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ちひロト  作者: まるりんご
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名付け親とスーツ

 その姿はまるで「火の鳥」だ。開いた口が塞がらないという言葉はこの時のためにあるのだと思う

 だらしなく口を開けたままの僕をみて、ふふっと笑う姿はなんかおかしい。でも笑った時のふわったとした雰囲気や、目尻の小さなシワに、なぜだか少し安心させられる。

 何がそんなに、面白いんですか。でも、あんまり笑うもんだから、少し腹が立って言い返した。相手は少しも悪びれる様子がなく、あはは 、と笑い続ける

「だって、テレパシー使う人が火の鳥見て驚くとは思わなかったんですもん」

 いや、もんって何。おじさんが使う言葉じゃないでしょ。

 可愛いと思った自分が憎いな、あーもう!自分に喝を入れ、相手にも鋭いツッコミを入れる。

 いつのまにか目の前にあった黄金色の羽が姿を消していた。あ、無視された!

「これが私の本当の姿です。人間には火の鳥と呼ばれているようですね」

 やっぱりそうなんだ。いや、でもなんでそんな事を僕に明かすんだろう。相手の気持ちが分からず、僕はじっと相手を見つめる。

「滅多に鳥の姿にはならないのですが。貴方にお願いがありまして」

お願いって?

 純粋に疑問に思って尋ねる。まぁ、にやりと笑っている顔から察するに簡単なお願いじゃなさそうだけど

「私は名前がないんです。だから、あなたに名付け親を頼みたいんですよ」

 名付け親って。僕が……ですか?

「貴方ならテレパシーで動物と会話ができるでしょう?だから、私の国に招くときに都合が良いんですよね」

 都合が良いって……まぁ、かまわないけど。思ったより簡単な要求だし。この人に名前をつけるとしたら、こんな感じかな。

「ふむ。あなたがつけてくれた名前大切にさせて頂きますね。『ロト』ですか。あなたに名付け親を頼んで正解でした」

 ロトさんは嬉しそうにその名前を繰り返してる。割と適当に考えたけど、喜んでもらえて良かった。微笑ましく眺めていると、ロトさんがぽんっと手を叩き、何かを思い出したように話し出す。

「さて、これであの国に戻ることができますね」

 そういえば、ロトさん、人間じゃないんだよね。火の鳥って一か所にとどまらないイメージがあるけど、どんな国に住んでるんだろう。

「私たちの住んでいる国が気になりますか」

 考えているのが態度に出てしまっていたらしい。

 素直に頷いた僕を見てロトさんは一通の封筒を差し出した。

 中には一枚の紙と炎のブローチが入っている。

 ブローチには「千尋」と刻まれ、流線形の赤い宝石が埋め込んである。

「それは、私の国で開かれるパーティの招待状です。日程は3日後。ブローチをつけてきてくださいね」

 そう言い残すと、ロトさんは部屋に溶けこむように消えてしまった。パーティかぁ。スーツとか用意しといたほうがいいかも。さて、買い揃えに行きますか。

 街で一番の服屋「カルナウバロウ」は名前だけなら誰もが知ってる。ただ、店の前には見張りの店員がいて、会員以外は店に入る事もできやしない。だから、正面突破を選択する。

「すみません。会員様以外はお断りいただいております」

 案の定、女性店員の細長い腕に制された。僕は……涙目で会員カードを取り出す。すると、一瞬で目の色が変わった。

「失礼いたしました。佐野千秋様ですね。どうぞ、ごゆっくりお買い物なさって下さい」

 ごめんなさい父さん。緊急事態だから、カード使っちゃった。

 父さんは、ここの会員だったらしい。

 カードは家の掃除をしている時に偶然見つけた。それがこんな形で役に立つとは思わなかったけど。

 そんなこんなで店の中に入る事が出来たので、手短に買い物を済ませることにする。

 パーティに来ていくスーツってどんなものが良いんだろう? やっぱり、無地でピシッとかな。いや、縦縞が入ったものも捨てがたい。

 そうして、店を歩き回っていると、明るい茶色のジャケットが目に止まった。それを手に取り、同じ色合いのベストに赤いズボンを合わせてみる。

 うーん、いい感じだとは思うんだけど、なんかなぁ。つけていた蝶ネクタイを置いてみる。ん?意外にぴったりかも。よーし、これにしまーす。手を上げて、店員を呼ぶ。

 そうして、意気揚々と、店を後にしたのだった。







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