↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追放された戦士は『同化』で覚醒する〜不要とされた俺が伝説の剣豪を身に宿し、やがて多民族国家を創り上げるまで〜  作者: 八咫 日本


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
160/201

第160話 新たなる黎明と、希望の礎

新大陸に上陸した第一日目の太陽が、広大な樹海の向こうへと静かに沈んでいく。

かつて誰も見たことのない、しかしどこか優しく暖かな夕暮れの光が、純白の砂浜に停泊する巨大な方舟と、その周辺に広がる真新しい野営地を黄金色に染め上げていた。

「よし、結界の杭はこれで最後だ! 地盤が硬くて助かるぜ!」

バルガンが義手を鳴らしながら、巨大な鉄の杭を砂浜と森の境界線に深々と打ち込んだ。方舟の中枢である星脈の核から魔力を引き出し、拠点周辺に不可視の強固な防御障壁を展開する。これで、森の奥に潜む規格外の原生モンスターたちも、容易にはこの拠点に近づくことはできない。

「バルガンの旦那、こっちも火の準備ができたぜ! さあ、新大陸記念すべき第一回目の晩餐だ!」

野営地の中央に組まれた巨大な焚き火のそばで、バクスが満面の笑みで叫んだ。

昼間にヴァンたちが森で仕留めた巨大な爬虫類モンスターの肉が、香草とともにこんがりと焼き上げられ、極上の香りを漂わせている。周囲には、未知の果実を絞った新鮮な果汁や、方舟で大切に保管されていた旧大陸の樽酒が並べられていた。

「うおおおおっ! 飯だ、飯だー!」

「すげえ肉の量だぞ! 旧大陸じゃ考えられないくらい美味そうだ!」

歓声を上げながら、数千人の民衆たちが一斉に焚き火の周りへと集まってくる。

エルフも、ドワーフも、獣人も、魔族も、そして人間の難民たちも。誰もが同じ火を囲み、同じ鍋からよそわれた料理を受け取り、隣に座る者の種族など一切気にする様子もなく、腹の底から笑い合いながら食事を始めた。

その光景を、少し離れた岩場からヴァンとローランが静かに見下ろしていた。

「……信じられるか、ヴァン」

ローランが、手にした木椀の酒を見つめながら、震える声で呟いた。

「彼らの首にはもう、見えない鎖すら繋がれていない。怯えることも、誰かの顔色を窺うこともなく、ただ生きる喜びだけを分かち合っている。……私たちが夢見た、誰もが平等に暮らせる新しい国が、今、確かにここにある」

竜人の青年の目には、隠れ里の長として一人で重圧を抱え込んでいた頃の悲壮感はもうない。

彼は万感の思いを込めてヴァンに向き直り、深く頭を下げた。

「すべては、あなたの剣が道を拓いてくれたおかげだ。旧大陸の腐敗を断ち切り、絶海の荒波を越え、我々をこの希望の大地へと導いてくれた。……どれだけ感謝しても足りない」

「よせ」

ヴァンは短く応え、夜空に浮かび上がり始めた新大陸の無数の星々を見上げた。

「俺は自分の護りたいものを護っただけだ。国を創り、あの民衆たちに明日への希望を与えたのは、お前の言葉と覚悟だ。俺にはそんな真似はできない」

ヴァンは視線を焚き火の方へと戻す。

そこには、獣人の子供たちに囲まれて料理を振る舞うバクス、新しい都市の図面を広げて人間の職人たちと熱く語り合うバルガン、そして、新しい特産品の価値を計算して目を輝かせるルミナの姿があった。

さらに、ローランの側近であるガロが、かつては自分たちを迫害していた人間たちと肩を組み、豪快に酒を飲み交わしている。

「あいつらが笑って生きられる場所。それを創るのが俺たちの役目だ。……ここはまだ、拠点に過ぎない。森の奥には、俺たちの常識が通用しない化け物も潜んでいる」

ヴァンは腰の白銀の長剣の柄にそっと手を添え、極めて静かに、しかし絶対の自信を込めて言った。

「だが、何が来ようと関係ない。この国を脅かす全ての理不尽は、俺が叩き斬る。お前はただ、あいつらが安心して眠れる国を創ることに専念しろ」

盾と剣になるというヴァンの誓い。

ローランは力強く頷き、竜のオーラを微かに立ち上らせて笑った。

「ああ。私の知恵と血のすべてを懸けて、この地に最高の国を築き上げよう」

「ヴァン、ローラン様。お肉が冷めてしまいますよ」

焚き火の方から、二人分の皿を持ったセリアが微笑みながら歩み寄ってきた。彼女の銀色の髪が、星の光と焚き火の灯りに照らされて美しく輝いている。

「ありがとう、セリア。すぐに行く」

ローランが皿を受け取り、一足先に民衆たちの輪の中へと戻っていく。彼が焚き火の前に立つと、数千人の同胞たちから割れんばかりの歓声と拍手が巻き起こった。

「良い夜ね、ヴァン」

セリアがヴァンの隣に立ち、夜風に目を細めた。

「ああ。……少し前まで、勇者パーティーを追放されて、泥水をすするように生きていたのが嘘のようだ」

ヴァンは自らの手を見つめ、静かに息を吐いた。

魔力を持たない戦士として無能の烙印を押され、愛剣すら奪われて放り出されたスラム街。そこで出会った、同じように世界から必要とされていなかった同化召喚師の少女。

「私を見つけてくれて、ありがとう、ヴァン」

セリアが、ヴァンの分厚く傷だらけの手に、自分の手をそっと重ねた。

「あなたが私を必要としてくれたから、私の術は世界を救う力になれた。あなたが決して諦めなかったから、私たちはこの新しい世界に辿り着けたのよ」

「俺の方こそ、お前がいなければとっくに死んでいた」

ヴァンは不器用に視線を逸らしながらも、セリアの手をしっかりと握り返した。

「……これからも頼む、セリア。俺の剣には、お前の魂が必要だ」

「ええ。どこまでも共に行くわ、私のたった一人の戦士様」

夜が更け、新大陸の空には旧大陸では見たこともないような巨大で美しい月が浮かび上がっていた。

焚き火の周りでは、バクスの料理を堪能した人々が、これからの新しい生活に胸を躍らせながら、穏やかな眠りにつき始めている。

過去の鎖は完全に断ち切られた。

迫害と差別に苦しんだ亜人、魔族、そして居場所を失った人間たち。彼らを乗せた希望の方舟は、ついに真の自由の大地へと辿り着いたのだ。

波の静かな音が、新しい歴史の幕開けを祝福するように響き渡る。

ここから始まるのは、旧世界の常識が一切通用しない未開の大地での開拓と、そして最強の多民族国家の建国。

戦士ヴァンと仲間たちの途方もない成り上がりの物語は、今この夜、最も美しく、最も力強い希望の礎を打ち立てたのである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。