第八話 失ってもいい駒
アリシアの館の庭には、俺たちが運ばせた魔獣の死骸が積み上がっていた。
「えっと、状況を報告していただけますか?」
アリシアの笑顔がどこか引きつっているように見えなくもない。気のせいかもしれないが、笑顔から怒っているのかどうか分からなくて少し怖い。
あの後、フィアたちの家から荷車を持ってきて、狩った魔獣をアリシアの館に運び込むことにした。
俺たちが毎回館まで往復するのは効率が悪いので、街の前まで運んで、後はフィアたちの使用人に運んでもらったのだ。
そして、日が暮れかけたので俺たちが戻ってくると、これだった。
使用人たちは俺たちが言ったとおりにしただけで悪くない。
そっと横を見ると、フィアも笑顔の圧には弱いのか何も言わない。
「はい。もしかしたら、狩った魔獣に価値があるかもしれないという話になったのです。でも、僕たちでは分からなくて、アリシア様に見てもらおうということになって」
フィル! 偉いぞ! さすが男の子だ! 俺も男だが、それは横に置いておく。
「価値?」
「ほら、魔獣から取れる素材って武器を作るのに使えたり、薬を作るのに使えたりとかよくあるだろ? それで価値が出るんじゃないかって」
「それに、最悪肉が取れるから無駄にはならないわよ」
フィルが言い出してくれたので、とたんに話しやすくなって俺とフィアが畳みかける。
「なるほど。ラクト様、よくご存じですね。錬金術は使えなかったとお聞きしたのに」
「まぁな。できはしなかったが、いろいろ勉強はしたんだ」
本当はただのゲーム知識だったが、たまたまこの世界でもそうらしい。
それに、アリシアは怒ってはいなさそうだった。大量の死骸を怪訝に思っていただけのようで、いつもの調子だ。
「鍛冶、錬金、それに毛皮や肉も使えそうですね。大量にいる魔獣も、見方を変えれば資源の宝庫かもしれません」
「でも、どのくらいの価値があるかは普通は分からないだろ。だから、魔獣の種類ごとに値段を決めておいて、硬貨と換えられる仕組みを作れないか?」
「シャンベル硬貨と穀物の仕組みと同じようにする、ということですね」
さすが理解が早い。
「わかりました。お父様と話してみます」
勇者募集の時もそうだったが、かなりの行動力だ。領主の娘の器なのか、それだけ切羽詰まっているということなのか。
「それと、狩場が完成し次第、次の勇者募集も始める」
「また南の森に行かせる気じゃないでしょうね? 確かにあと数日やれば狩場はできるけど、多少経験を積んだって無理なものは無理よ!」
「違う。一旦南の森の攻略は諦めて、制限時間を延ばすのを目的にするんだ。そのために、まずは隣街に行って情報を得る。魔獣から取れる資源に加えて、交易もできれば、最後の手段までの時間がもっと稼げるかもしれない」
「それなら、募集なんかしなくてもあたしとフィルが行くわ。南の森ならともかく、他の道なら平気よ」
「ダメよ!」
「そうだ。フィアには行かせない」
もうアリシアには言わせない。俺が言わなくてどうする。
異世界から来た俺が言うんだ。ここにいる人たちとは何の関係もなく、ただの数字、ただの駒として扱える俺が。
「フィアはこの街にとって貴重な駒だ。失うわけにはいかない。失ってもいい駒を使う」
何とか声を震えさせずに言えた。もうアリシアの笑顔は消えている。
三人には、冷徹な男だと軽蔑されたことだろう。それでも構わない。
そうでなければ、俺が異世界から来た意味なんてない。冷静に、合理的に判断できる。
まさに異世界転移の特殊能力だ。
ここの農民も、騎士も、フィアも、フィルも、アリシアも。
全員、ただの駒として見ればいい。
「そんな顔して言っても何の説得力もないわよ……、分かったわ」
そうして、次の目的が決まった。
勇者募集には相変わらず多数の応募があり、その中からクジで勇者が選ばれた。




