第10話 おじさんと魔女とガジュマル
部屋を整頓するために、カラーボックスでも購入してみようか。
なんて思いながら、私はホームセンターを訪れた。
一通り見てみたけれど、心惹かれる物がなく断念。
カラーボックスを購入してみようかと思い立ちはしたものの、そもそも掃除をする気が起きない。
せっかく来たからと店内をウロウロ見回ってみる。
日用品、材木、工具、家具、自転車。
いろいろなコーナーを素通りしてきた私の足が、とあるコーナーで止まった。
観葉植物のコーナー。
そこに並んでいる1鉢のガジュマル。
まだ葉の数も少なく、可愛らしいそのフォルムに、私の視線は奪われた。
■ ■ ■
ベランダで煙草を吸っていると、小さな紙袋を抱きながら歩いている雪野さんを発見した。
「おーい、雪野さん」
上から声をかけてみると、雪野さんは歩みを止め、俺を見上げる。
なんだかご機嫌が良いのか、表情が若干緩んでいた。
雪野さんは抱えた紙袋を俺に見せつけるように持ち上げると、ふふん、と俺に聞こえるように鼻を鳴らす。
「何それ?」
「気になるか? 気になるだろう! なら部屋に来るといい!」
そう言って、雪野さんは歩きだし、部屋に戻っていった。
あの口振りだと、あの紙袋の中身を俺に自慢したいんだろうな、というのが伝わってくる。
まぁ、自慢話でも聞きに行こうじゃないか。
雪野さんが部屋に戻ったのを、玄関ドアの音で確認し、少ししてから俺は動き出した。
せっかくだから煎餅でも持っていこう。
俺は最近コンビニで見つけたお気に入りの煎餅の袋を手に取り、雪野さんの部屋を訪ねた。
「ふふふ、よく来たな、佐藤」
インターホンを鳴らすと、上機嫌な雪野さんが出迎えてくれる。
お邪魔します、と言いながら中に入り、床に乱雑に置かれているあれやこれやを華麗に避けながら、俺は居間のテーブルに向かう。
もう慣れたものだった。
「煎餅持ってきたよ」
「すまない。今お茶を持っていく」
そう言って雪野さんが持ってきてくれたのは紅茶だった。
煎餅には緑茶、と言いたいところだが、俺もコーヒーと一緒に食べたりしてるから別にいいか。
紅茶もお茶だし。
「で、雪野さんはさっき何を買ってきたの?」
早く話題を振ってほしそうにソワソワしていた雪野さんの期待に応えて、俺は聞いた。
すると、雪野さんは窓際を指差す。
そこには、カーテン越しに日光を浴びている、1鉢の植物が置かれていた。
どうやら買ってきたのはこの植物らしい。
「ガジュマルだ! 可愛いだろう!」
雪野さんの表情が緩い。
よほど嬉しいんだろうな。
ガジュマルは、透明なガラス容器に植えられていた。
「あれ、土じゃなくてBB弾みたいなやつが入ってるけど?」
「それはハイドロボールというものらしい」
「ハイドロボール?」
「店員に聞いたら、粘土を高温で焼いたやつらしい」
ほう、そんなのがあるのか。
「土の代わりに水耕栽培に使われるみたいで、虫がわきにくいらしい」
それは大切だ。
ただでさえ散らかっている部屋に虫がわいたら大変だ。
いやまぁ、もうGとか出てるけどな、Gとか。
「何か?」
「イヤ、ナンデモナイデス」
顔に出ていたらしい。
気を付けなければ。
それにしても、現在日光浴中のガジュマルは、葉が少なく観賞するには物足りない気もする。
「魔法で育てたりするの?」
「そんなことはしない。この子はこの子でちゃんと生きてる。私は水をやったり日当たりの良いところに置いたりして、成長の手伝いをするだけだ」
そう言いながら、雪野さんはガジュマルの葉をツンツンとつついた。
俺は、ほぅ、と驚いた。
いつもなにかと魔法で解決しようとする雪野さんだが、ちゃんと自然の摂理というのだろうか、そういうところはちゃんと守るんだな。
そこそこ交流して長いけれど、なんだか雪野さんの新しい一面を見たような気がした。
■ ■ ■
佐藤が帰ってからしばらく経ち、日が沈んで夜になった。
私は窓際に置いていたガジュマルを、居間のテーブルの上に移す。
そして、電気の紐を持ちながら、
「おやすみ」
とガジュマルに言い、電気を消す。
ベッドに潜り込み、ガジュマルに視線を向ける。
カーテンの隙間から差し込む月明かりが、ガジュマルを淡く照らしていた。
植物は育てられても、部屋は片付かない。




