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追放された戦士は『同化』で覚醒する〜不要とされた俺が伝説の剣豪を身に宿し、やがて多民族国家を創り上げるまで〜  作者: 八咫 日本


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第153話 絶海の宴と、語り継がれる新国家の夢

荒れ狂う絶海の岸辺に築かれた野営地には、波の轟音を打ち消すほどの明るい笑い声が響き渡っていた。

巨大な方舟の傍らにいくつもの焚き火が焚かれ、バクスが率いる厨房班が次々と極上の料理を仕上げていく。分厚い魔物の肉を岩塩と香草で豪快に焼き上げたロースト、数種類の木の実を煮込んだ濃厚なシチュー。

かつては人間の貴族たちに蔑まれ、残飯を啜るしかなかった亜人や魔族たちが、今は互いに肩を叩き合い、同じ火を囲んで腹いっぱいの食事を楽しんでいた。

その野営地の一角、少し見晴らしの良い岩場に、ヴァンたち一行とローランが集まり、杯を交わしていた。

「……信じられない光景だ。人間、エルフ、ドワーフ、獣人、そして魔族。これまで決して交わることのなかった者たちが、こんなにも穏やかに笑い合っている」

ローランが、眼下の野営地を見下ろしながら深く息を吐いた。彼の竜の瞳孔には、焚き火の光が優しく反射している。

「バクスの飯が美味いからだ。美味い飯の前では、種族なんて関係ないからな」

ヴァンが木椀の酒を煽りながら淡々と答えると、バクスが照れくさそうに牙を掻いた。

「へへっ、大将にそう言ってもらえると料理人冥利に尽きるぜ。……でもよ、俺は本当に夢見てたんだ」

バクスは火を見つめ、真剣な顔で語り始めた。

「人間の街にいた頃、俺たち獣人は店に入ることすら許されなかった。だから俺は、どんな種族でも、魔力がなくても、誰もが同じテーブルを囲んで笑い合える『世界一のレストラン』を開きたい。それが俺の夢だ。新大陸なら、絶対にそれが叶う気がするんだ」

その言葉に、バルガンが義手をカチンと鳴らして身を乗り出した。

「ひはははっ! なら、そのレストランを建てるのは俺の役目だな。いや、店だけじゃねえ。俺は新大陸で、誰一人奴隷として扱われない、誇り高き職人たちが腕を振るう最高の都市を設計してやる。魔法なんかに頼らなくても、俺たちの技術と心意気で、いかなる外敵も寄せ付けない美しくて強固な街をな!」

「でしたら、私はその都市を豊かにするための商業網を整えますね」

ルミナが目を輝かせ、自信に満ちた声で続く。

「力で搾取する悪徳商会のような真似は絶対にさせません。誰もが公平に取引ができ、作った物の価値が正しく評価される経済の仕組みを創ります。新大陸での最初の市場は、私に任せてください!」

仲間たちが次々と語る未来の夢。そこには、旧世界の人間たちのような他人を蹴落とし、支配しようとする醜い欲望は一切なかった。ただ純粋に、自らの技術と誇りで誰かを笑顔にしたいという、温かくも力強い願いだけが込められていた。

ローランはその言葉を一つ一つ噛み締めるように聞き、そして静かに立ち上がった。

「バクス、バルガン、ルミナ。君たちの夢は、私が長年胸の奥底に秘めながらも、現実の過酷さを前に諦めかけていた理想そのものだ」

ローランは真っ直ぐにヴァンを見据えた。

「種族の壁がなく、誰もが平等に暮らせる新しい国を創りたい。……迫害に怯え、隠れ住むしかなかった私にとって、それはあまりにも途方もない夢だった。だが、あなたたちと出会い、共に方舟を造り上げた今、それは確かな目標に変わった」

竜人の青年は、右手を胸に当て、深く頭を下げた。

「ヴァン。私の知恵も、この竜の血も、すべて君たちの夢を実現するために捧げよう。共に新しい国を創ってくれないか」

風が吹き抜け、焚き火の炎が大きく揺れる。

セリアが隣で優しく微笑む中、ヴァンは静かに杯を置き、立ち上がった。

「人間の国は、召喚術という旧世界のシステムに縛られすぎた。魔法を持たない者を無能と切り捨て、他者を搾取することでしか成り立たない腐敗した土台の上に、お前たちの夢を建てることはできない」

ヴァンは腰に帯びた白銀の長剣の柄にそっと手を添え、極めて冷徹に、しかし確かな熱を込めて言った。

「だからこそ、新大陸だ。過去のしがらみが一切届かない未開の地で、俺たちが一から土台を創る。……そのための盾と剣になるのが、俺の役目だ」

「ヴァン……!」

ローランが感極まったように顔を上げる。バクスもバルガンも、ルミナも、皆が確かな希望の光をその瞳に宿していた。

「多民族国家の建国」。ただの逃避行だった旅は、今この絶海の岸辺で、未来を創り出すための確固たる使命へと昇華されたのだ。

「よし、なら今夜はこの新しい国に乾杯だ!」

バクスが新しく酒樽を開けようとした、その時だった。

「報告! 報告します!」

見張り台に立っていたエルフの若者が、血相を変えて野営地に駆け込んできた。

「後方の荒野より、大規模な軍勢が接近! 数え切れないほどの松明の光です! 旗印は複数……人間の国の、貴族連合軍と思われます!」

その報告に、野営地の空気が一瞬にして凍りついた。

ルミナが急いで崖の上から望遠鏡を覗き込み、青ざめた顔で振り返る。

「間違いありません。王都崩壊後、労働力である亜人の奴隷たちを失い、自国のインフラが崩壊しかけている周辺の国々が手を組んだのです。逃げ出した奴隷を再捕獲し、あわよくばこの移動要塞の技術を奪い取るために、兵力と召喚師をかき集めて追ってきました。その数……およそ一万!」

方舟の近くで食事をしていた亜人たちが、人間の軍勢という言葉に顔を強張らせ、恐怖でガタガタと震え始めた。せっかく前を向きかけた彼らの心を、旧世界の亡霊が再び鎖で縛り付けようと迫り来ていた。

「ふざけやがって……! どこまで俺たちを道具扱いすれば気が済むんだ!」

バクスが毛を逆立てて牙を剥き、バルガンが忌々しそうに義手を鳴らす。

ローランは静かに長剣を抜き放ち、青白い竜のオーラを全身から立ち上らせた。

「奴らは、自分たちの傲慢さで国を滅ぼしておきながら、まだ他者の首に鎖を繋ごうという旧世界の腐敗そのものだ。この方舟には、指一本触れさせない」

「一人で背負う気か、ローラン」

ヴァンがゆっくりと歩み寄り、ローランの隣に並び立った。

黒曜の鱗鎧が鈍く光り、背負った白銀の長剣が静かな闘志を放っている。

「俺の仲間たちが、新大陸で叶える夢を語ってくれた。その夢の土台に、人間の国の腐った血など一滴も必要ない」

ヴァンは冷徹な視線を、闇夜の向こう、無数の松明の光が蠢く荒野へと向けた。

「行くぞ。無駄な殺戮はしない。奴らの誇りも、召喚術という旧世界の価値観も、すべて根本からへし折り、二度と俺たちを追う気すら起きないほどの絶望を刻み込んでやる」

「……ああ。彼らに、真の王者の戦いを見せてやろう」

ローランが深く頷き、不敵な笑みを浮かべる。

「セリア、頼む」

ヴァンが背後の相棒を呼ぶ。

「ええ、ヴァン。旧世界の執念を断ち斬る、最高の魂を喚ぶわ」

絶海の轟音を背に、一万の軍勢の前にたった二つの影が静かに立ち塞がる。

魔力を持たない黒鎧の戦士と、異端として迫害されてきた竜人の青年。新世界を創る者たちの、絶対的な力の格差を示すための最後の戦いが、今まさに幕を開けようとしていた。

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