就職活動キュ
快調に「ピ」で、転生神の予算を使い込む聡美、転生神が対策を考え・・・
ある日の昼下がり。聡美が小屋で「人をダメにする異世界クッション」に埋もれ、mPADでレディコミを読んでいると――リストバンドが、いつになく威厳のある音で鳴り響いた。
ピロロロロン♪
『聡美、緊急通達だ』
「キュ? 今、いいところなんだどキュ……。魔界社長が崖ドンした瞬間キュ……」
『聞け。上からの命令だ』
「……」
聡美は、渋々mPADを置いた。神様の声が、いつになく事務的で冷たい。
『お前、魔王城で総務の派遣を募集してるから、職場見学(面接)に行ってこい』
「……キュ?」
聡美は、数秒間、彫像のように固まった。
「……働くキュ?」
『そういうことになるな』
「……私が? 魔王城で? 総務?」
『そう。少しは「ピ」の金を自分で稼げ、って上が言ってる。天界の予算は、お前のまんじゅう代で火の車なんだよ』
「……働きたくないキュ……。小屋にいたいキュ……」
『甘えるな! 明日、異世界派遣の営業が迎えに来る。ちゃんと準備しておけよ。以上だ!』
通信が切れた。聡美は、再びクッションに深く顔を埋めた。異世界に来てまで「職務経歴」を問われる日が来るとは、誰が想像しただろうか。
* * *
◆ 魔王城総務部・5階 ◆
翌日。聡美は、渋々ながら「異世界GU」で新調したスキニーパンツとブラウスに身を包み、派遣営業のエルフの女性に連れられて魔王城へと向かった。
目の前に現れた魔王城は、禍々しい外観とは裏腹に、内部は驚くほど――普通のオフィスビルだった。
「……え、これ魔王城キュ? ただのオフィスビルキュ……」
派遣営業「ええ、総務部は5階ですよ。さあ、行きましょう。遅刻は厳禁ですよ」
エレベーターで5階へ。
チーン♪
扉が開くと、そこには見慣れた「オフィスフロア」が広がっていた。デスクが整然と並び、パソコン(魔界製)が置かれ、角や翼の生えた社員たちが黙々とキーボードを叩いている。
「……普通のオフィスキュ……。絶望的なまでに既視感があるキュ……」
派遣営業「お世話になります。候補者の橘を連れてまいりました」
面接官(角の生えた鬼族の男性)「ああ、お待ちしておりました。総務部の課長です。よろしくお願いします」
* * *
◆ 絶望のスキル・ミスマッチ ◆
会議室に通された聡美。
テーブルを挟んで、面接官が厳しい視線で書類(魔界履歴書)を見つめている。
面接官「では、早速ですが……橘さん。あなた、何か固有スキルはお持ちですか?」
「……ないキュ」
面接官「……え?」
「スキル、ゼロキュ。固有スキルは『ピ』っていう、ただの決済機能だけキュ」
面接官「……そ、そうですか……。では、実務スキルを確認します。当社の標準ソフト『魔界オフィス365』は使えますか?」
「……使えないキュ」
面接官「……『魔界エクセル』でのVLOOKUP関数やマクロは?」
「……出来ないキュ。そもそもOSの言語が読めないキュ」
面接官「……『魔界ワード』は?」
「……それも無理キュ。手書きならなんとか……」
気まずい沈黙が流れる。面接官のペンが、無情にも「スキル:無」の欄に丸をつけた。
面接官「……では、何か……現世で得意だったことは?」
「……レジ打ちキュ」
面接官「……レジ?」
「ウェルシアで三年やってたキュ。あと、品出しと、賞味期限切れ間近のまんじゅうの在庫管理表作りキュ。紙ベースなら任せてほしいキュ」
面接官「……ウェルシア……? 魔法の呪文ですか?」
「現世の、最強のドラッグストアキュ」
面接官「……はぁ……」
面接官は、最後に一つ、確信を突くような質問を投げかけた。
面接官「……橘さん。一つお聞きしたいのですが……あなたは、なぜ我が社に応募されたんですか?」
「……上からの命令キュ。自分の意志じゃないキュ。本当は今も小屋でクッションに埋もれていたいキュ」
面接官「……。分かりました。本日はありがとうございました」
* * *
◆ 不採用、そして安寧へ ◆
翌日。
小屋で、聡美がいつものように「こしあんまんじゅう」を食べていると、派遣営業から通信が入った。
派遣営業『橘さん、昨日の面接の件ですが……』
「キュ?」
派遣営業『……残念ながら、お力添えできない結果となりました。先方から「ITリテラシーが絶望的に不足している」「業務に対する熱意が皆無」という理由で……申し訳ございません』
「……そうキュか。それは残念(棒)だキュ」
派遣営業『また条件に合うお仕事(レジ打ち等)がありましたら、ご連絡いたしますので……』
「……キュ。ありがとうキュ」
通信が切れた。
聡美は、まんじゅうを大きく一口かじった。
「……それでいいキュ。私は、選ばれし待機勇者(無職)キュ」
ピロリン!
転生神からの通信が来た
『……聡美、面接落ちたらしいな。経理から「教育コストがかかりすぎる」って突き返されたぞ』
「落ちたキュ。スキルゼロだから当然の帰結キュ。合理的判断キュ」
『……お前、わざとやっただろ』
「ちゃんとやったキュ。でも魔界エクセルは、セルの枠線が魔方陣でできてて怖かったキュ」
『……はぁ……。もういいよ、分かったよ……』
聡美は、再びクッションの深淵へと沈み込んだ。
「やっぱり小屋が一番キュ」
ピッ!
【こしあんまんじゅう×5 購入完了】
こうして、聡美の「就職活動」は、わずか一日で幕を閉じた。
彼女は、改めて「働かない生活」の素晴らしさと、自分の無能さがもたらす平和を噛み締めるのだった。
天界のデスクで、神様は天を仰いだ。
『……この子、本当にどうすればいいんだ……。誰か、レジ打ちだけの魔王でも召喚してくれ……』
魔王城のハイテク化についていけず、見事に不採用を勝ち取った聡美。
このまま異世界ニートを続けるのか現世に強制送還されるのか?




