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追放された戦士は『同化』で覚醒する〜不要とされた俺が伝説の剣豪を身に宿し、やがて多民族国家を創り上げるまで〜  作者: 八咫 日本


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第151話 紡がれる希望と、方舟の産声

霊峰から切り出された金剛樹の巨木が、ヴァンとローランの手によって隠れ里の広場へと運び込まれた時、地鳴りのような歓声が谷底を揺るがした。

「おおおおっ! こいつはすげえ! 間違いねえ、伝説の金剛樹だ!」

バルガンが目を輝かせ、義手で巨大な銀色の幹を撫で回す。

「これほどの素材なら、絶海の大嵐だろうが巨大海竜の尾の一撃だろうが、絶対にへし折れねえ! すぐに製材にかかるぞ! ドワーフの野郎ども、炉の火を最大まで上げろ!」

バルガンの号令とともに、隠れ里の造船作業は一気に加速した。

金剛樹を船の背骨たる「竜骨」として中央に据え、その上にヴァンの鋼殻の移動要塞を中枢部として組み込んでいく。要塞の強固な鋼の装甲はそのままに、船としての浮力と推進力を得るための巨大な木造の外殻と、魔力を動力に変換する特殊な外輪が次々と形作られていった。

作業は昼夜を問わず続けられた。

ローランの側近である魔族のガロは、自らの屈強な肉体を活かして重い鉄板を運びながら、周囲の光景に目を細めていた。

「ガロ様、こっちの接合部の確認をお願いします!」

王都から逃げてきた人間の職人が、魔族であるガロに対して何の偏見もなく、むしろ頼るような笑顔で声をかけてきたのだ。

「ああ、今行く」

ガロは短く応え、鉄板を置いて手伝いに走る。

かつては人間を憎み、外界を拒絶することでしか里を護れなかった彼ら。しかし今、この谷底には種族の壁も、過去の恨みも存在しない。誰もが「新大陸への航海」という途方もない希望に向かって、一つの巨大な船を共に創り上げているのだ。

夕暮れ時、作業が一段落した広場の隅で、ローランは配給されたバクスの特製シチューを啜りながら、建造中の巨大な船体の骨組みを見上げていた。

「どうした、ローラン。手が止まっているぞ」

隣に腰を下ろしたヴァンが、同じく木椀を傾けながら声をかけた。

「……いや。ただ、夢を見ているような気分になってな」

ローランは竜の瞳孔を優しく細め、穏やかな声で語り始めた。

「私はずっと、この里の長として、虐げられた同胞たちを護らねばならないと気を張ってきた。人間への警戒を怠らず、少しでも里を脅かすものがあれば、私がこの手で斬り捨てる。……すべてを一人で背負い、誰にも弱音を吐くことは許されないと、そう思っていたんだ」

ローランの視線の先では、ガロたち魔族と、王都の難民たちが肩を組んで笑い合いながら、翌日の作業手順について熱心に語り合っている。

「だが、あなたは違った」

ローランはヴァンへと向き直り、深い敬意を込めて言った。

「あなたは圧倒的な力を持っていながら、決して上に立って支配しようとはしない。共に泥に塗れ、共に汗を流し、そして誰よりも仲間を信頼して背中を預けている。……その姿が、どれほど私の心を救ってくれたか」

指導者として孤独な重圧に耐え続けてきた青年は、ヴァンという同じ目線で並び立てる「戦士」と出会ったことで、初めてその重い鎧を脱ぐことができたのだ。

「俺は、俺が護りたいものを護るために戦っているだけだ」

ヴァンはシチューを飲み干し、静かに答えた。

「一人でできることには限界がある。俺の剣は道を拓くことはできても、船を造ることも、飯を美味くすることもできない。だから頼る。それだけのことだ」

「ふっ……相変わらず、飾らない男だ」

ローランは小さく笑い、そして真剣な表情に戻って立ち上がった。

「ヴァン。絶海を越える航海は、過酷なものになる。だが、この船に乗り込む者たちの心は、すでに一つに結ばれている。あなたの思い描く新しい国は、この方舟の中で、すでに始まっているんだ」

その言葉通り、数日後の朝。

隠れ里の広場には、完成した巨大な方舟が、朝日を浴びて神々しい威容を誇っていた。

金剛樹の竜骨を芯に据え、鋼殻の要塞を包み込むように建造された全長百メートルを超える巨大な船体。その両舷には、絶海の大波を切り裂くための鋭い装甲が施され、マストにはエルフたちが編み上げた、風の魔力を捉える純白の巨大な帆が畳まれている。

「完成だ……!」

徹夜明けのバルガンが、油まみれの顔で会心の笑みを浮かべ、義手でガッツポーズをした。

広場を埋め尽くした数千の民衆から、割れんばかりの歓声と拍手が巻き起こる。涙を流して抱き合う者、空に向かって雄叫びを上げる者。彼らが自らの手で創り上げた、希望の結晶だった。

ルミナが分厚い航海日誌を抱え、セリアと共にヴァンの元へ歩み寄る。

「物資の積み込みはすべて完了しました。食料も、バクスさんが完璧に管理してくれています」

「ええ。いつでも出航できるわ、ヴァン」

ヴァンは静かに頷き、タラップの前に立つローランと視線を交わした。

ローランは深く頷き返し、広場の民衆に向かって大きく両手を広げた。

「我らが同胞よ! 長きに渡る迫害と、隠れ住む日々は今日で終わりだ! 我々はこの方舟に乗り、人間の歴史が届かぬ未知の海を越え、真なる自由と平等の新天地を目指す!」

ローランのカリスマに満ちた声が、谷底に力強く響き渡る。

「過去の鎖は、今ここに断ち切られた! 誇り高き新たな歴史の始まりに、さあ、乗り込もう!」

「おおおおおおおおっ!!」

地を揺るがす歓声とともに、亜人や魔族、そして人間の難民たちが、次々と方舟のタラップを駆け上がっていく。その足取りには、かつての奴隷のような重さは微塵もない。

「行くぞ」

ヴァンが短く告げ、歩みを進める。

誰もが恐れる死の海を越え、誰も見たことのない新大陸へ。

腐敗した旧世界を完全に置き去りにする、戦士と虐げられた者たちの壮大な航海が、今まさに始まろうとしていた。

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