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異世界で、平和を願う。  作者: ちょこぼーらー
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153 安心安全

 猛獣に遭遇する心配がないらしいので、最短距離で山脈へ向かう華たち。


 森の中を突っ切って奥へ奥へと進んで行くわけだが、本当に魔獣や猛獣に一切出くわさない事に華は感心していた。…はじめのうちは。


(安全なのはいいことだけど…)


 草原地帯には大小の森が点在している。

 森を抜け、また次の森を抜けと、山脈に向かって進んでいると、時折退避し損ねたらしい小動物が怯えて木の陰でふるふる震えているのを見掛けるようになった。


 どうやら伊吹の言う「動物や魔獣を来なくしている」というのは、その存在感を出しまくってひれ伏せさせているようなのだ。


(大名行列みたい)


 先程から華の脳裏では「下にー。下ーにー」と言いながら馬印を掲げている伊吹の幻影が見えている。

 何だか申し訳ない気持ちになって、森に住む動物達の為にもとっとと森を抜けようと歩みを速める華だった。




「ほら。手を出せ」


「ありがとう」


「ひよっ」


 疲れて休憩すると、華が両手で作ったお椀に伊吹が水を出してくれる。

 それを月子と一緒に飲む。

 最初の休憩で例によって土器を作ろうとした華だったが、草原や森の中では粘土っぽい土はなかなか見付からない。地面を掘ればあるのかもしれないが、今の華はスコップひとつ持っていない。改めて装備を確認するまでもなく、華の持ち物はラジネ作の刀と薙刀のみ。手拭いひとつ持っていないのだ。

 そして武器を持っていても戦う相手がいない。


「どこかに川とかがあればいいんだけど…」


「なんだ。…俺の水が飲めないっていうのか?」


「ううん。伊吹くんのお水、とっても美味しいよ!そうじゃなくて」


 華はどこかの酔っぱらいみたいな事を言うなあと思いながら、川底をさらって黒曜石みたいなのがあれば木を削ってお椀のようなものが作れるかもしれないし、お魚が獲れれば食料になるし、ついでに水浴びも出来る事を伊吹に話した。


「伊吹くんはあの川でお魚を獲ってたんじゃないの?」


「俺は魚は食べない」


 では普段何を食べているのかと訊くと、なんと伊吹は食事をしない事が判明した。


「大気に含まれるチカラの素…魔素と呼ばれるものを自然と取り込んでいるからな。木の実や果物なんかは食べたことがあるが、まあそれだけだ」


 川へは水浴びや滝を眺めに行っていたのだと言われて、華はふと思い出す。


「あ、でも、北斗は干し肉とか好物でよく食べてたよ?」


 正直華が持て余していた大量の干し肉をいい感じに消費していた北斗を思い出す。


「それは干し肉の中の魔素が良かったんだろうな。魔獣の肉だったんじゃないか?」


「そう!よく分かったね!?」


 華のところの干し肉は正に魔獣肉だらけだった。落ち化蛇に岩熊に大きな猫…闇豹。魚の干物もあったが魚はだいたい華が食べてしまう。


「魔素とは世界を循環するものだが、それが淀み溜まると魔獣が生まれる。…動物とかが魔素を体に必要以上に溜め込むと魔獣になるんだ。だから魔獣の肉なら他の動物の肉や木の実よりも含まれている魔素が多いんじゃないかと思ったんだ。…俺は食べないがな!」


「ひよひよ~」


 伊吹が力強くお肉食べない宣言をしたとき、いつの間にか何処かへ出掛けていたらしい月子が何か大きな葉っぱをくわえてぱたぱたと飛んで戻ってきた。

 華の顔より大きな葉っぱを二枚、華に受け取らせると、自分もその上にぽとりと落ちた。大きな葉っぱを運んで疲れたようだ。


「おかえり。この葉っぱを採りに行ってたの?大きいねえ」


「ひよ~。ひよひよひよっ」


 華に持たせた天狗の団扇のような青々とした大きな葉っぱの端をくわえて月子が何かをしようとしているのを見守っていると、伊吹の通訳が入った。


「ああ、なるほど。…その葉っぱで水を入れる器を作ればいいんじゃないかってさ。確かにな」


「あ!なるほどー!月子ちゃん賢い!」


「ひよひよっ」


 偉いね賢いねと褒め倒すと、ふわふわの毛をさらにふっくらさせて超絶可愛らしい毛玉になった月子を見て華が感動した時。


 パシッ、バチッ。


「きゃあっ」


「あっ、こら…!」


 興奮し過ぎたのか、月子が軽く放電した。


「ひよ~」


 大きな葉っぱの上だったので大した被害は無いが、葉っぱを少し焦がしてしまった月子がしょんぼりする。


「だ、大丈夫だよ!月子ちゃん、焦げたの端っこだけだから!ほらっ、見てて」


 華は月子を葉っぱに乗せたまま、折ったり寄せたりしてお椀を形作っていく。二枚あるので二重の丈夫なお椀があっという間に出来た。


「ひよ…」


「ほら、月子ちゃんが探してきてくれた葉っぱで素敵なお椀が出来たよ。これで一緒にお水飲も?」


「ほら」


「ひよっ」


 月子が慌ててお椀から出て縁に止まると、伊吹が魔法で綺麗な水を出した。

 それを月子と華とで交互に飲む。


「おいしいね」


「ひよひよっ」


「よかったな」



 そうして見付けた木の実をかじったりして休憩もしながら丸1日歩いても、山脈まではまだまだ距離があるようだった。

 夜は伊吹が柔らかな草のベッドを作り、その上で三人引っ付いて眠る。


 華は武器以外何一つ持たないで放り出された割りにはそれほど苦労してない事に感謝しながら、伊吹の毛皮に包まれたお腹を枕に目を閉じた。

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