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追放された戦士は『同化』で覚醒する〜不要とされた俺が伝説の剣豪を身に宿し、やがて多民族国家を創り上げるまで〜  作者: 八咫 日本


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第134話 異常な水鳴と、重力砕きの鉄槌

東の荒野、南の霊峰、そして西の渓谷と砂漠。鋼殻の移動要塞は大陸を横断するように走り続け、現在は広大な内海に面した巨大な港湾都市マレ・ソルへと向かう沿岸の街道を進んでいた。

潮の香りが混じった心地よい風が、開け放たれた要塞の窓から吹き込んでくる。

「それにしても、最近はどうもおかしいぜ」

操縦席で舵輪を握りながら、バルガンがポツリとこぼした。その横顔には、普段の豪快さとは違う、得体の知れない薄気味悪さを感じているような影が落ちていた。

「何がですか、バルガンさん?」

テーブルで帳簿の整理をしていたルミナが、羽ペンを止めて顔を上げる。

「魔物の出現頻度と、その規模のデカさだよ。山喰いの大百足に、裂空の巨鎌螳螂、絶晶の鎧蜘蛛……あんな災害級の化け物どもは、本来なら数百年は地中深くや秘境で眠り続けているはずの連中だ。それが、まるで何かに急かされるように、同時多発的に人里の近くへ這い出してきている。長年罠師として山の生態系を見てきた俺の勘が、世界全体で何かとんでもない異変が起き始めていると告げてやがる」

バルガンの言葉に、厨房で仕込みをしていたバクスも同意するように太い腕を組んだ。

「確かにそうだな。料理の素材になる魔物たちも、ここ最近は妙に狂暴化している気がする。まるで、もっと恐ろしい何かから逃げ出そうとパニックを起こしているような……」

「……原因が何であれ、俺たちのやるべきことは変わらない」

自室でヴァンの剣の手入れを終え、居住区画に姿を見せたヴァンが静かに言った。

「迫り来る理不尽な暴力があれば、それを断ち斬り、仲間と居場所を護る。それだけだ」

その淡々とした、しかし決して揺らぐことのない戦士の言葉に、不安を感じていた仲間たちの顔にスッと安堵の笑みが戻る。

セリアもまた、ヴァンの頼もしい背中を見つめながら誇らしげに小さく頷いた。

要塞が港湾都市マレ・ソルの入り口に差し掛かったその時だった。

ゴゴゴゴゴゴゴォォォォォンッ!!

突如として、大地を激しく揺るがすような轟音が内海の方向から響き渡った。

「なんだ!? 港の方からだぞ!」

要塞が港湾区画に突入すると、そこには阿鼻叫喚の地獄絵図が広がっていた。

静かだった内海の海面が大きく盛り上がり、巨大な渦潮が発生している。そして、その渦の中心から、全長百五十メートルを超える鋼鉄のような青黒い甲殻に覆われた化け物が姿を現した。

海溝の覇殻蟹。深海のさらに奥深く、決して光の届かない海溝の底で生態系の頂点に君臨するはずの超巨大魔物である。

「なぜ深海の化け物が、こんな浅瀬の港に!」

人間の正規兵や、港を警備していた召喚師たちが悲鳴を上げる。

覇殻蟹がその巨大な二つのハサミを振り下ろすと、停泊していた大型の帆船が、まるで小枝のようにへし折られ、粉々に砕け散った。

「迎撃だ! 海を凍らせろ! 雷の精霊よ、化け物を痺れさせろ!」

召喚師たちが必死に魔力を練り上げ、氷の槍や雷撃の魔法を雨あられと放つ。しかし、深海の極限の水圧に耐えうる覇殻蟹の鋼鉄の甲殻は、魔法のエネルギーを完全に弾き返し、全く傷をつけることができない。

「ギチィィィィィッ!」

覇殻蟹が苛立ちと共に巨大なハサミを振り回すと、それに巻き込まれた大量の海水が、数十メートルの巨大な津波となって港の市街地へと襲いかかろうとした。

「大将! あれが街に入ったら、人が束で溺れ死ぬぞ!」

バルガンが要塞のハッチを蹴り開け、金属鞄から無数の杭を連射した。

「嬢ちゃん、避難誘導だ! バクス、あれの目を潰せ!」

「はい! 皆さん、海から離れてこちらの高台へ!」

ルミナが的確な指示を出し、逃げ遅れた港の作業員たちを素早く誘導する。バルガンが射出した杭が地面に突き刺さり、星脈の核の魔力を用いた強固な防波結界を展開して、迫り来る津波をギリギリのところで受け止めた。

「海の化け物には、俺の特製・深海烏賊の墨爆弾だ!」

バクスが腕を振りかぶって投げた真っ黒な樽が、覇殻蟹の複眼の近くで爆発した。強烈な粘着性と悪臭を放つ漆黒のインクが顔面にへばりつき、覇殻蟹が視界を奪われて暴れ狂う。

「セリア、行くぞ」

「ええ! 今回は、あの分厚い甲殻を上から押し潰すための新しい魂を喚ぶわ!」

要塞の屋上から、セリアがヴァンの背中に向けて両手を突き出し、極限の詠唱を紡ぐ。

「大地を砕く剛腕の巨人。そして、万物の質量を支配し、圧殺する冥界の王。今、この器にて交わりたまえ。多重同化……剛腕の巨人、重力支配の冥王!」

詠唱が完了した瞬間、ヴァンの肉体を赤黒い巨人のオーラと、空間そのものを歪ませるような漆黒の重力オーラが同時に包み込んだ。

シャキィィィィンッ!

ヴァンが鞘から引き抜いたヴァンの剣が、二つの魂の特性に共鳴し、眩い光を放って流動する。

刀身が極限まで分厚く、そして巨大な四角い塊へと変異していく。現れたのは、あらゆる装甲を質量と重力の暴力で叩き潰すための絶対的粉砕兵器、白銀の重力鉄槌であった。

「オオオオオオオオッ!!」

ヴァンが港の石畳を蹴る。

重力支配の冥王の力により、ヴァン自身の体重と巨大な鉄槌の質量が一時的に羽のように軽く操作されている。そのため、巨人の膂力を乗せた跳躍は、数十メートルの高空へとヴァンを容易く弾き飛ばした。

「ギギャアアアッ!」

上空に現れたちっぽけな人間の気配を察知した覇殻蟹が、視界を塞がれながらも巨大な右のハサミを空へ向けて突き上げた。

しかし、ヴァンは空中で重力を操作し、自身の落下速度を隕石のように急加速させた。

「潰れろ」

激突の瞬間、ヴァンは重力支配の魔力を白銀の重力鉄槌の先端に極限まで集中させ、その質量を元の数千倍へと爆発的に引き上げた。

巨人の全力の振り下ろしと、数千倍の質量を持った重力鉄槌が、突き上げられた覇殻蟹の巨大なハサミと正面から激突する。

ズガァァァァァァァァァァァァンッ!!!

凄まじい衝撃音が港湾都市全体を揺るがした。

魔法すら弾く深海の甲殻が、圧倒的な物理の質量と重力の前に飴細工のようにへしゃげ、右のハサミが根本から粉々に砕け散った。

「ギギャアアアアアアアアアアアッ!?」

絶望的な痛みに狂乱した覇殻蟹が、残った左のハサミと無数の足を使って暴れ回る。

しかしヴァンは砕け散ったハサミの残骸を蹴って再び跳躍し、今度は覇殻蟹の広大な背中の甲殻の上へと降り立った。

「シィッ!」

ヴァンは白銀の重力鉄槌を高く掲げた。

周囲の空間がぐにゃりと歪むほどの漆黒の重力場が、鉄槌の先端に集束していく。

「これで終わりだ」

ヴァンが鉄槌を覇殻蟹の背中の中央へと全力で振り下ろした。

ドゴォォォォォォォォォォォォォンッ!!!

重力と巨人の力が融合した神業の一撃が、覇殻蟹の鋼鉄の甲殻を紙のようにぶち抜き、その体内へと致命的な衝撃波を叩き込んだ。

一撃の余波はそれだけにとどまらなかった。

鉄槌から放たれた極大の重力波が海面へと伝わり、覇殻蟹の周囲数百メートルの海水が一瞬にして球状に押し潰され、内海の一部に水のないクレーターというあり得ない地形を一時的に作り出してしまったのだ。

ドスン、という重い音と共に、甲殻を完全に粉砕された覇殻蟹の巨体が海の底の砂地へと沈み込み、完全に事切れた。

やがて重力波が消散すると、周囲の海水が凄まじい勢いで流れ込み、再び海面が元の高さを取り戻していく。

巨大な波しぶきが収まった後、港の防波堤の上に、元の長剣の姿に戻したヴァンの剣を静かに鞘に収めるヴァンの姿があった。

「あ、ありえない……。深海の災害級魔物を、剣を変形させた巨大な鉄槌で、海ごと押し潰しちまった……」

バルガンの結界に護られていた人間の召喚師たちが、震える足で立ち上がり、防波堤の上に立つ戦士の背中を呆然と見つめた。

魔法が一切通じない絶対の装甲を、見下していたはずの戦士が、常識外れの物理的質量で完全に粉砕してしまったのだ。

「皆さん、もう安全ですよ! 怪我をした方はこちらへ!」

ルミナが優しく声をかけ、バクスが温かいスープと傷薬を持って走り回る。

我に返った港の作業員や商人たち、そして高位の召喚師たちまでもが、次々とヴァンの元へと駆け寄り、その場に深く膝をついて感謝の言葉を口にした。

「我々の港を、命を救っていただき、本当にありがとうございます……! あなた方は、噂に聞く凄まじい力を持った戦士と異種族の方々ですね」

召喚師の隊長が、畏敬の念を込めてヴァンを見上げる。

人間の社会で不要とされた戦士と、迫害されてきた異種族たち。しかし彼らは今や、各地で絶望的な災害を次々と打ち砕く、生きた伝説として人々の心に深く刻み込まれていた。

「ヴァン、お疲れ様。新しい重力の魂も、完璧に使いこなしていたわね」

セリアが駆け寄り、誇らしげに微笑みながらヴァンの腕にそっと触れる。

「ああ。どんな姿に変わっても、俺の意思と完全に同調してくれる。最高の剣だ」

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