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追放された戦士は『同化』で覚醒する〜不要とされた俺が伝説の剣豪を身に宿し、やがて多民族国家を創り上げるまで〜  作者: 八咫 日本


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161/201

第161話 狂強の生態系と、白紙の大地を拓く刃

新大陸に上陸して迎えた、最初の朝。

黄金色の太陽が東の水平線から昇り、純白の砂浜と果てしなく続く巨大な樹海を鮮やかに照らし出していた。絶海の嵐と暗雲に閉ざされていた昨日までの景色が嘘のように、空はどこまでも高く、澄み渡っている。

「ひははははっ! 大将、こいつはとんでもねえぜ!」

早朝から砂浜と森の境界線で土を掘り返していたバルガンが、興奮しきった声で義手を打ち鳴らした。

巨大な方舟の周囲に展開された結界の中で、彼は人間用のスコップを軽々と振り回し、地層の深さを測っている。

「旧大陸のスカスカな土とは大違いだ。魔力が大地そのものに深く根付いている証拠だな。これだけ地盤が強固なら、どんな巨大な防壁を建てても、どんな重厚な城を築いても、数千年は絶対に沈み込まねえ! 俺の職人魂が燃え上がってきやがるぜ!」

その横では、ルミナが分厚い帳簿を開き、獣人の若者たちが森の入り口付近から切り出してきた木材や石材の品質を一つ一つ丁寧に確認していた。

「素晴らしいわ……。この木材、旧大陸の高級建材である黒檀よりも密度が高くて硬いのに、不思議なほど軽い。岩石にも微量の魔力鉱石が混じっていて、耐久性は抜群です。これを正しく加工して流通させれば、どんな悪徳商会も太刀打ちできない、完璧で公平な市場が作れます!」

彼女の商人としての鋭い眼光は、単なる生き残りのためではなく、これから皆で創り上げる「誰もが平等に暮らせる新しい国」の豊かな経済の基盤を、すでにしっかりと見据えていた。

「おうおう、食い物のほうも規格外だぜ!」

森の浅い場所から戻ってきたバクスが、両腕に抱えきれないほどの収穫物を抱えて厨房エリアに放り出した。

見れば、人間の背丈ほどもある巨大で色鮮やかなキノコや、青いリンゴのような形をしているのに焼いた肉のような香ばしい匂いを放つ未知の果実が山積みになっている。

「毒見は俺の鼻と舌で完璧に済ませてある。このキノコの旨味成分は旧大陸の最高級品の十倍は下らねえ。果実はそのまま絞れば極上のソースになる。これからどんな化け物みたいな魔物の肉が手に入っても、俺の包丁とこの新大陸のスパイスがあれば、世界一美味いフルコースにしてやるよ!」

バクスは牙を剥き出して笑い、早速獣人の助手たちに指示を出して新たなスープの仕込みを始めた。

方舟の甲板からその光景を見下ろしていたヴァンは、小さく息を吐いた。

誰もが過去のトラウマや鎖から解放され、それぞれの持つ最高の技術と知識を活かして、新しい国の土台を全力で組み上げようとしている。

「頼もしい仲間たちだ。彼らを見ていると、この新大陸が真に我々を歓迎してくれているようにすら錯覚してしまうな」

横に並び立ったローランが、青白いオーラを微かに纏う流麗な軽鎧の留め具を調整しながら微笑んだ。

「錯覚、その通りだ」

ヴァンは背負った白銀の長剣の柄に手を添え、眼前に広がる広大で鬱蒼とした樹海へと鋭い視線を向けた。

「ここは人間の歴史が一度も介入していない未開の地。大地に宿る魔力が濃いということは、そこで生き抜いてきた原生モンスターたちも、旧大陸の常識が一切通用しない規格外の化け物揃いということだ」

「ああ。バルガンが本格的な防壁の建設に取り掛かるには、現在の結界の範囲では狭すぎる。我々が森を切り拓き、安全圏を強引に広げる必要がある」

ローランが腰の長剣を抜き放ち、静かに闘志を燃やした。

「行こう、ヴァン。我々の国の領土は、我々自身の剣で勝ち取る」

ヴァンとローラン、そしてセリアの三人は、方舟の結界を一歩抜け出し、魔力の靄が漂う巨大な樹海へと足を踏み入れた。

森の中は、異様なほどの静寂と、息苦しいほどのプレッシャーに満ちていた。

数十メートルに達する巨大なシダ植物が日光を遮り、地面には旧大陸の数倍の大きさを持つ奇怪な虫たちが這い回っている。空気に溶け込んだ魔力の濃度が高すぎるため、普通の人間であれば数分で魔力酔いを起こして倒れてしまう環境だ。

だが、極限の鍛錬を積んだヴァンと、竜の血を引くローラン、そして失われた古代召喚術の使い手であるセリアにとって、それは足枷にはならなかった。

ガサァァァァァッ!

進行方向の巨大な樹上の影から、突如として五つの不気味な巨体が音もなく降ってきた。

着地と同時に地面が大きく揺れる。それは、全長十メートルを超える巨大な多足型の甲殻魔物だった。旧大陸のムカデを極限まで凶暴化させ、全身を鋼鉄のように鈍く光る分厚い外殻で覆ったようなおぞましい姿。その頭部には、岩盤すらも噛み砕く巨大な大顎が二つ、ガチャガチャと音を立てていた。

「旧大陸の軍隊なら、大隊を一つ壊滅させられるレベルの魔物が、ただの群れの雑兵として現れるか」

ローランが冷たく言い放ち、青白い竜のオーラを刃に集中させる。

「シャァァァァァッ!」

一体の甲殻魔物が猛烈な速度で地を這い、ローランへと大顎を突き出して突進してくる。

「遅い。シィッ!」

ローランは僅かに身を躱すと同時、流れるような剣舞で魔物の側面に回り込んだ。竜の腕力と魔力が込められた長剣が一閃され、鋼鉄の外殻のわずかな継ぎ目を極めて正確に両断する。

緑色の体液を噴き出しながら、巨大な魔物が二つに裂けて地に伏した。

「ヴァン、あの外殻は分厚い。数で押し切られる前に、一気に焼き払いましょう」

後方に立つセリアが、冷静に戦況を分析して告げた。

「ああ。頼む、セリア」

「岩盤を蒸発させ、火災旋風を巻き起こす極大の熱量。すべてを飲み込む紅蓮の王よ、今、この器にて交わりたまえ。同化召喚……紅蓮の爆炎竜!」

セリアの極限の詠唱が完了した瞬間、ヴァンの肉体を圧倒的な熱量を持つ真紅のオーラが包み込んだ。

周囲に漂っていた魔力の靄が、一瞬にして蒸発し、空気がチリチリと焼け焦げるような音を立てる。

ヴァンが背中から抜き放った白銀の長剣は、紅蓮の爆炎竜の魂に共鳴し、身の丈を超えるほどに巨大で分厚い、灼熱の炎を放つ大剣へとその姿を変異させた。

「ギチィィィィッ!」

仲間の死に激昂した残る四体の甲殻魔物が、四方から同時にヴァンへと襲いかかる。

だが、ヴァンは痛覚を持たない特異体質と、竜の魂がもたらす絶大な膂力に任せ、燃え盛る大剣を大きく上段に振り被った。

「消えろ」

静かな宣告とともに、灼熱の大剣が大地に向かって振り下ろされた。

ドゴォォォォォォォォォォォォォォォンッ!!!

斬撃が地面に激突した瞬間、爆炎竜の極大の熱量が扇状に爆発し、凄まじい火災旋風となって前方へ突き進んだ。

四体の甲殻魔物は、悲鳴を上げる間もなくその炎の渦に飲み込まれた。鋼鉄のような外殻は数千度の超高熱によって飴細工のように溶け落ち、内臓と水分が一瞬で完全に蒸発する。

炎が通り過ぎた後には、巨大な魔物たちの姿はどこにもなく、ただ赤熱してガラス状に融解した地面だけが残されていた。

さらに、ヴァンの放った炎は無秩序に森を燃やすことはなかった。彼の戦士としての完璧な物理制御が、斬撃の範囲だけに熱を集中させ、貴重な建築資源である周囲の樹木には一切の延焼を許していなかったのだ。

「……相変わらず、次元の違う威力と制動力だ。私が束になっても敵わない」

ローランが感嘆の息を漏らし、自身の剣を鞘に収めた。

「お前の剣技の正確さには敵わないさ」

ヴァンもまた、炎の大剣を白銀の長剣に戻して背中に収め、静かに答えた。

単体の同化召喚。それだけで、新大陸の凶悪な生態系の一部を完全に圧倒できる。魔力を持たない戦士と竜人の青年の力は、すでに旧世界のいかなる騎士団をも凌駕する領域に達していた。

「よし、この一帯の魔物はあらかた片付いたわね。バルガンさんに伝えて、防壁の基礎工事をここまで広げてもらいましょう」

セリアが周囲の魔力残滓を確認しながら微笑む。

「ああ。日没までにもう少し奥まで切り拓くぞ。俺たちの国の土台は、一ミリでも広い方がいい」

ヴァンが先頭に立ち、未開の森のさらに奥へと歩みを進める。

一切の油断も驕りもない。過酷な大自然と、未知の化け物たちが跋扈する白紙の大地。

自由と平等の多民族国家を建国するための、血の滲むような、しかし希望に満ちた開拓の戦いは、まだ始まったばかりだった。

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