↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追放された戦士は『同化』で覚醒する〜不要とされた俺が伝説の剣豪を身に宿し、やがて多民族国家を創り上げるまで〜  作者: 八咫 日本


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
154/201

第154話 氷晶の絶壁と、王者の戦い

荒涼とした絶海の岸辺へと続く荒野を、一万を超える人間の連合軍が土煙を上げて進軍していた。

無数の松明が闇夜を赤黒く染め上げ、馬のいななきと、鎧の触れ合う無機質な音が地鳴りのように響き渡る。彼らの瞳には、逃げ出したかつての「所有物」たちを再び鎖に繋ぎ、あわよくばあの巨大な方舟の技術を独占しようという、旧世界特有の強欲と執着がギラギラと渦巻いていた。

「見ろ! あの岸辺に停泊している巨大な船を! 噂以上の代物だ!」

連合軍の先頭を進む、装飾過多な鎧を着込んだ貴族の指揮官が、下品な笑い声を上げた。

「王都が消滅し、我が国の労働力は底を尽きかけている。あの船に隠れている亜人どもをすべて捕らえ、首輪をはめて国へ連れ帰るのだ! 逆らう者は手足の一本や二本切り落としても構わん!」

狂喜の声を上げる一万の軍勢。

しかし、彼らの進軍は、岸辺へと続く細い道に立ち塞がる「たった二つの影」によって止められた。

「なんだ、貴様らは? たった二人でこの一万の軍勢を止められるとでも思っているのか!」

指揮官が嘲笑しながら馬を進める。

そこに立っていたのは、黒曜の鱗鎧を纏い、白銀の長剣を背負ったヴァンと、流麗な軽鎧に青白いオーラを纏う竜人の青年、ローランだった。

「……愚かな。力で他者を踏みにじることしか知らぬから、自分たちがどれほど矮小な存在であるかに気づけないのだ」

ローランが静かに息を吐き、腰の長剣を抜いた。

「ヴァン。彼らに言葉は届かない。彼らが信じている『召喚術』という絶対の力そのものを、へし折るしかないようだ」

「ああ。命まで奪う必要はないが、二度と海を渡ろうと思わせないだけの絶望を刻む」

ヴァンは背後のセリアに短く合図を送った。

「行くわよ、ヴァン。彼らの腐った熱を冷まし、すべてを凍結させる氷の魂を喚ぶわ」

セリアが両手を突き出し、極限の集中力で詠唱を紡ぎ出す。

「万物の律動を止め、触れるものすべてを静寂へと誘う絶対零度の支配者。今、この器にて交わりたまえ。同化召喚……絶対零度の氷晶竜!」

詠唱が完了した瞬間、ヴァンの肉体を透き通るような冷たい氷色のオーラが包み込んだ。

チャキィィィィンッ!

ヴァンが構えた白銀の長剣が、極大の氷属性の魂に共鳴し、激しく流動する。刀身が分厚く、そして長く伸び、その表面には無数の氷の結晶が幾何学的な紋様を描いて浮かび上がった。周囲の気温が一瞬にして急下し、ヴァンの足元の地面がパキパキと音を立てて凍りついていく。

「な、なんだあの冷気は……! 魔法の詠唱もなしに、武器そのものが変化しただと!?」

指揮官が動揺するが、すぐに気を取り直して声を張り上げた。

「ええい、怯むな! たかが物理武器一つで何ができる! 召喚師部隊、前へ! 炎の魔獣を喚び出し、あの二人を灰燼に帰せ!」

数百人の召喚師が一斉に呪文を唱え、魔法陣から巨大な炎の虎や、灼熱の岩塊でできたゴーレムが次々と具現化する。

数千度の熱を放つ召喚獣の大群が、一万の兵士たちの歓声とともにヴァンとローランへ向かって突撃を開始した。

「先陣は私が切ろう!」

ローランが石畳を蹴り、神速の踏み込みで前線へと飛び込んだ。

「シィッ!」

竜の魔力を纏った長剣が、青白い軌跡を描いて夜空に閃く。ローランは炎の虎の首を刎ねるのではなく、その足元、魔力の供給源である召喚陣の結節点を極めて正確に切り裂いた。

「なっ……!?」

驚く召喚師たちの目の前で、炎の魔獣たちは次々と形を崩し、ただの魔力の粒子となって霧散していく。

さらにローランは、後続の重装歩兵たちの懐へと流れるように潜り込み、刃の峰と柄を駆使して、彼らの兜や鎧の継ぎ目を的確に打ち据えた。

ガガガガガッ! という音とともに、一滴の血も流れることなく、数十人の歩兵が次々と膝から崩れ落ちて気絶していく。

竜の腕力と極限まで洗練された剣技。それはまさに、圧倒的な実力差を見せつけるための芸術的な制圧劇だった。

「ひ、ひぃぃっ! 化け物だ!」

「下がれ! 弓兵、一斉射撃!」

後方に控えていた弓兵たちが、一斉に無数の矢をローランへと放つ。

しかし、その矢の雨がローランに届くより早く、ヴァンが静かに前へと歩み出た。

「凍てつけ」

ヴァンは絶対零度の氷晶竜の力が宿った大剣を、大きく横に薙ぎ払った。

斬撃によって生み出された凄まじい風圧が、絶対零度の冷気を伴って荒野を吹き荒れる。

ピキィィィィィィンッ!!!

空を覆い尽くしていた無数の矢が、空中で一瞬にして完全に凍結し、氷の礫となってポロポロと地面に砕け散った。

それだけではない。

ヴァンの放った絶対零度の斬撃波は、連合軍の足元へと広がり、彼らが構えていた鉄の槍や剣、さらには分厚い鎧の表面までをも、一瞬にして白い霜で覆い尽くし、強固に凍りつかせてしまったのだ。

「あ、足が……! 動かない!」

「剣が柄から離れねえ! 冷たすぎる!」

武器を持つ手は凍傷寸前まで冷やされ、足のブーツは地面と一体化して身動きが取れない。

殺傷力を持たない、しかし完璧なまでの物理的制圧。

たった一振りの剣が生み出した極寒の地獄に、一万の軍勢の進軍が完全に停止した。

静まり返った荒野を、ヴァンは凍りついた地面を踏み砕きながら、ゆっくりと指揮官の元へと歩を進める。

魔法すら使えないはずの戦士が、何百人もの召喚師たちを完全に無力化し、万の軍勢を足止めしている。指揮官の顔からは血の気が引き、乗っていた馬もヴァンの放つ冷酷な死の気配に怯えてその場にへたり込んでしまった。

「ひっ……く、来るな……!」

落馬した指揮官が、ガチガチと歯を鳴らしながら後ずさる。

ヴァンは指揮官の目の前で立ち止まり、冷気を放つ大剣の切先を、彼の喉元数十センチの距離でピタリと止めた。

「俺たちの進む道に、貴様ら旧世界の人間が立ち入る余白はない」

ヴァンの声は、氷晶竜の冷気よりも冷たく、そして重かった。

「お前たちが絶対だと信じる召喚術も、数に任せた暴力も、俺の剣の前では意味を成さない。……これが、俺たちと貴様らの明確な境界線だ」

ヴァンが大剣を天に向かって振り上げ、そのまま地面に突き立てる。

ドゴォォォォォォォォォンッ!!!

大地の底から巨大な氷の柱が次々と隆起し、連合軍と海岸線の間に、高さ数十メートルにも及ぶ巨大な氷晶の絶壁が創り出された。

それは、彼らが二度と方舟に近づけないようにするための、拒絶の象徴だった。

「命が惜しければ、武器を捨てて帰れ。そして二度と、俺の仲間に近づくな」

ヴァンの静かな宣告に、指揮官は完全に戦意を喪失し、悲鳴を上げながら這いつくばって逃げ出した。

それを見た一万の兵士たちも、凍りついた武器をその場に放り捨て、我先にと踵を返して逃げ惑っていく。誰も死んではいない。しかし、彼らの誇りも、召喚術への絶対的な自信も、ヴァンの見せた圧倒的な力の前に完全に粉砕されていた。

「見事だ、ヴァン」

剣を収めたローランが、歩み寄りながら満足げに微笑んだ。

「血を流すことなく、彼らの心だけをへし折った。これで旧大陸の人間たちが我々を追うことは、二度とないだろう」

「ああ。これでようやく、余計な鎖を引きずらずに海を渡れる」

ヴァンは絶対零度の氷晶竜の同化を解き、白銀の長剣を背中に収めた。

振り返れば、巨大な氷晶の絶壁の向こう側で、方舟に乗る数千の民衆たちが、無傷で帰還した二人の戦士に向かって割れんばかりの歓声を上げていた。

旧世界の腐敗と差別を象徴する追討軍は去り、夜明けの光が絶海の水平線を僅かに照らし始めている。

「さあ、帰ろう。私たちの船へ」

セリアが微笑みながらヴァンの腕に触れる。

一行は氷の絶壁を背にし、新たな世界への扉となる巨大な方舟へと、確かな足取りで歩みを進めるのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。