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異世界で、平和を願う。  作者: ちょこぼーらー
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141 世界の歪み

 アゼリアル大山脈に連なる数多の嶺のひとつにそれはあった。


 鬱蒼と木々が生い茂る山の頂き。岩山が飛び出たようにそこだけ剥き出しになっている。

 その岩山の南側にぽっかりと空いた洞窟、その中に。


 大きな大きな鳥の巣が。


 自らと養い子の寝床として作った巣ではあるが、養い子は眠るとき、その折り畳まれた翼の中に潜り込んで休んでいるので、このいかにも鳥の巣といったような寝床は必要なかったかもしれない。


 ただ、こちらに移って来るときに、養い子が卵で永く過ごした環境と似せた方が喜ぶだろうと思ったまでのこと。

 こちらに移って数か月。この鳥の巣を自分の過ごしやすい寝床に調えた結果、元いた巣に酷似してしまったのはこの養い子の元と自らの大きさが似ているからだろう。それと会った事は無いが。


 元の巣を、そこにひとつだけ在った卵を見付けたのは偶然だった。




 分身(わけみ)である己の元となる存在が守護する国が心底嫌になる出来事があり、衝動的に飛び出した。

 何処でも良かった。

 国ではなくそこの人間に。嫌悪したのか。絶望したのか。

 思考がぐちゃぐちゃで混乱していた。とにかく飛び出した。


 そもそも“親”の元にいる必要もないのに、庇護されるまま生まれた場所で惰性で過ごしていただけだった。

 ぬるま湯に浸かるようにただ、祀られる“親”や祀る者達をなんとなしに眺めて永の時を漠然と過ごしていただけ。


 そんな自分が衝動的に向かったのは東の方角。何処へ向かうでもなくただ飛び出した先が東だっただけで東へ向かおうと明確に思ったわけではない。


 結果、弾かれた。


 そこは円環を戴く盾の王国。

 古来より番の神龍が守護すると云われている国。


 実際にその守護の意味を思い知ったのはその結界にぶつかった後だった。

 国境だと思われる場所には神龍が施したと思われる、見えない結界が張り巡らされていたのだ。


 人にはどれ程の効果があるのかは分からないが、自分のようなチカラのある存在を弾く結界であるのかそれとも悪意有りと見なされたのか…。

 どちらであったとしても己に該当すると、冷静に考える事が出来たのはしばらく経ってからだった。


 結界に直撃して弾かれた直後はひどく混乱していて、進めない理由も分からず2度3度と闇雲に突っ込んでは弾かれた。

 何度馬鹿のように突撃したのかは覚えていない。全身が白から血の赤に染まり、翼が半ばもげ地に臥して漸く止まる事が出来た。

 それでもしばらくは闇雲にじたばたもがいていたが、力尽き時が過ぎると盾の王国の言い伝えを思い出した。


 盾とは具体的にはこの結界の事かと。


 そして結界に衝突して傷だらけのずたぼろになり地に臥して、己が消えてしまいたかったのだと気が付いた。

 ただ消滅するのではなく、ひどく痛め付けられて消えたかった。打ちのめされたかった。

 そうすることで何の罪が許される訳でも何の償いになる訳でもないのは分かっている。

 己ごと、世界を、すべてを薙ぎ払ってしまいたかった。


 そうして冷静になってくると、今度は直近の己の行動に血の気が引いた。


 龍神の守護する国の結界に対して何度も突撃した行為。これは明確な敵対行動ではないのか。

 いくら己に国や龍神への攻撃の意思が無くても、攻撃された側からしたら攻撃されたという事実しかないのだ。


 弁明しなければ。

 どうやって?


 攻撃の報復が恐ろしかった。

 報復は是非もなし。

 恐ろしいのはその報復の向かう先。


 どうか。

 どうか自分に。


 “親”も、“親”の守護する国も関わり無いのです。

 すべて愚かな自分が仕出かした事。

 自分に神罰を降されますよう。


 国を守護する“親”の分身である自分が結界を破ろうと攻撃を繰り返したのだ。

 国としての攻撃とみなされてもおかしくはない。


 しかし、いつまで経っても神龍の罰は自分には降りて来ない。

 傷付き地に臥したままでは“親”の守護する国の様子も確認できなかった。




 悶々としたまま祈るように神罰を待っていると、時間が経つにつれゆっくりと傷が癒えてゆく。

 生まれて此の方怪我をした事など一度も無いが、自分のような存在はたとえ傷を負っても自然と回復するものだと知っている。

 そうして望まずとも血が止まり、少しずつ回復し始めた頃、すぐ側に在る存在に気が付いた。


 倒れている自分のすぐ横にある大岩。その上に。


 翼は千切れかけのままだったが、風の魔法で大岩の上に体を運んだ。

 ずたぼろのままでは魔法も貧弱で、少し風を使っただけでまた力尽き大岩の上で倒れ込んだ。


 いつの間にか頂点にあった一日欠けた月を見ながら、傍らの存在を感じていた。


 大岩の上には大きな鳥の巣があった。

 その存在がその中にいるのを、回復を待ちながら感じていた。


 いつの間にか眠っていたようで、気が付いた時には朝日が昇り、千切れかけの翼も少しずつくっつき始めていたが、傷の確認よりもまず巣の中を覗き込んだ。


 大きな大きな鳥の巣の中にひとつ。

 胎動するチカラの卵。


 眺めていると、疲弊した精神が癒されていく気がした。




 いつ孵るとも知れない卵を眺めるそれは思いもしていない。


 チカラのある存在である自分が結界に挑んだ事で(ひず)みが生まれた事を。


 神龍の強固な結界に衝突する度に、空に、空間に、世界に、時空に。稲妻のような歪みが生まれ、歪みよりこの世界にころりと転がり出でた別の世界の存在がある事を。

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