↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追放された戦士は『同化』で覚醒する〜不要とされた俺が伝説の剣豪を身に宿し、やがて多民族国家を創り上げるまで〜  作者: 八咫 日本


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
155/201

第155話 決別の氷壁と、希望を乗せた方舟の船出

巨大な氷晶の絶壁が、東の空から昇り始めた朝日に照らされ、神々しい黄金色に輝いていた。

それは、旧大陸の腐敗した歴史と、新世界へ向かおうとする者たちとを永遠に隔てる、絶対的な拒絶の壁であった。高さ数十メートル、左右にどこまでも続くその氷の防壁は、一万の追討軍を一切の犠牲を出すことなく退けたヴァンの、途方もない力の証明でもある。

「帰還したぞ! ローラン様とヴァン殿の帰還だ!」

方舟の甲板から見張りをしていたエルフの若者が、歓喜の声を張り上げた。

氷壁を背にして海岸線を歩いてくる三つの影。ヴァン、ローラン、そしてセリアの姿が確認されると、方舟に乗船していた数千人の民衆から、地響きのような大歓声が沸き起こった。

「ローラン様! ヴァン殿! ご無事で……!」

タラップの前に駆け寄った魔族のガロが、顔の大きな傷を歪めて感極まったように叫ぶ。

「ああ、待たせたなガロ。追討軍は完全に撤退した。もはや我々を追う者は、あの氷壁の向こう側には一人もいない」

ローランが穏やかに微笑みながら答えると、周囲を取り囲んでいた亜人や獣人、そして人間の難民たちが、次々とその場に泣き崩れ、互いに抱き合って喜びを爆発させた。

何百年もの間、彼らの首に繋がれていた見えない鎖。召喚術を持たない者は無能とされ、種族が違うというだけで迫害されてきた理不尽な歴史が、今、完全に断ち切られたのだ。

「大将! 最高の仕事だったぜ!」

甲板の上から、バクスが巨大なお玉を振り回しながら声をかけてきた。その横では、バルガンが義手を腰に当ててニヤリと笑い、ルミナが安堵の涙を拭っている。

ヴァンは静かにタラップを登り、甲板に立つ仲間たちの顔を見渡した。

「……準備はできているな」

短い問いかけに、仲間たちは力強く頷いた。

「おうよ! 星脈の核と、ヒュドラの巨大魔石のリンクは完璧だ。俺の組み上げた魔力駆動の外輪は、絶海の荒波だろうがへし折って進むぜ!」

バルガンが誇らしげに操舵室の方角を指差す。

「物資の最終点検も完了しています。真水、塩、保存食、すべて完璧に固定し、いかなる揺れにも耐えられるよう配置しました。バクスさんの厨房班も、いつでも火を使える状態です」

ルミナが分厚い帳簿を閉じ、凛とした表情で報告した。

「よし。なら、もうこの地に留まる理由はない」

ヴァンは振り返り、荒れ狂う絶海の彼方、厚い雨雲に覆われた未知の海域へと視線を向けた。

その言葉を受け、ローランが甲板の最も高い場所、船首の指揮台へと歩みを進める。

白銀の角を持つ竜人の青年がそこに立つと、数千人の民衆が一斉に静まり返り、彼の一挙手一投足に熱い視線を注いだ。

「我らが同胞よ!」

ローランのよく通る声が、波の轟音に負けることなく、方舟の隅々にまで響き渡った。

「背後の巨大な氷壁を見よ。あれは、かつて我々を縛り付けていた過去との決別の証だ! 人間の国は自らの傲慢さで自滅の道を歩み、もはや我々を脅かす力はない。我々は今日、この瞬間を以て、すべての迫害と差別から解放された!」

民衆たちが固唾を呑んで聞き入る中、ローランは傍らに立つヴァンを手で示した。

「この黒鎧の戦士、ヴァンは、圧倒的な力を持ちながらも決して我々を支配しようとはしなかった。共に汗を流し、血を流さずに道を拓き、我々に『誰もが平等に暮らせる新しい国を創る』という壮大な夢を見せてくれた。……いや、夢ではない。我々は今から、それを現実にするための航海に出るのだ!」

ローランが腰の長剣を引き抜き、天高く掲げる。青白い竜のオーラが、夜明けの光と交じり合って美しく煌めいた。

「恐れるな! 絶海の嵐も、未知の魔物も、我々の絆と誇りを打ち砕くことはできない! 古き鎖を断ち切り、名もなき新天地へ! 自由と平等の多民族国家を、我々自身の手で創り上げるのだ!」

「おおおおおおおおおおっ!!」

数千の民衆が天に向かって拳を突き上げ、割れんばかりの雄叫びを上げた。

種族の壁など存在しない。そこにあるのは、共に生き、共に新しい歴史を創り上げようとする一つの強固な意志だけだった。

「ヴァンさん。あなたからも、皆に一言」

ルミナが優しく微笑みながら促す。

ヴァンは少しだけ面倒そうに息を吐いたが、皆の期待に満ちた熱い視線から逃げることはせず、一歩だけ前に出た。

「……俺は口下手だ。気の利いた演説はできない」

ヴァンは淡々と、しかし腹の底に響くような重い声で言った。

「だが、一つだけ約束する。俺の背中についてくる限り、お前たちの命は俺が必ず護り抜く。だから前だけを見ろ。俺が、新大陸への道をすべて拓く」

飾り気のない、しかしこれ以上ないほど頼もしい誓いの言葉。

それがヴァンの不器用な優しさと覚悟であることを、ここにいる全員が理解していた。再び、地鳴りのような歓声と拍手が沸き起こる。

「最高の挨拶ね、ヴァン」

セリアが隣でクスクスと笑い、ヴァンの腕にそっと身を寄せた。

「ああ。さっさと船を出そう」

ヴァンはわずかに口角を上げ、操舵室のバルガンに向かって鋭く頷いた。

「ひははははっ! 野郎ども、聞いたな! 命綱をしっかり握っとけよ!」

バルガンが操舵室で極太のレバーを力いっぱい引き下ろす。

「機関、最大出力! 抜錨ォォォォッ!!」

ズズズズズンッ!!

ヒュドラの魔石から供給された莫大な魔力が星脈の核を駆け巡り、船体の両舷に設置された巨大な外輪が凄まじい勢いで回転を始めた。

ガロたち甲板員が一斉に太いロープを引き、砂浜に深く突き刺さっていた巨大な鉄の錨が引き上げられる。

「帆を張れ! 風を捉えろ!」

ローランの号令とともに、エルフたちが編み上げた純白の巨大な帆がバサァッ!と音を立てて広がり、絶海から吹き付ける強烈な向かい風を真正面から受け止める。

ミシミシと船体が軋むが、霊峰から切り出された金剛樹の竜骨は、その凄まじい負荷を完璧に分散させ、微かなたわみすら見せなかった。

ザパァァァァァァァァンッ!!!

方舟が海岸を離れ、絶海の荒れ狂う大波に正面から激突する。

家屋を軽々と飲み込むほどの巨大なうねりが船首を襲うが、鋼殻の要塞を包み込む強固な装甲と、バルガンの計算し尽くされた船体構造が波を真っ二つに切り裂き、白い飛沫を上げて強引に前進していく。

「進んだ! 波を越えているぞ!」

「すげえ! これが俺たちの方舟だ!」

甲板の民衆たちが、激しい揺れに耐えながらも歓喜の声を上げる。

朝の光が、荒波を越えて進む巨大な方舟を背後から力強く照らし出していた。

旧大陸の海岸線と、彼らを隔てる氷晶の絶壁は、次第に小さくなり、やがて水平線の彼方へと消えていく。彼らはついに、腐敗した世界を完全に置き去りにしたのだ。

「ここから先は、人間の歴史が届かない真の未開領域だ」

船首に立つヴァンが、吹き付ける塩気を帯びた暴風に目を細める。

厚い雨雲に覆われた絶海の先には、まだ誰も知らない広大な新大陸が眠っている。

「どんな困難が待っていようと、君といれば乗り越えられる気がするよ、ヴァン」

ローランが横に並び立ち、前方を見据えながら力強く言った。

迫害された者たちを乗せた希望の方舟は、巨大な波を次々と砕きながら、新世界への第一歩を力強く踏み出した。

誰もが平等に笑い合える多民族国家の建国。その壮大な夢を現実のものとするための、過酷で、そして誇り高き大航海が、今まさに始まったのである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。