↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追放された戦士は『同化』で覚醒する〜不要とされた俺が伝説の剣豪を身に宿し、やがて多民族国家を創り上げるまで〜  作者: 八咫 日本


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
113/201

第113話 霊峰の死角と、白銀の跳躍

幻の刀鍛冶ガルドの工房を後にしたヴァンたち一行は、伝説のミスリルドラゴンが棲むという霊峰の頂を目指し、道なき険しい山道を登り続けていた。

標高が上がるにつれて気温は急激に下がり、吐く息は白く染まっていく。周囲は鋭く切り立った岩肌と、分厚い万年雪に覆われた過酷な環境へと変貌していた。空気が薄く、一歩足を踏み出すだけでも通常の数倍の体力を奪われる死の山である。

「ひええ……寒いです、足が凍りそうっす……。でも、このルートが頂上への最短距離なのは間違いありません! 私の完璧な地図データによれば、あと半日の登りで竜の巣がある火口付近に到着するはずです!」

分厚い防寒具に身を包んだルミナが、ガチガチと歯を鳴らしながらも、手元のコンパスと羊皮紙の地図を頼りに的確なナビゲートを続けている。

「無理はするなよ嬢ちゃん。ほら、足元が凍って滑りやすくなってる。俺が岩に杭を打ち込んで命綱を張ってやるから、そこを慎重に歩け」

バルガンが隻腕を器用に使いこなし、特製の金属杭を岩肌に打ち込んでは、一行が安全に進めるための足場を次々と確保していく。罠師にして伝説の建築家である彼にとって、地形を読み取り、安全なルートを構築することは造作もないことだった。

「ルミナ、寒さが限界にくる前にこれを飲んどけ! 炎棲鳥の肝と唐辛子を煮込んだ、俺の特製発汗スープだ。これを腹に入れれば、半日は身体の内側からストーブを焚いてるみたいにポカポカになるぜ!」

バクスが背負っていた保温用の水筒から、湯気を立てる赤いスープを木杯に注ぎ、ルミナやセリアに手渡していく。

スープを一口飲んだルミナの顔にパッと血色が戻り、「はふうぅ……生き返りますぅ……!」と幸せそうな声を上げた。

非戦闘員である仲間たちが、それぞれの持つ卓越した技術と知識を駆使して、過酷な自然環境という敵に立ち向かっている。彼らの完璧なサポートがあるからこそ、ヴァンは余計な体力を消耗することなく、ただ目前の戦闘にのみ意識を集中させることができていた。

ヴァンは、背中に縛り付けたガルドの『失敗作の刀』の圧倒的な重量を全身で感じながら、雪を踏み締めていた。

常人であれば持ち上げることすら不可能なほどに圧縮された魔鋼石の塊。しかし、そのズッシリとした暴力的なまでの重みは、相棒を失って空虚だったヴァンの背中に、戦士としての確かな実感を呼び覚ましていた。

「……ヴァン、前方の岩陰から複数の魔力反応。かなり速いわ。こちらを完全に獲物として認識している」

後方で探知の術を展開していたセリアが、鋭い声で警告を発した。

直後、吹雪の向こう側から、鼓膜を劈くような甲高い鳴き声と共に、三つの巨大な影が飛び出してきた。

全身を鋭利な氷の刃で覆われた、体長五メートルを超える怪鳥、氷刃の怪鳥ブリザード・ロックの群れだった。霊峰の中腹を縄張りとするこの魔物は、極寒の環境を利用して獲物を凍らせ、その鋭い嘴と刃の翼で八つ裂きにする凶悪な捕食者である。

「上空からの強襲……この狭い足場では回避が難しいわ。ヴァン、一気に距離を詰めて叩き落とすわよ!」

「ああ、頼む」

ヴァンが腰を深く落とし、背中の失敗作の刀の柄に手をかけた瞬間、セリアが両手を胸の前で組み、美しくも荘厳な詠唱を響かせた。

「凍てつく風を置き去りにし、万物を穿つ銀の牙。その神速の領域と究極の感覚を、今この器に宿したまえ。同化召喚、白銀の神狼!」

吹雪が吹き荒れる空中に、月光のように冷たく透き通った白銀の魔法陣が三次元的に展開される。そこから、雪よりも白く、星の輝きを宿したような瞳を持つ巨大な神狼の幻影が顕現した。

神狼は天に向かって雄叫びを上げると、吹雪を切り裂くような光の軌跡を描きながら、ヴァンの肉体へと完全に溶け込んでいった。

ドクン、という心臓の爆発的な鼓動と共に、ヴァンの全身の筋肉が超高密度に引き締まり、視界が劇的に変化する。

舞い散る雪の結晶の一つ一つが、まるで空中で静止しているかのようにゆっくりと認識できる。白銀の神狼がもたらす神速の反射神経と、あらゆる魔力の流れを感知する究極の索敵能力が、ヴァンの感覚を人外の領域へと引き上げたのだ。

「グルルァァァッ!」

氷刃の怪鳥たちが、鋭い氷の羽を散弾のように撃ち出しながら、ヴァンたちに向かって急降下してくる。

「……遅いな」

ヴァンは無表情のまま、足元の雪をわずかに踏み込んだ。

パンッ、と乾いた破裂音が響いたかと思うと、ヴァンの姿がその場から完全に消失した。白銀の神狼の力によって得た超音速の機動力が、重力をも無視して垂直に近い岩壁を駆け上がらせたのだ。

「シッ!」

空中へと高く跳躍したヴァンは、迎え撃とうとする怪鳥の頭上で、背中の失敗作の刀を鞘から抜き放った。

ズンッ、と周囲の空気がその異常な質量によって軋み、歪む。

純度の高い魔鋼石を極限まで打ち鍛えすぎたというガルドの言葉通り、この大太刀は持ち主の魔力と波長が合わなければ、強烈な反発を生み出すじゃじゃ馬だった。

実際に、白銀の神狼の魔力を纏ったヴァンが柄を握った瞬間、刀身から強烈な拒絶反応のような重圧が腕を襲った。

(俺の力に反発しているのか……。だが、俺はお前をねじ伏せる!)

ヴァンは痛覚を持たない強靭な肉体を限界まで駆動させ、力任せにその巨大な鉄の塊を上段から振り下ろした。

ただの物理的な斬撃。魔法による炎も、光の刃もない。

だが、神速の運動エネルギーと、失敗作の刀の非常識な質量が融合したその一撃は、まさに絶対的な破壊の権化であった。

ゴシャアアアアアッ!!

轟音と共に、先頭の怪鳥の分厚い氷の装甲が、まるで薄いガラスのように粉々に砕け散った。

それだけではない。振り下ろされた大太刀の物理的な衝撃波が空気を爆発させ、後ろに続いていた二羽の怪鳥をも巻き込み、まとめて岩壁に叩きつけたのだ。

断末魔の悲鳴を上げる間もなく、三羽の凶悪な魔物は完全に絶命し、雪煙を上げて谷底へと落下していった。

空中で見事に身を翻し、音もなく雪面に着地したヴァンは、手に持った赤黒い波紋の大太刀を見つめた。

あれほどの凄まじい衝撃を叩きつけ、巨大な氷の装甲を粉砕したにも関わらず、刀身には傷一つ、刃こぼれ一つ見当たらない。それどころか、先ほどまでヴァンに反発していた重圧が嘘のように静まり返り、まるで主の圧倒的な力に屈服したかのように、静かな冷気を漂わせていた。

「すごい……! 氷刃の怪鳥を、一振りの衝撃波だけでまとめて粉砕するなんて……!」

ルミナが目を丸くして歓声を上げる。

「へっ、さすがはガルドの親父が打った刀だ。失敗作だなんて謙遜してやがったが、とんでもねえ強度と破壊力じゃねえか。これなら、お前さんの多重同化の圧力にも、少しは耐えきれるかもしれねえな」

バルガンが感心したように髭を撫でる。

ヴァンは静かに刀を背中の鞘に収めた。

「ああ。重さにはまだ慣れが必要だが、頼もしい刃だ。……これなら、伝説の竜の硬い鱗にも届くかもしれない」

「油断は禁物よ、ヴァン」

同化を解除したセリアが、険しい表情で山頂の方角を指差した。

「……ここから先は、これまでの魔物たちとは全く次元が違う。この山の生態系の頂点であり、絶対に足を踏み入れてはいけない領域の気配が、濃密に漂い始めているわ」

セリアの言葉通り、上空の雪雲の奥から、ビリビリと肌を刺すような重圧がゆっくりと降り注いできていた。

生物としての格の違いを本能に刻みつけてくるような、圧倒的なまでの死の気配。

伝説の刀鍛冶が最高の武器を打つために求めた極上の素材。

魔法も物理も受け付けない絶望的な硬度を誇るという伝説級の怪物、ミスリルドラゴンが棲む領域は、もう目と鼻の先に迫っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。