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最強ノ忍、異世界無双  作者: ゆう


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第4話 静かに生きたい少年

「※本作はnoteで連載中の『転生忍者、世界最強へ』の無料公開版(1〜5話)となります。最新話や先行公開はnoteのメンバーシップにてお届けしています」

第4話

静かに生きたい少年

黒い炎が、夜の森を照らしていた。


レナス村を包む結界の外側に、魔族たちが並んでいる。

数は、およそ三十。


魔物ではない。


意志を持ち、武器を持ち、魔力を練り上げている。

昨日の暴走魔物とは質が違う。


村人たちは教会の中で震えていた。


母は俺の肩に手を置いている。

父は弓を握りしめている。


俺の前には、天魔滅殺隊。


レオン。

ミラ。

ノア。

ガルド。


人類最強戦力と呼ばれる者たち。


その向こう、黒い炎の中心に、ゼルグが立っていた。


「ずいぶん賑やかになったね」


ゼルグは笑った。


「まさか天魔滅殺隊まで来ているとは」


レオンが剣を構える。


「魔族偵察部隊第三席、ゼルグ。確認されているだけで、人間領内の村を七つ襲撃しているな」


「正確には六つだ」


ゼルグは肩をすくめた。


「一つは私が着いた時にはもう滅んでいた」


ミラの槍に赤い魔力が宿る。


「どちらでもいい。ここで殺す」


「怖いね、人類の英雄は」


ゼルグは俺を見た。


「でも今夜の目的は君たちじゃない」


その視線が、まっすぐ俺に向く。


「シオン。迎えに来た」


教会の中がざわめいた。


村人たちは初めて知ったのだ。


魔族がこの村を襲った理由が、俺だということを。


父の手が俺の前に伸びた。


無意識に庇おうとしている。


俺はその手を見た。


守られることに、まだ慣れない。


「俺は行かない」


「だろうね」


ゼルグは笑った。


「だから選択肢を用意した」


彼が指を鳴らす。


魔族の一人が、何かを前に引きずり出した。


村人の男だった。


昨日、柵の修理をしていた若い農夫。

名はトマス。


腕を縛られ、首に黒い鎖を巻かれている。


村人たちが悲鳴を上げた。


「トマス!」


「いつの間に!」


ゼルグは軽く手を上げた。


「結界が張られる前に、森で拾った」


レオンの目が険しくなる。


「人質か」


「言葉が悪いな。交渉材料だ」


ゼルグは俺を見た。


「シオン。君がこちらへ来れば、この男は返す。拒めば殺す」


トマスの顔は恐怖で歪んでいた。


「た、助けてくれ……」


俺はゼルグを見た。


心が冷える。


こう来ることは分かっていた。


前世でも何度もあった。


標的を動かすには、標的の大切なものを使う。

命。

家族。

仲間。

誇り。

罪悪感。


人は弱い場所を突かれると、簡単に判断を誤る。


俺も例外ではない。


「卑怯者」


ミラが吐き捨てた。


ゼルグは笑う。


「戦争に卑怯も何もない。君たち人間も同じことをしてきた」


「黙れ」


「黙らないよ。これは大事な話だ」


ゼルグの声が低くなる。


「魔族は悪か? 人間は善か? 天使は正義か? 違う。どの種族も、自分が生き残るために他者を踏む」


彼は俺から目を離さない。


「君ほどの力があれば、いずれ選ばされる。誰を守り、誰を捨てるか」


黒い鎖がトマスの首を締める。


トマスが苦しげに呻いた。


「さあ、最初の選択だ」


レオンが小さく言った。


「挑発に乗るな」


「分かっている」


「我々が救出する」


「間に合わない」


俺は見えていた。


鎖に込められた魔力。

ゼルグの指先の動き。

人質との距離。

魔族の配置。


レオンたちが動けば、トマスは死ぬ。


俺なら救える。


だが、力を見せることになる。


もう手遅れか。


俺は一歩前に出た。


母が俺の肩を掴む。


「シオン」


声が震えていた。


「行かないで」


俺は振り返った。


母の目には涙があった。


その目を見た瞬間、胸の奥が痛んだ。


行けば、母を悲しませる。


行かなければ、トマスが死ぬ。


どちらを選んでも、誰かが傷つく。


ゼルグの言う通りだった。


力がある者は、選ばされる。


なら。


「選ばない」


俺は呟いた。


母の手をそっと外す。


「誰も死なせない」


ゼルグが眉を上げる。


「それが一番難しい」


「知っている」


俺は結界へ歩いた。


レオンが横に並ぶ。


「無茶をするな」


「無茶じゃない」


「作戦は」


「俺が人質を救う。あなたたちは魔族を止める」


ミラが苦笑した。


「五歳の子供に指示されるとはね」


「嫌なら下がっていろ」


「言うじゃない」


ガルドが拳を鳴らす。


「隊長、どうする?」


レオンは一瞬だけ考えた。


そして剣を構え直す。


「シオンに合わせる」


ミラが目を見開いた。


「本気ですか」


「本気だ」


レオンは俺を見た。


「君を信じる。ただし、一人で背負うな」


その言葉は、父と母の言葉に似ていた。


一人で抱えるな。


前世では、誰もそんなことを言わなかった。


「分かった」


俺は短く答えた。


結界が開く。


その瞬間、ゼルグが笑った。


「来ると思ったよ」


黒い鎖がトマスの首を締め上げる。


同時に、魔族たちが一斉に魔法を放った。


炎。

雷。

闇。

毒霧。


夜空が魔力で埋まる。


レオンが前に出た。


「ノア!」


「はい!」


ノアの魔導書が開く。


光の壁が展開され、魔法の雨を受け止める。


ミラが結界の外へ飛び出す。


赤い魔力をまとった槍が、魔族の一人を吹き飛ばした。


ガルドは正面から突っ込む。


「おらぁ!」


巨大な籠手が地面を砕き、衝撃波で魔族の隊列を崩す。


強い。


天魔滅殺隊という名は伊達ではない。


だが、ゼルグは動じていない。


目的は俺だ。


俺は地面を蹴った。


視界が遅くなる。


心覇。


敵の動きを読む。


魔族の視線。

呼吸。

魔力の流れ。

足の角度。


次に何をするか、すべて見える。


一人目の魔族が短剣を投げる。


俺は首を傾けて避ける。


二人目が闇魔法を放つ。


木刀で魔力の芯を叩き、霧散させる。


三人目が背後から爪を伸ばす。


振り返らずに柄で顎を打つ。


倒す。

殺さない。


できる。


俺はまだ選べる。


ゼルグの目が細くなる。


「殺さずに抜けるか。器用だね」


「殺す必要がない」


「本当に?」


ゼルグの指が動く。


トマスの足元に黒い魔法陣が浮かぶ。


爆裂術式。


俺が近づけば、人質ごと爆発する。


「救いたいなら、破壊を使うしかない」


ゼルグの声が響く。


「術式だけを消せるだろう? 君なら」


俺は足を止めた。


狙いはそれか。


俺に破壊を使わせたい。


神域属性の覚醒を観測するために。


使えば、トマスは救える。


だが、また心が冷える。


一度ならまだいい。

二度、三度と使えば、俺はどうなる。


前世のように、何も感じない道具へ戻るのか。


トマスが苦しげに叫んだ。


「助け……」


迷う時間はない。


俺は左手を上げた。


黒い光が灯る。


破壊。


その瞬間、周囲の音が遠ざかった。


トマスの恐怖も。

村人の悲鳴も。

母の声も。


すべてが薄くなる。


ただ、対象だけが見える。


術式。

魔力の線。

爆裂の核。


消せ。


心が命じる。


そこに感情はいらない。


俺は黒い光を放った。


爆裂術式だけが、音もなく消滅した。


トマスの体は無傷。


黒い鎖も砕ける。


俺はトマスの前に立ち、彼を抱えて後方へ投げた。


ガルドが受け止める。


「任せろ!」


人質は救えた。


だが、胸の奥が冷たい。


母の顔を見ても、安心が遅れてやってくる。


怒りも、恐怖も、喜びも。


全部、薄い膜の向こうにあるようだった。


「素晴らしい」


ゼルグが拍手した。


「やはり破壊を使ったね」


俺は彼を見た。


何も感じない。


目の前の男を殺すことに、抵抗がない。


まずい。


レオンが叫んだ。


「シオン!」


その声で、意識がわずかに戻る。


俺は自分の手を見た。


黒い光がまだ残っている。


消さなければ。


今すぐ。


だがゼルグは、さらに言った。


「次は誰にしようか」


黒い炎の中から、別の魔族が村人の子供を引きずり出した。


カイルだった。


「シオン!」


カイルの叫びが、夜に響いた。


俺の視界が暗くなる。


ゼルグ。


お前は。


「君は優しい」


ゼルグは笑う。


「だから壊れる」


カイルの首に、また黒い鎖が巻かれる。


爆裂術式。

今度は三重。


普通の魔法では解除できない。


ノアが叫ぶ。


「無理です! 複合術式が早すぎる!」


ミラが駆け出そうとするが、魔族に阻まれる。


レオンも別の魔族数人に囲まれている。


俺しかいない。


破壊を使え。


心の奥で、冷たい声がした。


使えば救える。


使わなければ死ぬ。


それだけだ。


簡単な判断だ。


俺は黒い光を強めた。


その時、母の声がした。


「シオン!」


振り返る。


母が結界の内側から叫んでいた。


「戻ってきて!」


戻る?


どこへ。


戦場からか。


破壊の中からか。


それとも、人間でいられる場所へか。


母は泣いていた。


「あなたは道具じゃない!」


その言葉が、胸に刺さった。


前世の最後。


上官は言った。


強すぎる道具は処分する。


今世の母は言った。


あなたは道具じゃない。


黒い光が揺らぐ。


俺は歯を食いしばった。


破壊に呑まれるな。


力を使うのは俺だ。


力に使われるな。


俺は黒い光を細く絞った。


広く消すのではない。

術式の核だけを、針のように穿つ。


破壊を、刃にする。


一つ目の核を消す。


二つ目。


三つ目。


カイルの鎖が砕けた。


同時に、俺は空間を折り畳み、カイルを結界内へ飛ばした。


母が受け止める。


「カイル!」


村人たちが駆け寄る。


俺は膝をつきかけた。


胸が痛い。


冷たい。


だが、まだ聞こえる。


母の声が。

カイルの泣き声が。

父が俺を呼ぶ声が。


まだ、感じられる。


ゼルグの笑みが消えていた。


「制御したのか」


俺はゆっくり立ち上がった。


「お前のおかげで分かった」


「何が」


「破壊は、消す力じゃない」


木刀を構える。


「守るために、不要なものだけを断つ力だ」


レオンが魔族を斬り伏せ、俺の横に立った。


「まだ動けるか」


「問題ない」


「顔色は最悪だ」


「元からだ」


レオンが少し笑った。


「ならいい」


ミラも戻ってきた。


「子供のくせに、私より目立ちすぎ」


ガルドが肩を回す。


「こりゃ隊長、俺ら必要あるか?」


ノアが結界を補強しながら叫ぶ。


「あります! ありますからちゃんと戦ってください!」


魔族たちが後退し始める。


ゼルグは周囲を見た。


戦況は悪い。


人質は失敗。

破壊の観測は成功したが、シオンは呑まれなかった。

天魔滅殺隊も健在。


これ以上の戦闘は損失が大きい。


「撤退だ」


魔族たちが黒い霧に包まれる。


ミラが追おうとする。


「逃がすか!」


レオンが止めた。


「深追いするな。村の防衛が優先だ」


ゼルグは最後に俺を見た。


「今回は君の勝ちだ、シオン」


「もう来るな」


「無理だよ」


彼は笑った。


「君はもう、魔族だけの問題じゃない」


空に、白い光が走った。


ゼルグが顔を上げる。


その表情が初めて歪んだ。


「……天使か」


レオンも空を見た。


「まずいな」


夜空の雲が割れる。


そこから、白い翼を持つ影が一つ、村を見下ろしていた。


美しい姿。


白い髪。

金色の瞳。

光の輪。


だが、その目には温度がなかった。


天使。


本に書かれていた“正義の種族”。


その天使が、冷たい声で告げた。


「神域属性の反応を確認」


光の槍が空に生まれる。


「危険因子を、浄化する」


レオンが剣を構える。


「全員、伏せろ!」


光の槍が、村へ落ちた。


俺は空を見上げる。


魔族は俺を利用しようとした。


人間は俺を管理しようとする。


そして天使は。


俺を、消そうとしている。


木刀に覇気を込める。


黒い刃が、白い光を迎え撃つ。


静かに生きたい。


その願いは、今夜また遠ざかった。


第4話 完

「ここまでお読みいただきありがとうございました!

転生したシオンのその後の大活躍(幼少期覚醒編・学園編)は、noteにて先行連載・独占公開中です。

続きが気になる方は、プロフィールのリンク、または『ゆのの日常 note』で検索してみてください!」

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