第9話 おじさんと老夫婦と元凶
「ん〜……」
目が覚める。
枕元に置いたスマホを手に取り、時刻を確認する。
7時50分。
そのままボーッと画面を眺め続けて、ふと気付く。
あれ、今日って不燃ゴミの日じゃない?
「────!」
寝ぼけ眼が急速に覚醒する。
俺が住んでいる地域の自治体では、8時までにゴミを出してくださいと求められている。
正直なところ、ゴミ収集車が来るのは9時過ぎだし、間に合えばいいとは思うものの、やはり世間の目は気になるものだ。
とにもかくにも、8時までに出すのがマイルール。
俺は布団から勢いよく抜け出すと、急いで不燃ゴミを入れた袋を持って部屋を出た。
収集場所では、自治会の当番の人だろうか、出されたゴミ袋が散らからないようにまとめていた。
当番とはいえ、こうしてやってくれている人達には本当に頭が下がる。
俺は挨拶をして、ゴミ袋をちゃんとまとまったところに置く。
こういうところを世間の皆様は見ているのだ。
収集場所からアパートに戻ると、102に住む老夫婦がベンチに座っていた。
小さくて可愛いこの老夫婦は、朔田さん。
俺は心の中では、勝手に朔爺と朔婆と呼んでいる。
決して口には出さないけど。
朔田さんご夫婦は私物のベンチを部屋の前に設置していて、朝は2人で日光浴をするのが習慣だ。
俺はご夫婦の所に向い、大きな声で挨拶をした。
ご夫婦揃って耳が遠いのだ。
「朔田さん! おはようございます!」
「ああ、佐藤さん。おはようございます」
朔爺が返してくれる。
朔婆は隣でにっこりと笑っていた。
「今日も良い天気ですね!」
「そうじゃの〜、本当に良い天気ですじゃ。なぁ、婆さん」
朔婆はこくこくと頷く。
ご夫婦はいつもニコニコしており、見ている俺はいつも癒されている。
なにより小さくて可愛い。
小さくて可愛いのだ(大事なことなので2回言った)。
そんないつも可愛いご夫婦だが、朔爺が少し不安そうな表情を浮かべながら言った。
「最近地震が多いじゃろ? 儂らももう歳じゃから、何かあったらと思うと不安でのぅ。なぁ、婆さん」
朔婆は不安そうな表情を浮かべながら、こくこくと頷いた。
最近地震なんかあったかな?
記憶を辿ってみるけれど、ここ最近地震はなかったように思う。
「日に何度も揺れるからのぅ。もう日本も終わりかのぅ。なぁ、婆さん」
こくこく。
揺れているのは朔婆の首ではなかろうか。
朔爺の話を聞いていて、何かが脳裏をよぎったけれど、まあ気にしないでおこう。
その時だった。
ドカーン!
突如、爆音が鳴り響き、振動が建物と俺達を揺らす。
ご夫婦がビクッと小さく飛び跳ねた。
「佐藤! Gが出た! 助けてくれ!」
202の玄関ドアが勢いよく開き、雪野さんが声を張りあげる。
どうやらあの汚い部屋にまたゴキちゃんが出たようだった。
「また地震じゃ! 日本は終わりじゃ!」
朔爺が狼狽し、朔婆が泣きそうな顔でこくこくと頷いている。
ご夫妻が言う頻繁に起こる地震。
俺が認識していない地震。
さっき脳裏をよぎった何か。
それらが全て繋がった。
どうやら202の魔女が元凶のようだった。
「こわやこわや……」
ご夫妻が揃って拝み出す。
不謹慎ながら、俺はそれを見て可愛いと思ってしまった。
なお、本人に悪気はない。




