第8話 魔女と暇潰し
「──暇だ」
私はベッドに大の字に寝転がりながら、そう呟いた。
何もすることがない。
試しに、寝転がりながら天井の染みでも数えようかと思ってしばらく数えていたけれど、何度か同じ場所を数えたような気がして頭が混乱して中断した。
頭を横に倒し、部屋を見る。
結構な散らかり具合だが、そこは気にしない。
片付けることが苦手な私がいくら片付けをしてみようとも、結果はさらなる散らかった部屋が出来上がるだけなのだ。
それならばやらないのが一番。
やるとしたら誰かの手を借りなければ綺麗にはならない。
「う〜、あ〜」
ベッドの上を左にゴロゴロ、右にゴロゴロ。
あっち行ったり、こっち行ったりで世界が回る。
あぁ、私は何もすることがなくて悩んでいるというのに、地球も社会も常に回っているのだ。
なんてどうでもいいことが頭をよぎるくらいに、
「暇だ」
もう一度部屋の惨状を見る。
あ〜、汚い。
また佐藤を呼んで片付けてもらおうか。
報酬はどうしたものか──閃いた。
佐藤だ。
そうだ、佐藤の所に行こう。
隣の部屋に住む、くたびれた30代後半の男性。
くだらないことで盛り上がれる、最高の暇潰し相手。
思い立ったらすぐ行動。
私は、どっこいしょ、とベッドから降りると、多少身なりを整えて部屋を出た。
ピンポーン。
お隣の201のインターホンを押す。
反応がない。
もしかしたら寝ているのかもしれない。
都会で働いていたが辞めて引越してきたとか言っていたから、もちろん佐藤も暇人なはずだ。
もう一度インターホンを鳴らす。
ピンポーン。
「…………」
ピンポンピンポンピンポンピンポンピンポーン。
反応なし。
どうやら不在のようだった。
「ガッデム」
私はそう言いながら考える。
「仕方がない、散歩でもするか」
人間、植物と同じで日光に当たるのも大切だ。
しかし、私は歩きたくない。
なので、一度部屋に戻り、実家からパクってきた大きな箒を手に取る。
そして改めて外に出ると、日頃から携帯している樫の木で出来た触媒の棒を振って、箒に魔法をかけた。
箒がフワッと宙に浮く。
私は箒に腰掛けると、そのまま空高く上昇し、町を見下ろしながら空の散歩を開始した。
□ □ □
空を飛びながら、普段は見れない町の景色を楽しむ。
アパートの近くを流れる川。
時折白鳥が優雅に泳いでいるが、今日は姿が見えなかった。
その先にある小学校の校庭では、子供達がサッカーをしている。
しばらく試合の様子を見ていたが、何人かがこちらを見上げ始めたので退散を余儀なくされた。
小学校近くの商店街は人がまばらだ。
良い店が並んでいるのだが、少し先に出来た商業施設の影響をもろにくらっている。
さらに少し飛んでいくと、小高い山がある。
特に何もない山だが、
「──これはなかなか」
この高さから見る夕日は、遮る物が何もなく、とても綺麗に見えた。
少しずつ沈んでいく夕日をしばし眺めてから、私は進路をアパートに戻した。
アパートの近くまで飛ぶと、道を歩いている佐藤の姿を発見する。
何やら袋を持っているから、コンビニにでも行っていたんだろう。
「おーい、佐藤」
上空から声を掛ける。
私の声に気付いた佐藤は、その場できょろきょろと周囲を見渡すが、そこに私はいない。
その姿がなんだか面白くて、思わず笑みが溢れた。
私はゆっくりと佐藤の隣に下りる。
突如上空から下りてきた私を見て、佐藤は目を見開いていた。
「え、空とか飛べるの!?」
「ふふ、魔女だからな」
「おおお! すげー!」
「私の隣に乗ってみるか?」
「いや、俺高所恐怖症だから」
「なんだそれ」
思わず、ぷっ、と吹き出してしまった。
夕日が沈み、辺りは暗くなってくる。
その中を、私達は並んでアパートへと帰った。
なお、掃除はしていない。




