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いないはずの

扉が開いたかと思えば軽快なリズムの音楽と盛大な拍手が流れ込む。今話題のJ-popの応援ソングで、僕も何度か街中で聞いたことのある曲だった。


 入場曲、僕の予想ではエドワード・エルガーの『威風堂々』とか、クラシック系の行進曲が流れると思っていたが、どうやらその見解は間違っていたらしい。


 体育館には予想通り、手前には保護者、奥にニ年年生と三年生が座っている。こちらを好奇心に満ちた目で観察しているのが伺えた。僕は前の人について行く、保護者達の近くを通る際それは嫌でも僕の視界に入る。スマートフォンを自分の我が子に向けて、どうにかして写真に収めたいと必死になる同伴者の姿。その我が子が同伴者に気づいて笑みが溢れる瞬間――


 とうにそれは、心底どうでもいいと感じるようになっていた感情のはずだった。…しかし、僕は何を思ったのか無意識に母親を探していた。


 母親は、僕が小学生の頃までは入学式も卒業式も、その他の行事にも来てくれていたのに中学の入学式からバタリと、幕を閉じるように顔を出さなくなっていた。


 ……結局、母親は見つからなかった。まあ、期待した僕が馬鹿だったが……なんて自分で勝手に期待をして裏切られた喪失感を覚えながら、担任の合図で皆が一斉にキシッと椅子に座る。


 それから、入学式の式辞が読み進められる。校長先生から僕たち新入生に向ける歓迎の言葉、そして来賓の話などが寝かしつけるような口調で続いていく。あまり内容は覚えてないが、この入学式という式典が終盤に差し掛かっていることだけは分かる。


 僕の目線は、壇上から体育館の天井に目を移しては戻すという、子供じみた行動を繰り返していた。しばらくそうしているとついに閉会の言葉に差し掛かった、ようやく終わる。心の中で深い溜息を吐く。


「以上を持ちまして――」


 司会者が終わりの言葉を言い告げると、一年生がクラス順に体育館を退場する形で、僕らは教室へと戻った。


 その後は教科書や生徒手帳の配布、校内についての注意事項など諸々の説明を受け、三限目は終了。更にその後のホームルームで、教卓に右手をついていた鹿狗が思い出したかのように言い放つ。


「あ、そういえばみなさん。部活動はどこに入りたいとか決めてますか?」

クラスが騒つく、学生生活の醍醐味といえば部活動だ。


「明日、部活動見学があります。授業に含まれるので一年生は強制です。先ほど渡した学校のパンフレットを確認して、見に行きたい部活を決めておいてくださいね」


 強制…嫌悪感を抱く言葉、逃げ場がない。運悪く僕は小学生、中学生といい帰宅部だった。趣味なんてものがなかった、というか人と協力して何かを成し遂げることが極めて苦手だった。世間ではこれをコミュ障とでもいうのだろう。


「はい、今日は以上です。初日で皆さんお疲れだと思いますが、明日から六限まであります。しっかり体を休めて学校生活慣れていってくださいね」


 温厚な口調で語られた『六限まである』という言葉に現実を突きつけられたが、そのセリフと共に初日の学校は締めくくりを終えた。


 初めて来た時とは違い、軽快な歩調で下駄箱へ向かう。まるで何かの憑き物が取れたような感覚。玄関をでて、靴に履き替え校門に視線を送ると人だかりができている。なんとなく察しはつくが、否が応でもあそこを通らなければいけない。


 一歩踏み出したその時だった。


「透!」


 思わず振り返った。母親だ、母親がいたのだ。この場所にいるはずのないあの母さんが…。


「探したのよ、透」

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