いつもの日常のはずだった一日
僕は人間の言葉が喋れない。書いたり、読んだりはできるのに。ため息をつきながら朝ごはんの準備をする。冷蔵庫の中身から作れそうな物を考えて作る。そういうのが僕は好きだ。よしっひらめいた。心の中でつぶやくと同時に小さくガッツポーズ。
出来上がった卵焼きとほうれん草のお浸し、それから春巻きのクレープをテーブルに並べて、そのあと母さんへも料理を届ける
僕の母さんは僕が10歳の時に亡くなった。父さんは僕が産まれた時に死んだと聞かされている。だから、僕は父さんの顔を見たことがない。なぜだか分からないけど写真も見せてもらえなかったし。
でも、ひとつだけ顔に炎の形のアザがあるってことは教えてくれた。
いろんな所を探しても未だに見つからない父さん、どこにいるのかな。
朝食を食べ終わってから、シチューを作るための材料が足りないことに気づいた。あちゃー、あれにはイチゴやジャガイモ、人参が必要なのにな。
仕方ない、か。お気に入りのケモミミパーカーで街に繰り出していくことにする。
僕の買い物ではスケッチブックが財布の次に大事なんだこれに欲しい物とその量を書くとお店の人が持ってきてくれる。量り売りってやつなのかな。
近くにあった呼び鈴を鳴らすと、予想以上に響いて耳が痛くなった。呼び鈴ってこんなにうるさいものだったのだろうか。
僕は人より耳が良いというか良すぎる。だから、少しの音でも聞き取れてしまう。時に役立つ時もあるけど、大半はその逆。人のうわさ話とか、言い争いとか、聞きたくなくても聞こえてきちゃうし。
そんなことを考えてる内に、店の奥から物腰の柔らかそうな店主が顔を見せた。いつものようにスケッチブックを使って買い物をする。店主から紙袋を受け取った。 明らかにイチゴの量が多い。もう一度スケッチブックを見せて首をかしげながら確認する。でも、店主はふわりとした柔らかな笑みを浮かべるだけだ。
「いいんですよ。店からのサービスですからね。丁度クリスマスの時期だし、ケーキ作ってみたら?」
店主の言葉に甘えることにした僕は、にっこり笑って頭を下げた。スケッチブックのありがとうと言う言葉を添えて。
僕はすっかり上機嫌になった。そのせいで、前がよく見えていなくて思い切り誰かにぶつかってしまう。服装と背の高さから考えると恐らく男性だ。あっ、どうしよう。とりあえず、頭を下げることにした。
その時、違和感を感じて自分の周りを見渡す。あれ、スケッチブックがない!どこ行ったんだろう。
「もしかして、これですか」
その男性が僕に向かってそれを差し出した。その顔に怒りの色は無く、赤い瞳をふわりと細めて笑っている。僕のスケッチブックだ。ごめんなさいと慌てて謝って、その後走り書きで言葉を続けた。
数分後
「本当に良いんですか。家に招いて頂けるなんて」
コクリと頷いた僕は我ながら大胆なことをしたと感じた。自己紹介をスケッチブックに書いて、椅子に腰掛けながら読んでもらおうと僕は考える。
「千尋さんですか。素敵な名前ですね」
シチューを煮込んでいる後ろでそんな声が聞こえる。恥ずかし気も無くそんなこと言わないで欲しい。
「でも、本当のことですから」
え。なんで、声に出してないのに。というか、もしかして。
僕は試しに力を使ってみることにした。
貴方は動物なんですか
「ええ。私が動物であるとよく気づきましたね」
僕の力は「動物限定のテレパシー能力」だ。だから普段はなんの影響も無い。でも、動物?目の前にいるのはどう見ても人間にしか見えない。
うろたえている僕を尻目にその人はジャケットを投げ捨て姿を変えていく。
黒髪は陽の光の様に輝く羽へと姿を変え、赤い瞳は柔らかさを失い厳しく細められた。
「」がついているのが実際に喋っている言葉です。千尋がテレパシーで喋るときは敬語です。
分かりにくいですが、おねがいします。




