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追放された戦士は『同化』で覚醒する〜不要とされた俺が伝説の剣豪を身に宿し、やがて多民族国家を創り上げるまで〜  作者: 八咫 日本


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第157話 絶海の海竜宴と、立ちはだかる暴風壁

荒れ狂う絶海のただ中を進む方舟の甲板は、信じられないほどの熱気と至福の香りに包まれていた。

「さあ野郎ども、遠慮はすんな! 腹がはち切れるまで食いな!」

バクスが巨大な包丁を鮮やかに振るい、前日にヴァンとローランが討伐した深淵の渦潮竜の肉を次々と切り分けていく。

分厚く切り出された海竜のステーキは、獣人の料理人たちの手によって香草と岩塩で豪快に焼き上げられ、ジュージューと食欲をそそる音を立てていた。雷獣の紫電によって瞬時に炭化しつつも旨味が完全に閉じ込められたその肉は、旧大陸の王侯貴族でさえ一生に一度口にできるかどうかの極上の幻の食材である。

「うおおおっ! なんだこの肉、噛んだ瞬間に口の中で溶けるぞ!」

「美味すぎる……! 生きててよかった!」

甲板のあちこちで、魔族やエルフ、獣人、そして人間の難民たちが、巨大な肉の塊に齧り付きながら歓喜の声を上げていた。

かつては互いに警戒し、種族が違うというだけでいがみ合っていた者たち。だが今、彼らは同じ火を囲み、同じ鍋からよそわれたスープを飲み、共に肩を叩き合って笑っている。

ローランの側近である顔に傷のある魔族のガロでさえ、人間の職人から注がれたエールを上機嫌で飲み干し、豪快な笑い声を響かせていた。

「見事な光景だ。……いや、奇跡と言ってもいい」

甲板の一角で、その様子を静かに見つめていたローランが、手にした木椀を傾けながら感慨深げに呟いた。

「私たちが目指す、種族の壁がなく、誰もが平等に暮らせる新しい国。この方舟の上には、すでにその理想の雛形が完成している」

「腹が減っていれば飯を食う。美味いものを食えば笑顔になる。生き物なら当たり前のことだ」

隣で同じように海竜のステーキを平らげていたヴァンが、淡々と答えた。

「当たり前のことを、当たり前にできる場所。俺たちが創るのはそういう国だ」

「ああ、その通りだ。あなたのその揺るぎない現実主義が、どれほど私の理想を支えてくれているか」

ローランは竜の瞳孔を優しく細め、ヴァンの背中に視線を向けた。

「ヴァン。新大陸に上陸し、国を興す時が来たら、私に法律の整備と都市の運営を任せてほしい。君がすべてを護る盾と剣になるのなら、私は君が背負う重圧を分かち合う、最強の土台となろう」

宰相としての揺るぎない覚悟。ヴァンはその言葉の重みを真っ直ぐに受け止め、無言で力強く頷いた。

しかし、その穏やかな宴の空気を、突如として吹き荒れた異常な突風が切り裂いた。

「きゃあっ!?」

突風に煽られ、ルミナが抱えていた分厚い航海日誌のページが激しく捲り上がる。

彼女は慌てて日誌を押さえ込みながら、胸元から方位磁針を取り出し、血相を変えた。

「皆さん、警戒してください! 羅針盤の針が完全に狂っています! それに、この風……ただの自然現象ではありません!」

ルミナの警告と同時に、方舟を覆っていた鉛色の雲が、インクを零したように異常な速さで漆黒へと染まっていった。

昼間であるにもかかわらず、周囲は完全な闇に包まれ、その闇の奥から、ゴォォォォォォッという地鳴りのような轟音が響き始める。

「大将! 前方を見ろ!」

操舵室の窓から身を乗り出したバルガンが、珍しく焦燥の声を上げた。

ヴァンの鋭い観察眼が、漆黒の海面に現れた異常な光景を捉える。

方舟の進行方向を完全に塞ぐように、天と海を繋ぐ巨大な竜巻の壁がそびえ立っていた。一つではない。何十、何百という巨大な竜巻が横一列に連なり、互いに絡み合いながら、絶海を分断する物理的な壁を形成しているのだ。

それは、旧大陸のいかなる文献にも記されていない、新大陸を外部から守るための大自然の防衛機構「嘆きの暴風壁」であった。

「あのまま突っ込めば、いくら金剛樹の竜骨でも空中へ巻き上げられてバラバラに砕け散っちまう! だが、迂回できるような隙間はねえぞ!」

バルガンが舵輪を必死に押さえ込みながら叫ぶ。

「逃げる必要はない。切り裂いて真っ直ぐ進むぞ」

ヴァンは立ち上がり、背負っていた白銀の長剣を引き抜いた。

その瞳には微塵の恐怖も迷いもない。どんな理不尽な壁であろうと、物理的に破壊して道を拓くという戦士の絶対的な自信がそこにあった。

「セリア。一番風を切り裂ける魂を頼む」

「ええ、任せてヴァン!」

セリアが嵐の吹き荒れる甲板に立ち、両手を突き出して極限の詠唱を紡ぎ出す。

「天空を舞い、万の風を従える翡翠の支配者。荒れ狂う暴風すらも我が身の羽根とし、今、この器にて交わりたまえ。同化召喚……嵐の神鳥!」

詠唱が完了した瞬間、ヴァンの肉体を眩い翡翠色のオーラが包み込んだ。

チャキィィィィンッ!

白銀の長剣が、嵐の神鳥の魂に共鳴して激しく流動する。刀身が身の丈を超えるほどに長く伸び、美しい流線型を持つ「巨大な風刃の大太刀」へと変異した。その刀身からは、周囲の暴風を相殺するほどの超高密度の真空の刃が絶え間なく発生している。

「ローラン! 甲板の防衛は任せる!」

「承知した! 船員たちには指一本触れさせない!」

ローランが青白い竜のオーラを放ちながら、吹き飛ぼうとする荷箱や民衆たちをその強靭な膂力で押さえ込む。

ヴァンは甲板の最前列である船首へと跳躍し、巨大な風刃の大太刀を上段に構えた。

眼前に迫る、海と天を繋ぐ巨大な竜巻の壁。巻き上げられた海水が刃のように船体を打ち据えるが、ヴァンは痛覚を一切感じない特異体質と、嵐の神鳥がもたらす風の加護により、一歩も引くことなくその場に立ち続けた。

「シィィィィィィッ!!」

ヴァンが裂帛の気合いとともに、巨大な大太刀を真っ向から振り下ろした。

ドゴォォォォォォォォォォォンッ!!!

大太刀から放たれた極大の真空の斬撃が、圧倒的な物理質量を伴って竜巻の壁に激突する。

嵐の神鳥の力を宿した一撃は、ただ風を切るだけでなく、竜巻そのものの気圧と魔力の流れを物理的に粉砕した。

暴風と真空がぶつかり合い、凄まじい衝撃波が絶海の上を駆け抜ける。

「おおおおおおっ! 道が開いたぞ!」

バルガンが歓喜の声を張り上げる。

ヴァンの放った一撃は、立ち塞がっていた巨大な竜巻の壁の中心を見事に真っ二つに両断し、方舟が通り抜けられるだけの巨大な「無風のトンネル」を穿ち開けたのだ。

「機関、最大出力! 一気に抜け切るぞォォォッ!!」

ヒュドラの魔石が真っ赤に輝き、方舟の両舷の外輪が海面を爆発させるような勢いで回転する。

金剛樹の竜骨が軋みを上げ、巨大な木造の船体が、ヴァンの切り拓いたトンネルの中を凄まじい速度で突進していく。

左右にはまだ荒れ狂う竜巻が渦巻いているが、ヴァンの放った真空の残滓がそれらを押し留め、方舟に指一本触れさせない。

やがて、数分間に及ぶ決死の突撃の末、方舟はついに最後の分厚い竜巻の壁を突き破った。

パァァァァァァァ……!

その瞬間、荒れ狂っていた暴風雨が嘘のように止み、周囲を包んでいた漆黒の闇が晴れ渡った。

静まり返った甲板に、穏やかな太陽の光が降り注ぐ。

羅針盤の狂いも収まり、波は信じられないほど穏やかな凪へと変わっていた。

「……抜けた。絶海の、完全な外洋だ」

大太刀を白銀の長剣に戻し、背中に収めたヴァンが、静かに息を吐いた。

甲板にへたり込んでいた民衆たちが、恐る恐る顔を上げ、そして目の前に広がる光景に息を呑んだ。

荒れ狂う波も、暗い雲も、もうどこにもない。どこまでも澄み渡る青い空と、陽光を反射して宝石のように輝く穏やかな海が広がっているだけだ。

「ヴァン……見て!」

セリアが甲板の先端に立ち、震える指で遥か前方の水平線を指差した。

そこには、うっすらとではあるが、長く連なる緑豊かな大地の稜線が確かに見えていた。

人間の歴史がいまだかつて一度も足を踏み入れたことのない真の未開領域。すべての迫害と差別から解放され、誰もが平等に笑い合える国を創るための希望の大地。

新大陸が、ついにその姿を現したのである。

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