私の存在意義キュ!
就職活動に失敗し、安心しつつも自分の存在意義が心配になる聡美
しかし、異世界は聡美のおかげで変貌していた
ある夜のこと。
聡美は小屋の前で、パチパチとはぜる焚き火をぼんやりと見つめながら、膝を抱えてぽつりと呟いた。
「……私、異世界にいても意味ないキュ……」
ピロリン!
転生神『……ん? どうした、急に。低気圧のせいか? それともKindleの新作レディコミが延期にでもなったか?』
「……だって……スキルもないし、魔王も倒せないし、派遣の面接にすら落ちたし……。なつみちゃんが来てたら、もっとキラキラ活躍してたはずキュ。街の人を助けたり、魔王と優雅に交渉したり……。私なんて、ただの『じゃない方』の勇者キュ……」
聡美の声が、夜の静寂に沈んでいく。
「毎日小屋に引きこもって、お腹が空いたら『ピ』して、まんじゅう食べて、ゴロゴロしてるだけキュ。何の役にも立ってない、ただの税金の無駄遣いキュ……」
転生神が諭すように話しかける
『……。……聡美、お前は自分がこの数ヶ月で何をしたか、本当の意味で分かってないだろ?』
「……? 何って、不摂生な生活をして、神様の胃を痛めさせただけキュ」
『いいから。ちょっと、街に行ってみろ。今すぐだ』
「……今からキュ? 夜キュ? ドラゴン便の再配達も来ない時間だキュ」
『いいから行け。お前に見せたい「答え」があるんだ』
* * *
◆ 不夜城:異世界ギガロポリス ◆
聡美は渋々、異世界マタゴニアのフリースを羽織って小屋を出た。
冷たい夜風を切り裂き、いつもの街へと向かう。しかし、街の入り口に立った瞬間、彼女は息を呑んだ。
「……え……。これ、私の知ってる街キュ……?」
目の前には、眩いばかりのネオンが煌めく「不夜城」が広がっていた。かつては街灯もまばらで、夕暮れ時には静まり返っていた寂れた宿場町が、今や深夜まで人々――そして角や牙を持つ魔族たち――で活気に溢れ返っている。
『聡美、お前が来る前、この街は「百年続いた大不況」のどん底にいたんだ。若者は都会へ逃げ、人口は最盛期の半分まで落ち込んでいた』
「……」
『でも、お前が来てから全てが変わった。お前が毎日、欲望のままに「ピ」で買い物しまくったおかげで、天界の純金がダイレクトに市場へ流れ込んだ。その莫大なキャッシュが商店に、農家に、そして物流へと巡り……経済の歯車が狂ったように回り始めたんだ』
聡美は夢遊病者のように、光り輝くメインストリートを歩いた。
そこには、巨大な「魔界ヨドバシビル」がそびえ立っていた。10階建ての全面ガラス張り。1階には「最新魔導具・カメラ」、2階には「魔界PC・ゲーミングmPAD」、3階には「調理家電・バルミューダ(魔界版)」……。
「……ヨドバシキュ……。ポイントカード、作れるキュ?」
さらに隣には、お馴染みの赤と白のロゴ――「異世界ユニクロ」。店内はインバウンドの魔族観光客でごった返している。
「この『極暖ヒートテック』、氷結魔法のデバフを無効化するぞ!」
「『エアリズム』の速乾性なら、マグマ地帯の偵察も余裕だな!」
聡美はある異変に気づいた。レジに並ぶ魔族たちが、一様に「青と黄色のカード」を差し出しているのだ。
「……キュ? あれ、見覚えがあるキュ」
『ああ、あれか。お前が「ポイントが貯まらないと損だキュ!」って毎日喚き散らしたせいで、天界が急遽導入したんだよ。【転生(T)ポイントカード】だ』
見れば、レジカウンターの至る所に「Tポイント貯まります・使えます」の旗がたなびいている。
「カードはお持ちですか?」
魔族A「ああ、これだ。今日はポイント3倍デーだったな!」
魔族B「貯まったポイントで『こしあんまんじゅう』と交換するんだ……これが俺の唯一の楽しみなんだ……」
かつて勇者を殺そうとしていた魔族たちが、今は必死に「200Gで1ポイント」を貯めるために、真面目に労働し、経済を回している。
『お前が「異世界GU」や「異世界ヒートテック」を執拗に買い漁ったおかげで、この街に「ファストファッション」と「ポイ活」という二大文化が爆発的に根付いた。さらに、お前の「翌日配送」への異常なこだわりが、物流ドラゴンの過労死……じゃなくて、効率的なハブ拠点の整備を促した。今や辺境の村にまで、お前の好きな「キュレル」と、Tポイントの加盟店が届くようになったんだ』
* * *
◆ こしあんの奇跡、勇者の涙 ◆
街の中央、聡美が毎日通い詰めていた小さな「まんじゅう屋」の前まで来た時、彼女は足を止めた。
かつては店主が暇そうに髭をなでていた店に、今は深夜にもかかわらず長蛇の列ができている。
そして、掲げられた看板には大きな文字でこう書かれていた。
『祝・ついに完成! 伝説の黄金比:こしあんまんじゅう!』
「……えっ」
聡美が列の端に並ぼうとすると、奥から注文を捌いていたドワーフの店主が、彼女の姿を見つけて目を見開いた。
店主「グルシャッパー!!(伝説の買い物客!!)」
「キュ?」
店主は作業を投げ出し、ホカホカと湯気を立てる出来立てのまんじゅうを一つ、大切そうに聡美へ差し出した。
店主「グルシャッパー、コシアン、デキタ!!(あなたが求めていた「コシアン」、ついに再現できたぞ!!)」
「……っ!」
聡美は震える手でそれを受け取り、一口、かじった。
「……っ……!!!!」
舌の上で溶ける、滑らかなこしあん。
上品で控えめな甘さ。
赤ちゃんの頬のようにふわっふわの皮。
「……これキュ。これだキュ……!! 日本の老舗で食べた、あの味と同じだキュ……!!」
店主は、煤けたエプロンで涙を拭いながら笑った。
店主「アナタ、マイニチ、カッテクレタ。ツブアンシカナイノニ、カッテクレタ。ダカラ、オレ、ガンバッタ! アナタ、コシアン、ダイスキ。ダカラ、オレ、ツクッタ!!」
聡美は、たまらず泣いた。
自分が「ただの無駄遣い」だと思っていた行為が、一人の職人の情熱を支え、一つの文化を生み出していた。
「……ありがとうキュ……。本当に、美味しいキュ……。生きててよかったキュ……」
* * *
◆ 経済の救世主 ◆
その夜、小屋に戻った聡美は、いつになく穏やかな表情をしていた。
『……どうだった? 自分の「足跡」は確認できたか?』
「……すごかったキュ。街が、私の知らない色に染まってたキュ……」
『お前が「ピ」で天界予算を爆撃し続けた結果、この街のGDPは以前の2倍以上に跳ね上がった。お前は、魔王を倒さなかった。剣も魔法も使わなかった。でも、圧倒的な「経済」の力で、この世界の一部を救ったんだ』
「……私、役に立ってるキュ……?」
『ああ。お前がいなければ、あの店主は店を畳んでいただろうし、魔族たちは今も凍えて暮らしていただろう。お前は立派に、この世界の「消費の女神」だよ』
聡美は、店主が持たせてくれた残りのまんじゅうを見つめた。
「……私、もうちょっとここにいてもいいキュ?」
『……ああ。お前が満足するまで、いくらでもいろ。ただし、限度額の相談は逐一しろよな』
「……ありがとうキュ」
その夜、聡美は久しぶりに、未来への不安を感じることなく、深い眠りにつくことができた。
ピッ!
【こしあんまんじゅう×10 保存用・鑑賞用・布教用 購入完了】
明日も、この街で。
「ピ」という名の加護と、最高級のこしあんと共に、彼女の戦い(ショッピング)は続いていく。
ついに「存在意義」を見出した勇者(?)・橘聡美。
彼女の消費行動が、後に異世界の歴史書に「経済大革命」として刻まれることを、今の彼女はまだ知らない。




