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追放された戦士は『同化』で覚醒する〜不要とされた俺が伝説の剣豪を身に宿し、やがて多民族国家を創り上げるまで〜  作者: 八咫 日本


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第116話 限界の刃と、白銀の暴威

伝説の刀鍛冶が「失敗作」と呼んだ大太刀が、限界の悲鳴を上げていた。

キィィィィィィンッ、という耳障りな金属音が火口に響き続ける。

ヴァンの放った「大地を砕く剛腕の巨人」と「竜殺しの英雄」の多重同化による絶望的な一撃は、魔法も物理も通さないはずのミスリルドラゴンの首元の鱗を確かに砕き、その下の血肉へと到達していた。白銀の巨体から、光を帯びた青白い血が結晶化した岩肌へとポタポタと滴り落ちる。

しかし、代償はあまりにも大きかった。

ヴァンの手元にある大太刀の刀身には、刃こぼれという次元を超えた、致命的な亀裂が稲妻のように走っていた。純度の高い魔鋼石を極限まで圧縮した絶対的な強度がなければ、激突した瞬間に粉々の塵となって吹き飛んでいたはずだ。ガルドの腕は間違いなく世界最高峰であったが、それでもなお、ヴァンのデタラメな出力とミスリルドラゴンの絶対防御の挟み撃ちには耐えきれず、自壊の時を迎えようとしていたのだ。

「ゴ、ルルルルルルルゥゥゥゥゥゥッ!!」

首元に走った未曾有の激痛に、ミスリルドラゴンが怒り狂った。

それは単なる獣の怒りではない。霊峰の頂を何百年も支配してきた絶対者としての、己を傷つけた羽虫たちに対する明確な殺意の爆発であった。

バツンッ! バツンッ!!

竜が巨大な四肢に力を込めた瞬間、バルガンが地中に打ち込んでいた鋼鉄の杭が次々と根元からへし折れ、竜の巨体を縛り付けていたワイヤーケーブルが飴細工のように千切れて宙を舞った。

「ちぃっ! 三秒どころか二秒も保たなかったか! 大将、下がりな! 奴の怒りが爆発するぞ!」

バルガンの叫びと同時だった。

ミスリルドラゴンが巨大な翼を大きく広げ、そのまま力任せに羽ばたいたのだ。

風圧という生易しいものではない。ミスリルの質量を持った翼が生み出したのは、岩盤すらも捲り上げるほどの局地的な大竜巻であった。

「くっ……!」

ヴァンは咄嗟にひび割れた大太刀を大地に突き立て、自らの体を固定した。

しかし、後方で支援に回っていた非戦闘員の仲間たちには、この暴風を耐え凌ぐ物理的な力はない。

「ルミナ、危ねえ!」

バクスが巨体を投げ出し、強風に吹き飛ばされそうになったルミナの小さな体をガッチリと抱き留める。

「バルガンのおっさん、防壁だ! このままじゃ全員谷底に落とされるぞ!」

「言われなくてもやってるぜ!」

バルガンは隻腕を凄まじい速度で動かし、背負っていた巨大な金属の鞄から、折りたたみ式の分厚い鋼鉄板を展開した。それらを瞬時に連結させ、地面の岩肌に杭を打ち込んで強固なバリケードを構築する。移動要塞の装甲材を転用した、バルガン特製の即席防壁だ。

「ルミナ! 何か使えるもんはねえか! ただの風じゃない、魔力が混じってやがる!」

バリケードの裏で踏ん張るバルガンが叫ぶ。

「あ、あります! 先月の交易で手に入れた、古代エルフの『風除けの護符』です! 効果範囲は狭いですが、魔力的な暴風ならある程度は相殺できます!」

ルミナが震える手で懐から青く光る護符を取り出し、バリケードの中央にセットした。護符から展開された緑色の結界が、鋼鉄の防壁を覆い、竜巻の威力をギリギリのところで殺していく。

バクス、バルガン、ルミナ。彼らはそれぞれが戦闘能力を持たないながらも、己の持てる知識と技術、そして旅の中で培ってきた連携を駆使し、伝説級の怪物が引き起こす災害を前に一歩も退かずに防衛線を維持していた。

一方、前線でただ一人竜の猛攻に晒されているヴァンは、過酷な限界状態の中にいた。

多重同化による規格外の魔力と圧力は、痛覚のないヴァンの肉体を容赦なく破壊し続けている。隆起した筋肉は至る所で断裂し、皮膚からは絶え間なく血が滲み出していた。彼が立っていられるのは、ただ強靭な精神力と、絶対に仲間を護り抜くという狂気じみた執念があるからに他ならない。

「……ヴァン」

バリケードの背後から、セリアが祈るように両手を組み、ヴァンの分厚い背中を真っ直ぐに見つめていた。

彼女の額には滝のような汗が浮かび、唇は噛み締めすぎて血が滲んでいる。二つの相反する強大な魂を一つの器に留め、なおかつそれが暴走しないように制御し続けることは、術者である彼女の精神をヤスリで削り落とすような苦行であった。

それでも彼女は、絶対に視線を外さない。彼女の完璧な魔力制御が少しでも揺らげば、ヴァンはその瞬間に肉体が破裂して死に至るのだ。

「グルァァァァァァッ!!」

竜巻がおさまった直後、ミスリルドラゴンは上空へと大きく飛び上がった。

そして、傷ついた首から夥しい魔力を周囲に放出しながら、全身のミスリルの鱗を共鳴させ始めた。空中の水分が瞬時に凍りつき、巨大な氷とミスリルの破片が混ざり合った、数千本にも及ぶ無数の「刃の雨」が霊峰の空を覆い尽くす。

「大将! あれは不味い! 防壁ごと俺たちも串刺しにされるぞ!」

バルガンの絶望的な叫びが響く。

ヴァンは空を見上げ、深く息を吐き出した。

手元の失敗作の刀は、次に先ほどのような全力の一撃を放てば、間違いなく完全に砕け散る。

そして、上空から降り注ごうとしている無数の刃の雨を前に、今宿している「剛腕の巨人」の力では、仲間たちを広範囲の攻撃から護りきることはできない。

(……一撃だ。次の一撃で、あの巨大な硬い鱗を貫通し、すべてを終わらせるしかない)

ヴァンは背後のバリケードへ向けて、静かに、しかし絶対的な信頼を込めた声で叫んだ。

「セリア! 巨人の力を解除しろ! 代わりに、あの硬い鱗の分子構造そのものを脆くするための『極限の冷気』が必要だ!」

ヴァンの意図を、セリアは瞬時に理解した。

熱と力だけで砕けないのであれば、対象を絶対零度で凍結させ、極端な温度変化と硬度変化を引き起こして脆くする。

「……了解したわ! でもヴァン、急激な魔力の入れ替えは、あなたの肉体にも、その刀にも未知数の反動をもたらす! 耐えきれる保証はないわ!」

「俺の肉体も、ガルドの打った刀も、そんなにヤワじゃない。やれ!」

ヴァンの迷いのない言葉に、セリアの紫色の瞳に強い決意の光が宿った。

「行くわよ……! 大地を砕く剛腕よ、地に還れ! そして新たなる力、あらゆる分子の運動を停止させ、世界を白銀に染め上げる氷の王よ!」

セリアの詠唱と共に、ヴァンの肉体を覆っていた赤黒い巨人のオーラが急速に霧散していく。

代わりに、霊峰の冷気を一気に吸い上げるように、透き通った絶対零度の青白い魔法陣がヴァンの足元に展開された。

「その凍てつく吐息と絶対の静寂を、今この器に宿したまえ。多重同化……『絶対零度の氷晶竜』!!」

竜殺しの英雄の黄金のオーラと、氷晶竜の青白いオーラが、ヴァンの肉体で激しく衝突し、そして融合する。

ピキィィィンッ!!

ヴァンの握る失敗作の刀が、今度は極限の冷気を帯びて真っ白に凍りつき始めた。先ほどまで赤熱していた魔鋼石が急激に冷却されたことで、刀身に走っていた亀裂がさらに深く、大きく広がっていく。

まさに限界ギリギリ。今にも刃が粉々に砕け散りそうな絶望的な状態。

しかし、ヴァンの瞳には一切の揺らぎはなかった。

「オオオオオオオオッ!!」

天空から、ミスリルドラゴンの放った数千本の刃の雨が、ヴァンと仲間たちを目掛けて一斉に降り注いできた。

絶体絶命の危機。

ヴァンは凍りつき、亀裂だらけとなった大太刀を両手で構え、己の命の炎を燃やし尽くすように、伝説の竜が待つ天空へと向かって大きく跳躍した。

最強の相棒を手に入れるための、最後にして最大の激突が、今まさに始まろうとしていた。

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