ!」

ヴァンは膝をついた獣神の頭部を見上げながら、さらなる多重同化の詠唱を要求する。

両腕の筋肉は限界を迎え、皮膚は破け、彼の肉体はもはやただの血の塊のように赤く染まっていた。それでも、彼の闘志はさらに激しく燃え上がっていく。

「ええ! ポセイドンの魂を解除! 新たなる神格を上書きする!」

結界の内側で、セリアの目から血の涙が流れ落ちる。愛する者の肉体が壊れていくのを肌で感じながらも、彼女は絶対に詠唱を止めることはない。

「深淵よ退け! 代わって顕現せよ、闇を打ち払い、万物を焦がす絶対の太陽! 今、この器にて魂を顕せ! 同化召喚……太陽神アポロン!!」

ヴァンの肉体を覆っていた深海の群青色のオーラが消失し、代わって、周囲の砂を瞬時にガラスに変えるほどの超高熱の白き炎が、太陽そのもののように爆発的に噴き上がった。

大英雄ヘラクレスと、太陽神アポロン。

四度目の神格の上書き。ヴァンの全身の毛穴から血が間欠泉のように噴き出し、彼の口からは声にならない苦悶の息が漏れる。だが、彼の両手はしっかりと武器を握りしめている。

手にした巨錨槌が、白き炎に包まれて溶解し、再びその形を劇的に変異させる。

巨大な錨の形状から、片刃の巨大な戦斧へと変化。その刃には、見つめるだけで網膜を焼き切るほどの圧倒的な太陽の光と、超高熱の炎が纏わりついている。

不壊の剛力と太陽の炎を併せ持つ、「陽炎英雄の灼熱斧」。

「ガァァァァッ! 眩シイ……ッ! 目ガ、私ノ目ガァァァッ!!」

獣神バルバトスが、突如として放たれた至近距離からの太陽の光に六つの眼球を焼かれ、視界を完全に奪われて苦悶の叫びを上げる。

空間を削り取る虚無の攻撃は、対象を視認できなければ正確に放つことはできない。バルバトスが盲滅法に両腕を振り回すが、その爪はヴァンの肉体をかすめることすらない。

「これで……終わりだァァッ!」

ヴァンは灼熱斧を両手で天高く振り上げ、盲目となった獣神の巨大な頭部、その醜悪な六つの眼球の中心へと向けて、ヘラクレスの全筋力を込めて振り下ろした。

ドグシャァァァァァァァァァァァッ!!!

太陽の炎を纏った巨大な斧の刃が、獣神バルバトスの強固な頭蓋骨を叩き割り、その脳天へと深々と食い込んだ。

超高熱の炎が傷口から獣神の体内へと一気に流れ込み、魔界のドス黒い血液を瞬時に沸騰させ、内部から焼き焦がしていく。

「ア、ガ……ッ、ガアァァァァァァァァッ……!!!」

獣神バルバトスの全身が激しく痙攣し、その七メートルを超える巨体が、断末魔の叫びと共に仰向けに絶海の砂浜へと倒れ込んだ。

ズドォォォォンッ! という地響きと共に、巨大な砂煙が舞い上がる。

ヴァンは斧を振り下ろした姿勢のまま、激しく肩で息をしている。

全身から流れ落ちる血が彼の足元に水たまりを作り、黒曜の鱗鎧すらも、彼自身の放つ超高熱の炎と神格の過剰な負荷によって赤熱し、歪み始めていた。

沈黙が戦場を支配する。

脳天を叩き割られ、体内を太陽の炎で焼かれた獣神は、ピクリとも動かない。

倒したのか。あの次元の違う絶望の魔王を、人間の戦士と召喚師の執念が打ち破ったのか。

防壁の内側で、誰もが息を呑んでその結果を見守っていた。

だが、ヴァンの双眸は、決して目の前の巨体から視線を外してはいなかった。

痛覚を持たない彼だからこそ、本能が警鐘を鳴らし続けているのだ。

死んでいない。

これほどの致命傷を与え、魂を砕くほどの連撃を叩き込んでもなお、あの化け物の内奥にある次元の違う闇は、決して消え去ってはいないと。

ズズッ……。

不気味な音が、倒れ伏した獣神の巨体から響いた。

真っ二つに割れたはずの頭蓋骨の傷口から、ドス黒い、粘り気のある極彩色の魔力が、先ほどよりもさらに濃厚に、さらに悍ましく溢れ出し始めたのだ。

「……痛イ。痛イ、痛イ、痛イ痛イ痛イ痛イッ!!」

獣神の裂けた顎から、理性を保ったままのバルバトスの、狂気に満ちた怨嗟の声が漏れ出した。

「泥虫風情ガ……私ニ、ココココココココココココココマデノ屈辱ヲ与エルカァァァッ!!」

倒れたままの獣神の肉体が、ボコボコと不気味に波打ち始める。

叩き割られた頭蓋骨が強引に繋がり、太陽の炎で焼かれたはずの傷口が、虚無の魔力によって瞬時に塞がれていく。超常的な再生能力。いや、再生ではない。負ったダメージそのものを虚無へと変換し、無かったことにする理不尽極まりない魔界の理。

ヴァンは静かに、陽炎英雄の灼熱斧を構え直した。

彼の肉体はすでに限界を超え、いつ崩壊してもおかしくない状態にある。

しかし、戦いはまだ終わらない。絶望の魔王は、その真なる狂気と憎悪をさらに一段階引き上げ、いよいよ星そのものを破壊する領域へと足を踏み入れようとしていた。

「セリア……。まだだ。まだ、止まるな」

ヴァンが血に染まった唇を動かし、背後の召喚師へと声を届ける。

終わりの見えない神々の入れ替え戦。互いの魂を擦り潰し合う極限の死闘は、新大陸の淀んだ空の下で、さらなる激絶な領域へと突入していくのであった。

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