第2話 おじさんと魔女と停電
朝から強い雨が降っている。
空を覆う雲は、普段の雨の日以上に黒い。
そんな外の様子を、俺は煙草を吸いながら、窓際でボーッと眺めていた。
「あ、光った」
遠くの方で黒い雲が一瞬光った。
雷が鳴っているんだろう。
そのうちこっちの方でも落ちるかもしれない。
「天気が悪い日は昼寝に限る」
俺は煙草を灰皿に押し付け消すと、畳に無造作に敷きっぱなしの布団に寝転び、目を閉じた。
ドンドンドン。
何かを叩く音がして目が覚めた。
寝ぼけ眼を擦りながら体を起こし、どうやら玄関のドアが叩かれているのだと理解する。
電気の点いていない薄暗い部屋を、後頭部とお腹をポリポリ掻きながら通過していき、玄関ドアのドアスコープから外を見た。
隣の部屋の雪野さんが立っていた。
「ふぁ〜……、どうしました?」
ドアを開けながら御用聞をする。
すると雪野さんは「佐藤、お前は寝てたのか!」と言いながら、
「停電だ!」
「はぁ?」
「だから停電だと言っている!」
「はぁ……」
まだ頭が回っていない。
「さっき雷が落ちてブレーカーが落ちたんだ! 戻しても電気が点かない! どうすればいい!?」
昼寝する前に遠くの空に見ていた雷が、どうやらこっちでも落ちたらしい。
雪野さんの体を少しどかして、周りの住宅の様子を見る。
どこの家も電気は点いていなかった。
ここいら一帯が停電しているんだろう。
「ブレーカー上げとけば、そのうち復旧するよ」
「そ、そうか。ならいいんだが……」
「じゃあ、俺はこれで」
言って、部屋に戻り玄関ドアを閉めようとすると、雪野さんが足を突っ込んできて邪魔された。
「まあ待て佐藤。もう少し話をしようじゃないか」
「いや、俺もう少し寝たいんで」
「まだ寝るのか! もう夕方だぞ! 夜寝れなくなるぞ!」
あんたは俺のお母ちゃんか何かか。
その時、少し離れたところで空が光った。
小さめな雷鳴。
それと同時に、雪野さんの手が俺の袖を掴む。
ほほう、これはこれは。
「雪野さん、雷怖いんでしょ」
「そ、そんなことはない!」
まぁいいや、せっかくだから話し相手になってもらおう。
落ちていたブレーカーを上げ、雪野さんを部屋に案内し、俺は壁に立てかけていた折り畳みのテーブルを広げる。
そこにお皿を置いて、蝋燭を1本立てた。
ライターで火を付けようとするけれど、どうやらオイル切れのようだった。
「私に任せろ」
雪野さんはどこからともなく触媒の棒を取り出すと、ちちんぷいぷいの如く、蝋燭に火を灯す。
「あ、ついでに煙草にも火をもらっていい?」
「私はライターではないぞ」
蝋燭の明かりに照らされた雪野さんの顔が、ムスッとなる。
「まぁ、今回はいいだろう」
「おねしゃす」
煙草を咥え、火を付けてもらう。
しかし、火力が強くて半分程が消し炭になった。
そして俺の貴重な前髪も少し焦げる。
「すまない、強すぎたな」
「次やったら、もう雷が鳴っても相手してやらんぞ」
「べ、別に雷が怖いわけではない!」
慌てて否定しつつ、と思ったらくすくす笑いながら、雪野さんは改めて煙草に火を付ける。
今度はいい感じの火力で、俺はフィルター越しに吸い、火を定着させる。
途端、電気が点いて部屋が明るく照らされる。
復旧したようだ。
「これでお子ちゃまも安心ですな」
「誰がお子ちゃまだ! 私は23だぞ!」
そして2人して笑い合う。
窓から見える遠くの空は夕陽で明るく、黒く分厚い雲も、どこかに流れていったようだった。
雷が怖い23歳。




