ついに来たキュ
ついに、ついにこの時が来ました!
しかしそんなに甘くはなかった!!
ある朝、小屋の静寂を切り裂くように、神様の絶叫が響き渡った。
ピロリン!ピロリン!ピロリン!!
『聡美! やったぞ! ついに上層部……多元宇宙統括本部から「現世帰還申請」の最終承認が降りた!!』
「キュ!? 本当キュ!?」
聡美は、「人をダメにするクッション」の深淵からマッハの速度で飛び起きた。
『ああ! お前の膨大な「ピ」の履歴に対する始末書を120枚書き直し、上級神の肩を三日三晩揉み続けて、天界の未処理案件を不眠不休で片付けた結果……ついに、ついに承認されたんだ!』
「やったキュ! 帰れるキュ! ヨークベニマルの特売日! なおちゃんの鋭いツッコミ! ウェルシアのポイント3倍デー! 全てが私を待ってるキュ!」
『ただし――』
「……キュ?」
神様の声が、急に「日曜夜のサラリーマン」のような重苦しさを帯びた。
『一つだけ、条件がついた。天界の経理部が「ただで帰すのは前例がない。お前が使いすぎた予算の、せめて一割は補填しろ。さもなくばゲートは開かない」って……』
「……一割……」
転生神はこれまでの購入のエクセルファイルを見せた。
異世界GU、異世界キュレル、mamazonプライム、Kindle Unlimited、こしあん50kg、魔界アークテリクス、神刀、カシオレ12杯、ゴアテックス、mPAD、ヒートテック、クッション……。
概算合計:312,000G
補填額(1割):31,200G
『おまけして、30,000Gでいいって。……どうだ?』
「……さんまんキュ……」
聡美の顔から、血の気が引いた。今の彼女にそんな大金があるはずもない。
リストバンドの残高を確認する。
【残高:-95G】
「……マイナスキュ。完全に詰んでるキュ。私の帰還フラグが、95円の赤字で折れたキュ……」
『……ごめん。でも、これが天界の「合理性」なんだ。自力で稼ぐしかない』
「……帰れないキュ……ヨークベニマルの鮭弁が……遠いキュ……」
* * *
◆ 異世界GU、不採用の再来 ◆
翌朝。聡美は街の中心にある「異世界GU」の前に立っていた。
「……働いて稼ぐキュ。ウェルシアで三年バイトしてたし、レジ打ちなら神速でできるキュ……」
深呼吸をして店内へ。レジカウンターに立つエルフの店長に、勇気を振り絞って声をかけた。
「あ、あの……バイト、募集してないキュ?」
店長「ハルミ・グラッシャ?(いらっしゃいませ? 何かお探しで?)」
「あ、えっと……ワーク、ジョブ、アルバイト……。マネー、ゲット、フォー、ワーク……!」
聡美は必死にジェスチャーをした。流れるようなレジ打ちの動作、神速の品出し、そして日本の接客業特有の「45度の角度のお辞儀」。
店長「……ああ! レジの仕事がしたいのね! でも……言葉、通じないでしょ? お客さんに「裾上げの待ち時間は20分です」って説明できないと困るのよ」
「……」
店長「それに、うちのレジシステムは『魔界オフィス365』ベースの最新型。お嬢ちゃん、これ使える?」
「……使えないキュ(即答)」
店長「……ごめんなさい。ちょっと難しいわね。他を当たってちょうだい」
聡美は、肩を落として店を出た。言葉の壁、そしてITスキルの壁。異世界ニートに労働の門戸は閉ざされていた。
『……見てたぞ。頑張ったな』
「頑張ったけど、ダメだったキュ……。働けないキュ……言葉通じないキュ……。もう一生、この街のGDPに貢献し続けるだけのマシーンになるしかないキュ……」
失意の底に沈む聡美。だが、その指は無意識に、もはや体の一部と化したmPADを操作していた。
ピッ。ピッ。
『おいッ!! 働けなかった直後に、また何か使ったな!!!』
「これはルーティーンキュ! ショックを受けた心のHPを回復させるための、合理的かつ不可欠な先行投資キュ!」
画面には「こしあんまんじゅうセット」と「ロコモコ丼テイクアウト」の注文完了通知が冷酷に輝いている。
『残高がさらにマイナスに突入したぞ……!! こうなったら、お前。もうその小屋にあるものを売るしかない。これまで「ピ」で買い漁ったものをかき集めて、リサイクルショップへ行け。もしかしたら、何か値段がつくかもしれない』
「……分かったキュ。私の『思い出(散財の歴史)』を換金してくるキュ……」
聡美は、膨れ上がった胃袋と、それ以上に重いリュックを抱え、リサイクルショップ「中吉」へと向かうのであった。
* * *
◆ 買取専門店「中吉」の衝撃 ◆
聡美は小屋にあるものを全てリュックに詰め込み、街の買取専門店「中吉」へ駆け込んだ。
「いらっしゃいませー! 売るなら中吉! ちゅうきち~ ちゅうきち~!」
ドワーフの店員が、聞き覚えのあるリズムで迎えてくれた。聡美はカウンターに荷物をどさっと並べる。
「これを、全部査定してほしいキュ!」
店員はルーペを覗き込み、眉をひそめた。
「……うーん。お嬢ちゃん、これはダメだ。異世界の流行は一週間で変わる。マークテリクスもキュレルも、この世界ではもう「型落ち」だ。全部まとめて、ゼロGだな」
「……キュ……」
聡美は、絶望のあまり膝から崩れ落ちそうになった。だがその時、リュックの底に眠っていた「あるもの」に指が触れた。
「……なら、これならどうキュ! 私が現世から履いてきた、本物の日本製キュ!」
取り出したのは、GUで買った使い古しの「ストレッチ・スキニージーンズ(1,990円)」。
店員「……なんだ、この生地は!? 見た目はただの布だが……引っ張るとどこまでも伸びる!! そして離せば……まるで魔法の拘束具のように瞬時に形状を記憶して戻るだと!?」
パシンッ!!
「しかもこの肌触り!! 鎧の下にこれを履けば、股ズレという名の呪いから全騎士が解放される!! 鑑定士!! 最高位の鑑定士を呼べ!!」
現れた白髭の老人が、ジーンズに手を翳した。
【鑑定結果:未知の新素材・魔力耐性ストレッチ(伝説級)】
鑑定士「……まるで神の手による芸術品……! 縫製も緻密すぎて魔力回路のようだ!」
「いや、ただの大量生産品キュ……」
鑑定士「……査定金額、10,000Gだ!!」
「キ、キタキュ!! 日本の繊維技術の勝利キュ!!」
* * *
◆ 聖なる布、ロリエ伝説 ◆
店員「他に、何か『奇跡』はないか!?」
聡美はポーチの奥から、最後の切り札を取り出した。予備で持っていた一袋の、なんてことのない「ロリエ」である。
「……ただの、ロリエキュ……」
それを見た瞬間、店内の空気が凍りついた。奥で居眠りしていた最高鑑定士が、椅子を蹴り飛ばして飛んできた。
最高鑑定士「待てい!! その……純白の、聖なる羽が生えた「福音の布」は何だ……!?」
鑑定士が、震える手で聖水を一滴垂らす。
液体は瞬時に閉じ込められ、表面はさらさらの無垢な状態を保った。
最高鑑定士「な、なんだと……!? 自重の数十倍の水分を瞬時に結晶化させ、逆流を許さぬ鉄壁の守護!! 内部にあるこの微細な粒……これは失われた伝説の「賢者の石」の破片か!?」
「……ただの高吸水性ポリマーキュ……」
最高鑑定士「これがあれば、戦場で魔力暴走を起こした兵士の体液流出さえ防げる!! いや、魔王の呪いすら吸い取れそうだ!! これは医療革命、いや、文明の特異点だ!!」
【鑑定結果:超高効率・吸水魔導布(賢者の粒入り)】
最高鑑定士「……言い値で買おう。20,000Gだ!!!」
「キュ!!!!」
聡美は絶叫した。
「ロリエすごいキュ!!! 花王の技術は、魔王の呪いより強いキュ!!!」
* * *
◆ さらば、異世界 ◆
カウンターに並べられた、30,000Gの金貨。
聡美は、それを震える手で袋に詰め、胸に抱きしめた。
「……帰れる……キュ。……ヨークベニマルの鮭弁……なおちゃんの鋭いダメ出し……ウェルシアの、あの入店音……」
涙が、次から次へとこぼれ落ちる。
「中吉さん、ありがとうキュ。日本に帰ったら、本物のニッコーさんの看板を磨くキュ!!」
聡美は金貨の袋を抱え、全力で小屋へと走り出した。
その背中には、もう「じゃない方」の勇者の影はない。日本の製造業の威信を背負い、ゲートへと向かう「真の勝者」の姿があった。
まさかの「GUのジーンズ」と「ロリエ」が伝説級アイテムとして認定されるという、なろう系最大のカタルシス。
日本の技術力(と聡美の女子力)が、ついに帰還の道を切り拓きました。
次回、最終回・エピローグ「おかえり、キュ。」
*なお、大吉宇都宮店は日本最大級の売上を誇るとかなんとか・・・




